日本再軍備を止めるための「護憲」の基礎知識、「敵基地攻撃能力」とは何か

足立昌勝

・敵基地攻撃能力・反撃能力

自民党は、昨年12月20日、外交・安全保障政策の根幹となる「戦略3文書」の改定に向けた検討作業を本格化させた。それは、いわゆる「北朝鮮」(朝鮮民主主義人民共和国)のミサイル技術の高度化や中国の軍拡といった安全保障環境の急変に対応する目的があり、岸田文雄首相は「敵基地攻撃能力」の保有など「あらゆる選択肢を排除しない」と言い、政府は今年中に改定を終える方針だといわれる。さらにロシアによるウクライナ侵攻も加わり、防衛力強化の議論がさらに熱を帯びてきた観を呈している。

News heading that says “defense” in Japanese

 

今年に入ってから、「北朝鮮」は立て続けに弾道ミサイルを発射した。これを受け、岸信夫防衛相は、1月17日、記者団に「いわゆる敵基地攻撃能力の保有を含め、あらゆる選択肢を検討し、防衛力の抜本的な強化に取り組んでいく」と述べた。

North Korea, missiles/ atomic bombs concept.

 

「敵基地攻撃能力」とは、弾道ミサイルの発射基地など、敵の基地を直接破壊できる能力とされ、政府の見解では、ほかに手段がない場合のやむを得ない必要最小限度の措置として、「法理的には自衛の範囲に含まれ可能」としている。

自民党内では、「敵基地『攻撃』能力」という呼称から、国際法上許容されない「先制攻撃」と混同されるとして、「敵基地反撃能力」と改めるとした。しかし呼称を変更したとしても、中身が変更されるわけではない。そもそも、「敵基地」とは具体的にどこに存在しているのであろうか。また、どのような意味で「敵」なのか。それは、「敵」を想定した先制攻撃の容認ではないのか。

このような防衛力強化の動きは、憲法9条や平和主義の下で許容されるのであろうか。

参考として、ドイツにおける再軍備に触れておく。日本と同様に敗戦国であるドイツでも、1949年に制定された基本法(憲法に相当)では軍隊の保持は禁止されていた。しかし、東西ドイツの分裂という「冷戦」の下で、1956年、基本法を改正し、連邦国防軍が創設された。
つまり、条文の解釈という不誠実な態度をとらず、憲法改正の下での再軍備であった。それは、法治国家として当然の結論であったのだろう。

・憲法9条の解釈

岸田首相は1月、所信表明演説で「わが国を取り巻く安全保障環境は、これまで以上に急速に厳しさを増しています。経済安全保障や、宇宙、サイバーといった新しい領域、ミサイル技術の著しい向上、さらには、 島嶼(とうしょ)防衛。こうした課題に対し、国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます。このために、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を、概ね1年をかけて策定します」と述べ、「敵基地攻撃能力」の保有を検討すると戦後の首相で初めて国会で明言した。

News heading that says “economic security”

 

憲法9条で「戦力の不保持」を宣言している日本で、このようなことを国会で首相が明言すること自体が異常であり、憲法99条の「憲法尊重擁護義務」に違反していることは明白である。憲法違反に相当することを国会で行なうとは、武力行使に関する憲法上のタガが、すでになくなってしまったのであろうか。

必要な論点として、まずは自衛隊違憲訴訟にふれておこう。

1959年の砂川事件最高裁判決では、「安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもの」であり、「その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない」「それ故、違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従って、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」である(統治行為論)として、司法判断を放棄した。

さらに、1967年の恵庭事件判決では、憲法の適否に関する判断は、「当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要な場合」に限定すべきとし、下級審で自衛隊の合憲性が争われたナイキ長沼訴訟判決では、最高裁は、その問題に触れずに訴訟を終結させた。また、私法上の行為に及ぶのかについては、百里基地訴訟判決で、「私法上の行為に憲法9条は直接適用されない」と判断した。

このように最高裁判所によって司法判断から免れた憲法9条は、政府の解釈がまかり通ることになった。

1956年2月29日の衆議院内閣委員会において、当時の船田中防衛庁長官は鳩山一郎首相の答弁を代読する形で次のように述べている。

「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行なわれた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、ほかに手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います」。

これは、憲法9条を恣意的に捻じ曲げたもので、解釈といえるものではない。このような政府の姿勢は、その後も続き、自衛権の容認、専守防衛論へと広がっていった。

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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