「対米従属」から脱却し、 「東アジア共同体」の実現をめざそう
国際・トランプ政権と「ディープ・ステート」
不思議なことにバイデン政権も、トランプ政権時代の強硬な対中国政策を踏襲しているようです。その背後にはトランプを今でも大統領として忠誠を尽くすペンタゴン、軍部がいます。日本の大手メディアは報じませんが、私は昨年のアメリカ大統領選挙には大規模な不正があったと考えていて、再びトランプが正当な大統領として復活する可能性も出てきていると思っています。
しかしそうなると、今、トランプ陣営から出されている「コロナ・中国生物兵器説」にも絡んで、米中対立はより悪化する可能性がある。なぜなら、中国がその生物化学兵器を使用したとなると、これは「戦争行為」です。まさしく「新しい冷戦」を本格的にあらゆるレベルでやることになる。その点は非常に懸念しています。ただし、私は「コロナ・中国生物兵器説」には懐疑的で、むしろ「コロナ・米国生物兵器説」の立場です。
トランプ大統領(いまもそうです)は、いわゆるディープ・ステート、「軍産複合体と国際金融資本の世界的ネットワーク」と私は言ってきましたが、民主党・共和党の違いにかかわりなく、アメリカを支配してきたその軍事介入主義の放棄を、2016年の選挙のときから一貫して追求してきました。それについては私は支持し、期待もしています。
「核なき世界」をアピールしたプラハ演説でノーベル平和賞を受賞したオバマの時代は、その言葉とは裏腹に、ブッシュ時代に行っていたアフガン、イラクからさらにフィリッピン、リビア、シリア、ウクライナなどに戦線を拡大し、ドローンや民間軍事会社を使った「汚い戦争」を大々的に行いました。ブッシュ政権の8年以上にオバマの八年の方が米軍による犠牲者が多かったと言われています。政権末期にはロシアとの対立がものすごく深刻化して、もしヒラリーが大統領になっていたら第三次世界大戦の可能性も含めどうなっていたかわかりません。
トランプは一方では軍事予算を拡大し、軍産複合体を潤すこともやったのですが、それは国内産業を保護して労働者の働き口を確保するという彼の公約に沿ったものでもあった。トランプの本音はディープ・ステートが牛耳る軍事介入主義の放棄にあります。
アメリカを世界一の強国、覇権国家として維持しながら、軍事介入主義を転換し「世界の警察官」の役割を本気でやめようと考えている。他国の問題に米軍が巻き込まれて、米軍の若者が命を失うのはとんでもないし、他国の防衛のためにアメリカのお金をこれ以上無駄遣いしても仕方がない。世界的レベルでの米軍基地の縮小、米軍撤退を本気で考えています。
だからこそ、オバマが拡大した戦争を収束させて、イラク、アフガニスタンからの米軍撤退も決めましたし、ドイツ駐留米軍の大幅な削減計画さえも打ち出しました。ただこれは、議会では民主党だけではなく共和党からも大反対があり、バイデン政権になって撤回されました。
北朝鮮問題についても平和的解決を目指しつつ、その問題が解決した後には在韓米軍を撤退させる意向を示しました。韓国や日本の米軍駐留経費も従来の額の数倍をふっかけましたが、撤退してもいいという意思があるからこそあのようなやり方をしたわけです。ただしまわりの側近、官僚すべて反対ですから、実際にそれは動きませんでしたが。
トランプの言う「アメリカン・ファースト」とは、「国内問題優先主義」というとらえ方が一番正しいと思います。グローバリゼーションの下で国際金融資本の利益のためにアメリカ国民の本当の利益を失うという馬鹿らしいことはやめよう、世界中の国がそれぞれ自国ファーストでやればいい。今の国際金融資本が主導するグローバリゼーションに対する反発をあのような言葉で言ったのだと思います。
そういった孤立主義的な発想があるので、今は中国との対立があるから一挙に韓国や日本からの米軍撤退にはなかなかならないとは思いますが、トランプが復活すれば、さらに世界的な、軍事基地の縮小、米軍撤退の動きも本格化する可能性もあるのではないかと思っています。
・南シナ海・尖閣諸島問題について
東アジアの安全保障の問題は、もちろん西沙・南沙諸島の南シナ海、尖閣諸島を含む東シナ海、そして香港、台湾、そういった具体的な問題として出てきます。私は、南シナ海の西沙・南沙諸島の問題は、基本的に中国とその周辺の東南アジア諸国との問題であって、当事者間で解決すべきだと考えています。
米欧各国が、とりわけ軍事的な干渉を行うことは誤りです。2016年に国際仲裁裁判所の判決が中国に不利な形で出されていますが、必ずしも普遍的な正当性を持つものとは私はみなしていません。ただその一方で、中国が強引な形で軍事的な能力をこの地域で拡大しつつあり、ベトナムやフィリッピンが脅威を感じて反発していることも事実です。当事者間の対話による平和的な解決が図られるべきだと思っています。
尖閣諸島問題については、そもそも民主党の野田政権時代の2010年に、「棚上げ合意」に反する形で中国漁船を拿捕、船長を逮捕するという衝突事件が演出されました。
その後、2012年にアメリカでヘリテージ財団のシンポジウムが開かれた際、石原慎太郎氏が「東京都による尖閣買い取り発言」をしたことが契機になり、同年、日本側の一方的な尖閣国有化が行われた結果、中国が自国の主権を主張するためにも尖閣海域に頻繁に自国の船を派遣することが常態化するようになったのです。
現在の状況を招いたそもそもの原因は、日本側にあることは押さえておくべきです。
・21世紀の超大国・インドをめぐって
アジアで鍵となるのはインドの動向ですが、米日豪にインドを含むQuad(クアッド)という四カ国連合を結成しようとする動きは、2016年に当時の安倍首相が最初に提起したと言われています。
2012年にも「セキュリティダイヤモンド構想」として提唱しています。基本的に今はアメリカ主導で進められようとしていて、21世紀の超大国になるインドを、米日やヨーロッパの側が取り込めるのか、あるいは中国の陣営に取り込まれるのかが大きな問題になっています。
インドは長年、非同盟主義を貫き、中国とは国境紛争を抱えて昨年も軍事的な衝突がありましたが、ロシアとの関係は良好で、上海協力機構にも入っています。その一方で、先行していた米日豪の戦略対話に途中から加わってQuadの一員であるかのような動きも見せてはいます。
けれども、本当に中国を仮想敵国として軍事的に対立するような形で四カ国連合、いわゆる「アジア版NATO」のようなものに本格的に加わろうとしているわけではない。これは南シナ海で一番対立しているベトナムやフィリッピンについても同じことが言えます。
これらの国は中国と軍事的に対立しても何も良いことはないことを知っていますので、もちろん自らの正当性は主張しながら、慎重に最悪の事態を避けようとしている。それを無理やりアメリカや日本が自らの陣営に取り込もうとして、うまくいっていないのが現状だと思います。
・香港と台湾をめぐって
中国に対するアメリカの基本戦略として、台湾、香港、ウイグル、チベットという、いわゆる国際社会から批判的な目が向けられる「人権問題」を連動的にとらえています。ウイグル・チベット問題は国内問題ですから別問題として考えるとしても、私はジェノサイドだという最近のアメリカの認定は、根拠に乏しく、定義的にも内容的にも全く当たっていないと思っています。もちろん少数民族への抑圧政策や、漢民族への同化政策はありますので、何らかの形で解決すべきと考えていますが。
香港については、そもそもイギリスがアヘン戦争で植民地にしたものを長年手放さなかったことが大問題ですし、香港返還が決まったときの交渉で、中国側は10年、20年の短期間における一国二制度の終了を主張していたのが50年になったことや、その妥当性について議論があったことは言及されません。
また、途中で段階的に移行していくのか、50年後に完全に一挙に統一するのか、大きく見れば二つの考え方に分かれますが、私は、過渡期において徐々に同一制度になっていくというのが自然だと思っています。その際、もちろん香港市民の意識レベルでの自由の問題もありますが、一番大きな問題は、香港を金融のハブとして利用し、植民地時代と同じように大きな利益を引き出している国際金融資本の動きです。
具体的に言えば、「アラブの春」から「カラー革命」と言われているものの背後に、必ずジョージ・ソロスやジョン・マケイン(2018年に死亡)らの策動、アメリカ、イギリス、イスラエルの諜報機関といった勢力の関与があったのと同じように、香港でも逃亡犯条例の制定に関する市民の反発を利用して、「市民的自由、言論の自由を守る」ということを口実に、そうした勢力が裏からてこ入れを図りました。でもそういった問題は欧米や日本の大手メディアでは報じられません。
さらにこうした香港情勢を利用して、昨春台湾で蔡総統の再選が圧勝という形で引き出されました。その意味で香港問題と台湾問題は連動しています。再選した蔡総統は一期目以上にアメリカへの関与を深めていて、武器を大量購入するだけでなく、アメリカの高官を次々に受け入れるという形で、事実上アメリカに「一つの中国政策」を放棄させ、一国二制度を全面的に拒否して独立を目指すような対応をしつつある。
これは台湾の人々にとって賢明な選択とは私には思えません。中国はもちろん統一を志向しているので、完全独立を既成事実化するような台湾の動きとそれに加担する外国勢力の関与については、武力行使も厭わず絶対的に許さないという姿勢を示しています。
今、台湾問題が米中対決の一番ホットな焦点になっているのは、そういう「越えてはならない一線」を、アメリカ側(それに加担する日本や英仏独)と蔡政権が一体となって越えようとしていることから来ています。
独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。