【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ戦争、ブチャの大虐殺の真実

安斎育郎

●ブチャの大虐殺

2022年4月1日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)の北西10km程の人口35000人のブチャ市で起きた「ブチャの大 虐殺」は、ロシア軍の残虐性を示す最たる証拠として、4月9日には国連総会決議まで行なわれ、ロシアに「戦争犯罪国家」の烙印を押しました。少なくとも 410 体に上る一般市民の拷問・虐殺遺体が発見されたということで、この事件は国際的に大きな波紋を広げました。

ところが、実際には「ブチャの大虐殺」はウクライナ軍によるものであり、そのことが明らかになるにつれて、西側報道は「ブチャの大虐殺」について沈黙するようになりました。

●事実経過

ブチャでは2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻開始3日後の2月27日から、ロシア軍と極右民兵団として知られる「アゾフ大隊」を含むウクライナ軍が戦闘を続けていました。しかし、ロシアとウクライナの間の停戦交渉が進んだため、ロシア軍はキーウ周辺から撤退することを決め、ブチャでも3月30日にロシア軍が完全撤退しました。

アゾフ大隊というの は、もともとはアゾフ海沿岸のマリウポリを拠点とするネオナチ主導の準軍事組織でしたが、現在はウクライナ内務省管轄の正規の国内軍組織である国家親衛隊に所属しています。なお、「ネオナチ」とは、第二次世界大戦期のドイツでアドルフ・ヒトラーに率いられたナチズムの思想に傾倒した排他的・反社会的行動をとる集団を意味します。

ブチャ市長のアナトリー・フェドルク(ペドルクとも)は4月1日、「3月31日は、ロシア軍から解放された日として私たちの街の歴史に刻まれるだろう」と述べ、(実際にはロシア軍が自ら撤退したのですが)「ブチ ャを奪還した」と発表しました。しかし、奇妙なことに、この時市長は虐殺について何も言及しませんでした。

翌4月2日、ウクライナ国家警察がブチャに入ったにもかかわらず、この虐殺事件については一切言及されず、町に遺体がごろごろしているような状況もなく、住民も虐殺について語らなかったというのです。

ところが、翌4月3日になると突然街に遺体が現れ、マスコミの撮影会が行われ、ロシア軍による大虐殺として世界中に報道されました。フランスの AFP 通信などによって、「民間人とみられる多数の遺体や集団墓地が確認された」と報じられ、大問題になりました。

ウクライナのゼレンスキー大統領はこの日アメリカのCBSの番組で、ロシア軍の一連の行動は「ジェノサイド」であると主張し、イギリスのボリス・ジョンソン首相は「プーチンとその軍団による新たな戦争犯罪だ」と激しく非難する声明を出し、制裁やウクライナへの軍事支援を強化する考えを示しました。

一方、ロシア国防省は4月3日、「市民の誰一人としてロシア軍による暴力を受けていない」とロシア軍の関与を全面否定、殺害された 人々の映像や写真は「ウクライナ側による挑発だ」と主張しました。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使も、4月4日、ブチャで撮影された遺体はロシア軍撤退前にはなかったと記者団に語り、「遺体は突然、路上に現れた」「ウクライナ側が情報戦争を仕掛けた」と述べました。

そして、ロシアは国連安保理でブチャの事態に関する話し合いを緊急に持つべきだと繰り返し提案しましたが、安保理の議長をつとめるイギリスはロシアの提案を却下、その後も、「国連が第三者組織を作ってブチャの大虐殺現場を現地調査すべきだ」というロシアの提案は却下され続 けました。

ロシアがブチャ大虐殺事件の実行犯である場合、これ見よがしに遺体を放置したまま撤退するとか、国連が第三者組織を作って現場検証すべきだと主張するとかは、普通は考えにくいでしょう。実は、ウクライナ当局も中立な第三者組織の現地調査を認めておらず、遺体とその周辺の瓦礫などはウクライナ側によって片付けられて「証拠隠滅」が進んでいるとも伝えられています。

ロシア軍撤退の翌日、ブチャのフェドルク市長はロシアに対する「勝利宣言」をしましたが、「戦闘で破壊され瓦礫が散らかっているブチャの街をきれいにする」とは述べたものの、虐殺については一言も触れず、何日か経ってから「ロシア軍が撤退する前に市民を虐殺していった」と言い出しました。

もしも彼の言い分が正しいのなら、ロシア軍撤退翌日の3月31日にはブチャの街路に市民の遺体が転がっていたはずでしょうし、「これから街路を清掃する」などと言わずに、街頭に転がる遺体にこそ言及したでしょう。ロシア側は、「そのような言及がないのは、その時点で街頭に遺体がなかったからだ」と言っていますが、 4月 2 日にウクライナ側が流したブチャ市街の動画にも遺体はありませんでした。

●動かぬ証拠─クラスター爆弾

フランスの国家憲兵隊法医学部門の18人の専門家は、キーウの法医学関係者とともに遺体を詳細に調査し、多くの遺体から「フレシェット弾」の破片が出てきたと発表しました。

「フレシェット」とはフランス語で「ダーツ」「矢弾」の意味ですが、先端に矢じりが付いている長さ4cm程の榴散弾で 、 戦車砲やロケット砲などから発射される 「親弾」に最大8,000発のフレシェット弾を「子弾」として仕込んで空中で炸裂させるクラスター爆弾で す。 降り注ぐ金属ダーツで無差別に人を殺傷する残虐性の高い兵器で 、ベトナム戦争でも米軍によって使用さ れました。

ロシア軍は「この戦争で榴弾砲は使用しておらず、ましてやブチャで活動している空挺部隊はそのような弾薬を持っていない」と言明していますが、一方のウクライナ軍はドンバス地方での内戦で親ロシア派の住民に対して榴散弾を用いたことが知られています。

スペインのメディア“mpr21” は、4月26日、「ブチャの大虐殺を行なったのはウクライナ軍である。ブチャの大虐殺についてメディアは突然沈黙した。この沈黙は、フランス国家憲兵隊の調査が開始され、死体から金属ダーツが発見された結果である」と報じました。

現地調査は今からでも遅くはありません。榴散弾の破片は人体に食い込んだだけでなく、あたり一面の建物や地面に突き刺さったでしょう。たとえウクライナ軍が証拠隠滅を試みたとしても、榴散弾のすべての破片を回収することなど不可能です。見つかった榴散弾の破片を元素分析すれば、それがロシア製か、ウクライナ製か、アメリカ製か、簡単にわかるでしょう。

だから、ウクライナは、ロシアに向けた「戦争犯罪国家」の汚名が自分に降りかかってくることを避けるために、今後も現地調査に反対し続けるに相違ありません。

私たちは、これ程重要な情報でさえ捏造されたり歪曲されたりするのだということをしっかり認識しておかなければならないでしょう。何よりも、私たちが、ウクライナ戦争を焚き付け、消火することを妨害しているアメリカの従属国に住んでいることの意味を深刻に認識すべきでしょう。

コメディアン出身のゼレンスキー大統領がアメリカの傀儡として「戦争の早期終結」にさえ向かうことが出来ず、まるで操り人形のように「武器をくれ。ウクライナは降伏せずに戦い抜く」と叫び続けている姿は「哀れ」そのものです。

ジョー・バイデンが副大統領になった2009年以来、ウクライナにNATO 加盟を嗾 (けしかけ、そのために2013~14年の「ユーロ・マイダン・クーデター」を利用して傀儡政権づくりに取り組み、そしてついにウクライナ憲法に「ウクライナ首相は EUおよびNATO加盟への努力を実行する義務を負う」とまで書かせた一連の画策・陰謀の総仕上げとして、ウクライナ国民を犠牲にして戦っているこの戦争において、「ブチャの大虐殺」という大嘘までついて国連を含む国際社会を非人道の道に引きずり込もうとしているアメリカは、余程焦っているのでしょうか。

(「2022年3月~5月ウクライナ戦争論集」より転載)

 

※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。

https://isfweb.org/recommended/page-4879/

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ