【連載】ヒューマン・ライツ紀行(前田朗)

第4回 9条の碑が映し出す平和 ―ついに漕ぎつけた東京初の9条の碑建立ー

前田朗

・青空の除幕式

2022年6月19日、梅雨の合間の爽やかな快晴の日曜日、東京都足立区柳原で、東京初の9条の碑が建立され、除幕式が執り行われた。

除幕を待つ9条の碑

 

除幕の際には、トランペットでベートーベンの交響曲第9の「歓喜の歌」のメロディが演奏された。

建立場所は住宅地の中だ。両側を民家に挟まれた小さな敷地に、9条の碑はきらきらと輝いて誕生した。約200名ほどの参加者が歩道と車道に溢れた。

除幕直後の記念撮影

 

9条の碑は球状のステンレスで、高さ約1㍍。地面に設置されているので、見上げる高さではなく、大人が脇に立てば、見下ろす位置に憲法9条が刻印されている。

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。日本国憲法9条」。

除幕式後のつどいで、碑をデザインした建築家の吉田錦次は「球状にしたのは9条の駄洒落ですが、球に9条を書けば、読む人はぐるりと2周しなくてはなりません。読む人の姿がその球に映ります。見る人が中に映り込むことで、生きていることがわかる。人々が平和に暮らして、生きていることを示すことができる。平和を支えているのは9条だと理解できます」と語った。

世界を映し出す9条の碑

 

9条の会事務局長の小森陽一(東京大学名誉教授)は、「球状なので、9条を読むために碑の周囲を回って順に読んでいくことになります。9条をしっかり身に着けることができます。今、ウクライナ戦争に便乗して軍拡を煽る政治家発言が続いていますが、9条を持つ日本の首相こそが、国連安保理などで平和のための決議に力を尽くすべきだ。集団的自衛権などではなく、9条の平和主義を世界に訴えるべきです」と述べた。

鮮やかな青空の下、陽光の差し込む碑は目にまぶしく輝いていた。

・千住9条の会の挑戦

9条の碑を建立した千住9条の会は、次のように訴えて賛同を募った。

「憲法9条は世界の宝です。9条は人類が長年求めた理想を体現したものです。9条を目に見える形(碑)にして、その存在をくっきりと世に知らしめたい。カナリア諸島(スペイン)にある9条の碑と同じように、東京にも9条の碑を創りたい!」。

「今、世界はコロナ危機に直面し人類にとって何をなすべきかを問われています。コロナ禍の今こそ、軍備拡大・戦争ではなく、国際連帯、国際協力、国際平和が何よりも必要だと考えます。

日本から遠く、スペイン領のカナリア諸島には『ヒロシマ・ナガサキ広場』という市民に開かれた広場があり、そこには日本国憲法の「戦争放棄」の条項である9条がスペイン語で書かれている碑があり、現地の方に広く知られています。今や、日本の平和憲法である9条は、世界に知れ渡る日本の誇りであります。この精神を日本でも東京でも形にすべく、我々は活動します」。

千住9条の会は、9条を守り活かし世界に広げるという目的のもと2016年4月に、足立区千住で結成された。思想信条の違いを尊重し、9条を守り活かし世界に広げるという一点で賛同した仲間が集まり、「講演会」「憲法カフェ」「ピースアクション」「九条の碑を建立する会」など多彩な活動に取り組んできた。

9条の碑完成のつどい

 

2020年1月の伊藤千尋講演会で、スペインの島やトルコの街、そして日本全国に「9条の碑」があることを知り、「千住にも創ろう、足立区内にも創ろう」と呼びかけ、同年11月3日に「9条の碑」を建立する会を結成し活動を開始した。

資金集めのためにオンラインでのクラウドファンディングも実施した。筆者もクラウドファンディングに応じた700名の一人である。設置場所は二転三転したが、地元で病院経営をする健和会理事長の好意で、柳原1丁目の土地を確保できた。

・カナリア諸島の9条の碑

カナリア諸島の9条の碑を日本に紹介したジャーナリストの伊藤千尋(元朝日新聞)は、除幕式後のつどいで次のように述べた。

「憲法9条は世界の宝です。宝は現実の社会に活用してこそ役に立つもの。9条は人類が長年求めた理想を体現したものです。9条を目に見える形にしてその存在をくっきりと世に知らしめましょう。

ロシアのウクライナ戦争を口実に、国家を守るために軍事力を強化しなければならないという声がかまびすしい。しかし、違います。国家を守ると言えば、国境の内側にいる人を守るために、外側にいる人を殺して良いという理屈になります。そうではなく、内側の人も外側の人も殺してはいけない。すべての人を守るには9条の平和主義しかありません」。

伊藤がカナリア諸島の9条の碑を日本に紹介したのは2006年だという。伊藤の記事を読んで、筆者もカナリア諸島を訪れたことがある。最初訪れた時はタイルが1枚破損していたが、2度目の時には修復されていた。

カナリア諸島の9条の碑

 

カナリア諸島のうちのグラン・カナリア島の州都ラス・パルマスからバスで1時間ほどのテルデという小さな町に9条の碑がある。島の北端にあるラス・パルマスから南端にあるマス・パロマスまで高速道路が建設されたのが1996年であった。

高速道路からテルデの街に入るインターチェンジの脇に、少し土地が余ったので、テルデ市長の発案で「ヒロシマ・ナガサキ広場」と命名し、9条の碑を建立した。来日経験のある市長は日本で9条の存在を知り、平和を希求する熱意に打たれたという。

ヒロシマ・ナガサキ広場

 

・全国各地の9条の碑

伊藤によると、全国各地に約20の9条の碑がある。一番多いのは沖縄である。設置順に並べてみよう。
1985 沖縄県那覇市寄宮(与儀公園)
1995 沖縄県中頭郡読谷村座喜味(役場)
2002 沖縄県西原町与那城(役場)
2004 石垣市石垣島新栄町(新栄公園)
2007 沖縄県南風原町喜屋武(黄金森公園)
2007 宮古島平良下里(カママ嶺公園)
2017 沖縄県大宜味村大兼久(役場)

筆者は那覇市、読谷村、石垣市の9条の碑を訪れたことがある。石川県には3つあるという。
1992 石川県加賀市直下町(三谷小学校)
2004 石川県鹿島郡中能登町
2015 石川県輪島市門前町

長野県には2つあるが、1つは設置年が不明だという。
2009 長野県中野市永江(真宝寺)
不明 長野県中野市赤岩(谷厳寺)

茨城県にも2つある。
2006 茨城県下妻市西鯨の共同墓地
2014 茨城県古河市尾崎

その他にも、各地に建立されている。
1991 広島市勝木の団地・グリーンライフ墓地
2005 岐阜県群上市白鳥町為真(正法寺)
2016 岡山県鏡野町上斎原
2016 静岡県藤枝市瀬戸ノ谷(杉村孝石彫工房)

各地で平和運動に携わる市民が9条の条文を石に刻み、朗読し、あるいは歌いながら平和憲法の意義を語ってきた。長期にわたる改憲策動に反対し、9条と平和的生存権を世界に実現するために9条擁護の想いを伝えてきた。平和憲法のリレーを受け継いだ千住9条の会によって東京初の9条の碑が建立され、次の走者を待っている。

足立区柳原の9条の碑

 

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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