【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第24回 スタンガンの調書はこうして作られた

梶山天

勝又拓哉受刑者が取調べの状況を克明に綴った文書の中に、前にも話題にしたスタンガンのことが記されていた。被害者女児の司法解剖を行った筑波大学法医学教室の本田克也元教授によると、右頸部の傷は爪によるものとしていたのを検察が裁判前になって突然、スタンガンによる傷だと言い出した。元教授の裁判出廷を拒み、解剖もしていない法医学者を出廷させるという前代未聞の法廷が予想される。

そもそもこのスタンガンは、勝又受刑者が住んでいたアパートの倉庫から空き箱が見つかり押収したものだ。不思議なことにスタンガンそのものは、供述調書があるものの、いまだに被害者の遺留品とともに見つかっていない。ずばり、証拠として採用されたスタンガンの調書は、今から紹介する文面のようにして作られていったものとみられる。よくぞ覚えていてくれた。勝又受刑者がその手の内を体験とともに明かしている。

さあ、前置きはここまでにしておいて本題に入ろう。

「帰宅からわいせつまで」と題した文書は、2005年12月1日の下校中の吉田有希ちゃんを車に乗せて誘拐をし、自宅アパートに連れて帰った場面から書き出されていた。

取り調べの際に刑事が家宅捜索で押収したスタンガンの空箱を押収したこ戸を説明し、スタンガンを被害女児に使わなかったのか、聞いていた。

 

「刑事から『ずーと車をグルグル回るわけじゃないでしょう』と言われ、私は夜の6時~7時頃にアパートに戻ったと答えました。そうしたら『そこから何をしたのか??』と聞かれ、有希ちゃんを部屋において、私は床に座ってどうしようか、悩みました。大変な事をしてしまったと、頭を抱えて床の上でどうしようか、悩んでいましたと答えた。なぜなら普通の人ならそうすると考えたからです。

そうしたら刑事から『ずーと悩んでいられないでしょう』と言われ、それで適当にテレビをつけて見せました(有希ちゃんに)と答えたら、刑事から『何を見せたの??』と聞かれて私は、逆に刑事に12月1日って何曜日?と聞きました。刑事からは『木曜日』という情報で、ポケモンを見せたと答えました。なぜならば、私はアニメ大好きで、月曜はコナン、水曜はナルト、木曜はポケモン、金曜はドラエモン、日曜日はちびまる子ちゃんとサザエさんです。刑事からは『ずーとアニメを見てるわけではないでしょう』と言われ、私はロリコンで、『誘拐してやる事やらないでどうするの』ということで、いたずらをしたことを答えた。

そうしたら刑事から『有希ちゃんをおとなしくさせるためになにかしなかったのか??』と聞かれ、私はおとなしくしないと殴るぞとか言ってたと思うと答えた。そしたら刑事はそれだけじゃ納得してくれなくて『当時部屋に危険な物はないのか??』と聞かれ、私はナイフで脅したと答えたら、刑事は『今回キミの家で差し押さえたスタンガンの箱があるけど、これを使わなかったのか』と聞いてきたので、私はあー有希ちゃんはスタンガンをやられてたのか、と悟り、ここは、とりあえず、答えを合わせようと、スタンガンを使いました。

そうしたら刑事から『どこにあてたの??』と聞かれ、私は(本当は使用していないので)分からないから手と答えたら、『手のどこ??』と聞かれ、私は手首からひじの間と答えたら、刑事は、『もっと上じゃないのか??』。そしたら私はひじから肩と答えたら刑事は不満そうに『左?』『右?』と聞いてきたので右と答えたら、刑事はそこで満足しました。

そうしたら『スタンガンを当てて有希ちゃんはどうした??』と聞かれ、私は考えてました。以前自分にあてたことがあって、鞭で打たれたような痛さ、その時の感想で痛いといったんじゃないかと答えました。おとなしくしないともっとやるぞと言ったと思うと答えました。

後に阿部健一検事から有希ちゃんの遺体には、右腕じゃなくて、首の右側にスタンガンの痕があると教えられ、私はあーそれなら私の勘違いで首に当てたかもしれないと話を合わせていきました。『スタンガンはいつ買ったの??』ときかれ、私は大分前の事でよく覚えてなくて、かといって、全く覚えてないと言ったら、また怒られるから、適当に数ケ月前に買ったのですと答えました」。

「そして、刑事に『有希ちゃんにスタンガンを当てて、痛いと答えたということは、口のガムテープがゆるんだんじゃないのか』と聞かれ、私はあ、はい、貼り直しました、と答えを、私としては口のサイズにガムテープを切ってはったと言いたかったのか、阿部検事からは『口のあたりから頭の後ろに回るような感じでまいたんじゃないのか』と言われて、私は、あ、よく覚えてないが、そうしたのかもしれません、と話を合わせていきました」。

「そうしたら、刑事は『目はどうした』と聞かれたので、私は多分貼られていたからこそ、刑事が聞いてきたのだろうと、それで話を合わせていきました。目もガムテープで貼ったと思いますを答えました。『それからどうしたの』と聞かれ、私は有希ちゃんの両手は縛られているから、服はどうすればいいのかと、考えました。そしたらハサミで切ったと答えました。足はしばったと言っていないから普通に脱がせたと答えた。パンツも普通に脱がせたと答えた」(以下削除)。

勝又受刑者が自供したとされるスタンガンの調書は、こうして作られたのだか、取調官は最初からスタンガンという凶器の名前をちらつかせて,どこにあてたかと聞き出している。勝又受刑者の答えはほとんどあたってないが、取調官がヒントを与え、勝又受刑者がそのヒントを利用して「あー、そうだったかもしれない」などという言葉を発し「やった」「した」に変えて調書化しており、体験をしてないことをさも自供したかのように調書を作っているのがうかがえる。まさに冤罪「足利事件」での菅家利和さんの調書と酷似している。

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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