【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第3回 共感を呼ぶ「平和の少女像」 「表現の不自由展」がめざすものは何か、岡本有佳さんに聞く

前田朗

・視線の変容と理解の深まり

――右翼の反発がますますひどくなったのはアメリカに設置されたこともあります。

岡本――ソウルや台北やルソンにあっても、さほど騒ぎません。英語圏に設置されると、問題の世界史的な広がりがはっきりしますから、隠蔽するために騒ぐ傾向があるようです。ドイツでの展示にも、毎日900通もの抗議が来たそうです。組織的にやっていると思いますが、世界化することへの反発が強いのだと思います。

――平和の少女像は芸術作品であると同時にメモリアルでもある。記憶の継承や共感をどう受け止め、伝えていくかが重要です。

岡本――日本でも多くの人に感銘を与えてきたのは、作品の個別性、特殊性の中に普遍性が刻み込まれているからです。

――目線が私たちと同じ高さであるだけでなく、触れることができます。

岡本――座って記念撮影できます。見るだけでなく、触れる。触れることで参加できる。写真撮影が、単に作品を遠くから撮影するのではなく、自分を含めて撮影することに意味があります。

――私もソウルで座って記念撮影しました。

岡本――人に写してもらう人もいれば、自撮りの人もいます。

――座りながら性奴隷制の歴史を想起する。後で写真を見ながら日本軍の犯罪を振り返る。また、戸惑う人もいました。これも重要な反応だと思います。

岡本――今回の東京展では、出入口に付箋を置いておきました。見学者1600名のうち約半数の方がいろんな感想や意見を書いてくれました。それを壁に貼りだしました。「国立、素晴らしい、ありがとう」。「なぜ日本で見ることができないのか」。

写真提供:表現の不自由展・東京実行委員会

 

――直接、作品を観た上で感想を書いている。

岡本――付箋を国立市長に送りました。どう受け止めたかは知りませんが、平和の少女像を理解して共感してくれる人が確実にいることは伝わったと思います。

――攻撃されている、妨害されている。でも共感してくれる、支持してくれる人々も多く居る。

岡本――展示を妨害する人だけではありません。作品を見ずに批評する人たちも目立ちます。

――よくあるのは、「慰安婦」を少女として表象することへの批判です。

岡本――ピントがずれていますし、作品を見ていないことが丸わかりです。一目見れば、下に影が描かれていて、その影はハルモニ(老女)であるとわかります。少女を表象しているのではなく、一人の女性の生涯を扱っているのです。彫刻なのに時間を反映しています。

写真提供:表現の不自由展・東京実行委員会

 

――作品を見ていない人が「少女を表象している」などと誤解する。

岡本――イラクに暮らす少数民族の性暴力被害女性が、ドイツで平和の少女像を見て、一番感銘を受けたのが「握った手」だと聞きました。

――少女がぎゅっと手を握りしめている。なぜ手を握りしめているのか、観客はそれぞれ考えます。

岡本――強さを感じたというのです。「私は強くありたい」という意思を感じたんですね。

――かつて自己表現できなかった少女を表現しています。表現できなかった人、表現を取り上げられた人を作家が表現する。

岡本――表現できる立場、作家が少女像を制作する立場を十分に考えて、少女/ハルモニの決心を受け止め、作家の決心に昇華させる。作家の決心の意味も込めて握った手になっているのです。

――「怒りでしかない。憎悪の塊だ」などと頓珍漢な批判をする研究者がいます。非難しようと決めていて、作品を見ずに非難しています。

岡本――握りしめた手だけではありません。カタログに書いておきましたが、少し浮いた踵には多様な意味が込められています。作品を鑑賞し、少女の隣に座って歴史を想起し、「慰安婦」被害女性の人権を考えてほしいです。

――今後も数カ所で実施する予定ですね。

岡本――名古屋以外にも準備中です。それを成功させることが当面の課題です。どこでも自由に展示したいので、今後の運営の仕方も検討しなくてはなりません。

 

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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