【対談】寺脇研(元文部官僚)×木村三浩(一水会代表):マスコミが繰り返す「日韓関係戦後最悪」の嘘

紙の爆弾編集部

・日韓共同宣言に触れた韓国新大統領

寺脇:「紙の爆弾」4月号で、木村さんが元駐レバノン大使の天木直人さんとともに訴えた「新大アジア主義」に、私も賛同します。韓国で5月10日に誕生した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は、1998年に金大中大統領とともに日韓共同宣言を発表した日本の小渕恵三首相に触れ、両国の関係改善を掲げています。その提言を、日本はどうすれば受け止められるのか。

Seoul, Korea – August 21, 2009: Mourners pay last respects at the city hall public memorial of former President and Nobel Peace Prize winner, Kim Dae Jung in Seoul, South Korea on August 21, 2009

 

木村:極東アジア地域の国々が良好な関係を築くことの重要性は日々高まっています。近いという地政学的な面はもちろん、すでに人的交流があるわけです。現在の日本には、公表されているだけで外国籍の人が288万人。京都府を超える人口です。その中で多いのは在日コリアンを含めたアジア出身者です。仲良くしなければならないのは当然ですが、日本で右派を自称する人たちに寛容性と戦略性がないのは問題です。在特会などは、すでに低迷しているようですが。

私は朝鮮にも2回行き、4年前には戦前からの軍人・軍属などの残留日本人の2万柱のご遺骨の返還を提案しました。日朝両国の関係発展や、拉致問題解決の糸口として提案したのです。

5月10日の尹大統領の就任式に、与野党から日韓議連が呼ばれて行ったものの、岸田文雄首相は参加せず、閣僚からは林芳正外相が特使として出席したのみ。そんななか、鳩山由紀夫元首相は晩餐会でも新大統領と同じ席につき、意見交換をしています。日本国内とは違い、鳩山氏の友愛活動が評価されていることがわかります。こちらが姿勢を示せば相手は応えるのです。

寺脇:鳩山元首相が重要な役割を果たしたことは、まったくというほど報じられていませんね。代わりに報じられているのが、韓国の民間団体が竹島周辺で調査を行なった、というようなことです。これは、自民党の外交部会長がマスコミに触れ回ったことでしょう。

外相が親書を持って行っただけなのに、「総理の顔に泥を塗った!」と。こんな調子では話になりません。

新大統領は保守派で、どちらかといえば自民党と近い間柄。その人が民主党政権の首相を遇したことの意味が、まったく日本人に理解されていない。

木村:そうなんです。韓国側から日韓関係を前向きに再構築すべく提案を受けたときに、日本のマスコミが水を差す。これは、「韓国と仲良くすべきではない」という空気が日本国内に蔓延しているからでしょう。それをマスコミが忖度している構図です。

Japanese and South Korean flag pair on desk over defocused background. Horizontal composition with copy space and selective focus.

 

しかし、その空気は決して信用ならないものです。たとえばある女性保守論者にはSNSにフォロワーが何十万といますが、チェックしてみると、70%くらいがまともに使われていない“幽霊アカウント”だった。それが、「我こそ保守論客」みたいな顔をしているわけです。

寺脇:おっしゃるとおり、ネット世論というのはたかが知れています。一方、新聞社やテレビ局はものすごい組織力を持っているわけだから、ファクトをすべて報道したうえで、社論として「こうするべきだ」と主張すべきなのです。ところがマスコミまでが、ウクライナ情勢にしても、ファクトを偏らせている。ネットで「あいつらけしからん!」とか言っている人と変わりません。

とくに韓国は隣国であり、日本と同じ自由主義国家で言論統制もない。そことの関係性すら公平に報道がなされていないのは嘆かわしいことです。一国の元首相が出席したことすら新聞に1行も載らないということは、日本以外の国であり得るだろうかと思いますね。

木村:すでに大政翼賛会のような状況にあることは、ロシアに関する報道でも実感しています。それが、韓国・朝鮮・中国など、もっと身近な地域の話になれば、さらに強い同調圧力がかかるのではないでしょうか。

寺脇:ウクライナ関連の報道では、「隣国同士は地政学上の問題を抱えているのが常である」といった論議がにわかに強調され、北海道へロシアが来るとか、尖閣に中国が来るとか危機が煽られています。その危険性があるとしても、ならばもっと近い韓国と関係を築くことが、それらのリスクに対し有効であるというのが、非常にわかりやすい事実。リベラルな人たちが、なぜ誰もそれを言わないのか不思議です。それこそが地政学ではないでしょうか。

War in Ukraine on mobile phone screen. Ukraine and Russia borders with Donbass on Europe map. Ukrainian-Russian conflict in smartphone. Concept of media, news, refugees, politics and crisis.

 

木村:たとえばクアッド(日米豪印首脳会談)は、アメリカ主導の構想として決して良いとは思いませんが、米国が韓国も加えようとしていることに、日本が反対するのは解せません。もちろん韓国の判断もあるのでしょうが。日本政府も歴史認識等の問題にこだわるよりも、地政学に基づいた議論を早急にすべきでしょう。

昨年には、日本政府は姜昌一韓国駐日大使との間でもひと悶着を起こしています。文在寅政権が姜氏の着任にあたり、日本側がアグレマン(同意)を出す前に発表したとして、当時の茂木敏充外相が面談を断りました。その際、姜大使がロシアの招きで北方領土を訪問したことを問題にしました。「北方領土に不法上陸した」と直接抗議をすればいいのを、門前払いにするわけです。外国大使は着任にあたり、天皇陛下に信任状を渡しますが、外務省のやり方が陛下のお御心にかなっているといえますか。

寺脇:姜大使は最後まで首相とも会わないままでしたね。

日本の外交官についても触れると、日韓共同宣言の際の駐韓大使・小倉和夫氏は、大物外交官といえる人物でした。私に言わせれば、韓国は日本にとって再重要の隣国であり、大使としての最後のポストにすべきだったと思いますが、外務省は駐フランス大使に異動させました。彼は駐韓大使の在任中、韓国の民族舞踊・パンソリを韓国人の師匠について習うなど、積極的に活動されていました。フランス大使のあとも、国際交流基金理事長として日韓文化交流を続けられました。

一方、小倉氏の後の駐韓大使の人事は酷いもので、民主党政権の時に着任した武藤正敏氏は『韓国人に生まれなくてよかった』などという本を書いている。外交官としてありえいでしょう。外務省は何を考えているのか。

木村:おそらく人事に不満で、私憤もあるのではないですか(笑)。

寺脇:そうでしょう。要するに人事の問題です。ただ彼の場合は、自ら作った流れに乗って、徴用工の問題を抱える三菱重工業の顧問に就いているからしたたかです。

文部科学省も同じで、優秀な人間ほど、アメリカやフランスに出向させる傾向がありました。のちに改善されていますが、日韓文化交流(後述)が行なわれた2004〜2005年頃、韓国出向の文科省出身の書記官など、ろくな仕事をしていなかった。どうして隣国を大事にしないのかと感じていました。

木村:政治と人事が、ともに欧米偏重、アジア蔑視の体たらくであったということですね。

 

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株式会社鹿砦社が発行する月刊誌で2005年4月創刊。「死滅したジャーナリズムを越えて、の旗を掲げ愚直に巨悪とタブーに挑む」を標榜する。

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