【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

官邸・メディア癒着の温床、「記者クラブ廃止」を総選挙の論点にせよ

浅野健一

・あまりに不誠実な菅流記者会見

私が住んでいる千葉県柏市の県道沿いに、菅義偉首相の「国民のために働く。」という自民党のポスターが掲げられているが、2021年7月以降、ツタの葉にすっぽりと覆われたまま放置されている。近所には、その2年半前に失言で五輪相を更迭された「柏の恥」こと桜田義孝衆院議員(千葉8区)と菅氏の顔が並んだポスターもそのまま貼られている。しかし、21年10月31日に実施される総選挙で、この二連ポスターがどうなっているか不透明だ。

21年8月22日投開票の横浜市長選の結果を、御用新聞の読売新聞は「与党惨敗 菅政権に打撃」の大見出しで報じた。現役の国家リーダーの選挙区のある地元自治体における首長選挙で、首相が全面支援を訴えた候補が敗北したのは憲政史上初めてではないか。

菅氏を直撃しているのは、五輪強行開催による新型コロナウイルスの感染爆発だ。共同通信の世論調査では、59%の人が「感染拡大と五輪開催は関係がある」と答えているのに、「五輪と感染は無関係」「人流は減っている」などと強弁してきたことが、民衆の反発を招いている。

それでも菅氏は、外国もロックダウンをしても感染拡大を抑えられなかったと述べ、「人流が減っている」「順調なワクチン接種」などを強調し、危機感が全く感じられない。相変わらず、首相の責任を問う質問にはまともに答えず、官僚が作成した台本を棒読みしてはぐらかせている。

専門家が「災害級の危機」と言う感染爆発で、政府は21年8月17日、「緊急事態宣言」の対象地域に京都・福岡などの7府県を加えることを決定。菅氏は午後9時から官邸で記者会見した。菅氏の官邸での会見は就任以来16回目。質疑応答では、政府の分科会の尾身茂会長が菅氏の隣に立った。

小野日子内閣広報官が会見開始を告げると、菅氏は冒頭で、茨城県を「イバラギケン」と読み間違えた。言葉に詰まることも多い。幹事社2社を含め記者11人の質問を受けたが、政策の遅れの言い訳と、自分の成果を強調することに終始した。

小野氏はまず、記者会幹事社であるフジテレビ・鹿嶋豪心記者を指名した。

鹿嶋氏は「先の会見で、今回の宣言が最後になるような覚悟と述べたが、宣言は拡大され、感染拡大も続いている。こうした結果になったことに対する総理大臣としての責任を、率直に、今どう感じているか」等を質問した。菅氏は、緊急事態宣言を「キンキュウセンゲンジタイ」と読み間違えつつ、「効果のある対策をピンポイントで行なってきた」「国民の命と安全を守り抜く覚悟で、効果のある対策をやり抜くという決意に変わりはない」と答えた。

続いて、幹事社の産経新聞・杉本康士記者が指名され、解散総選挙について聞いた。菅氏は「感染拡大を最優先にしながら考えていきたい」と答えたが、「感染拡大の阻止を最優先」と言うべきだった。

小野氏は「ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けしたい」と述べ、テレビ東京・篠原裕明記者が指名された。篠原氏が「東京などの大都市における病床の不足は去年から言われていた課題だったが、なぜこの問題がいまだに解決できないのか」と聞くと、菅氏は「今、国・自治体と連携しながら新たな病床の確保に取り組んでいる」などと回答した。

TBSはこの日夜の「NEWS」で、自治体を「自衛隊」と誤って字幕を出したと訂正したが、私には「ジエイタイ」と聞こえた。

このあと、小野氏は「それでは、大変恐縮ですが、あと2問とさせていただきます」と告げて、中国新聞の下久保聖司記者を指名した。下久保氏は災害避難所のコロナ対策を聞いたあと、「(菅氏は)原稿の棒読みというところが、これまでも指摘されている。わかりやすく国民に伝えることが求められるなかで、広島においては先日、原爆の日の式典での挨拶の読み飛ばしもあったが、どのように政治のメッセージを伝えていくか」と聞いた。

菅氏は「必要な情報というものを適時、的確に、そして丁寧にわかりやすく発信することが大事だ」などと答えたが、「原稿の棒読み」「政治のメッセージ」については全く答えなかった。

小野氏は「それでは、毎日放送の三澤さん、どうぞ。こちらで最後とさせていただきます」と述べ、三澤肇記者が抗体カクテル療法について聞いた。

多数が挙手していたが、小野氏は「挙手をいただいた方は、後ほど1問メールでお送りください。後日、書面で回答させていただきます」と言って会見を閉じた。会見は63分だった。

記者会メンバーは小野広報官の独裁・専制的な司会進行を許してはいけない。小野氏の60分前後の強制終了に抵抗して、質問を続けるべきだ。バリケードを築いてでも、納得できる回答があるまで、会見を続けるべきだ。

・「官邸HPは発言をそのまま掲載」はウソ

菅氏は「不要不急の外出の徹底」など全く逆の意味になる言い間違えを何度もしているが、官邸HPでは断りなしに加筆・訂正している。ただし17日の会見記録では、「感染拡大を最優先にしながら考えていきたい」という誤った発言をそのまま載せていた。

加藤勝信官房長官は19日午前の記者会見で、「官邸HPは可能な限り会見でのやりとりをそのまま掲載することを原則としている」と述べた。朝日新聞によると、報道機関からの指摘を受け、「感染拡大の防止を最優先に」と訂正されたという。加藤氏は「その場で聞いていて、まさに『感染拡大に対する対応を最優先に』ということを当然言っていると私は受け止めた」と釈明した。

官邸HPでは、ぶら下がりを「会見」と詐称し、記者の社名・氏名を省き、質問内容はそのまま文字化せず、勝手に短縮している。

21年7月30日、首都圏三県と大阪府に緊急事態宣言を拡大することを決めた後の記者会見では、菅氏は幹事社2社を含め記者13人の質問を受けた。

4番目に指名された神戸新聞の永見将人記者は「首都圏や関西などでの医療崩壊の恐れにどう対応するか」と聞いたあと、「先ほど(幹事社の)感染再拡大を招いた責任について答えていないので、併せてお願いしたい」と質問した。これは、会見で禁止されている「更問い(さらとい)」で、いい連携プレーだったが、菅氏は「波を早く収めることが一番の責任」と回答をはぐらかした。

続いて、フリーランスの江川紹子氏が「人流を減らす具体的な目標は」と質問。菅氏の回答のあと、江川氏は自席から「具体的な目標、今の目標は」と再質問。菅氏は「大会で東京へ集中する人流を防いでいる」と回答した。江川氏が「尾身会長に…」と言いかけたところで、小野氏が「自席からの発言はお控えください」と制止したが、尾身氏が「今、ワクチンのことですよね」と聞き返し、「お盆があり、4連休があり、五輪があるということで、なかなか危機感が伝わりにくい状況がある」などと詳しく答えていた。

最後に指名された「Janes Defence Weekly」の高橋浩祐東京特派員は「根拠なき楽観主義の下で五輪を開催していることが感染を引き起こしている。感染の波、止められずに医療崩壊して、救うべき命が救えなくなったときに、総理の職を辞職する覚悟はあるか」と聞いた。

菅氏は「水際対策はきちんとやっている」「五輪は海外の選手の人と入ってくる方たちと完全にレーンを分けている」と答えた。小野氏が「それでは」と言って終了させようとしたが、高橋氏は「辞職の考えについては。その覚悟について教えてください」と再質問。菅氏は「感染対策をしっかり対応することが私の責任で、私はできると思っている」と答えた。

まだ多くの記者が挙手しているなか、小野氏は会見を閉じた。会見は1時間6分で終了した。これまで小野氏は質疑応答に入る際、必ず「自席からの発言禁止」を強調していたが、この日は言わなかった。初めてのことだ。

 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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