「戦争党(The War Party)」はまだイランを標的にしている

ダニエル・ラリソン(Daniel Larison)

イランとの戦争に向けた陣太鼓が、欧米のメディアで再び高まっている。イランとその存在しない核兵器による脅威を誇張するために、誤った主張を拡散するといういつものパターンを踏襲しているのだ。最近のある報道は、あたかも軍事行動が不可避であるかのように見せかけるため、報道機関がいかにして主要な外交問題について国民に誤った情報を吹き込んでいるかの一例として、際立っている。

NBCニュースはバイデン大統領のイスラエルとサウジアラビア訪問とされるストーリーを報じたが、その内容はほとんどイランの核開発計画に対する恐怖心をあおり、イラン政府の核開発能力に関する事実を歪曲することに終始していた。核交渉が行き詰まった今、イラン攻撃への扇動はさらに高まり、また不必要な戦争に道を開く「ニュース」報道が増えることが予想される。

この記事の中で最も重要な主張のひとつが不正確で、イラン政府が間もなく核兵器を保有する瀬戸際にあるという印象を与えている。それによると、「イランは純度60パーセントに濃縮したウランを相当量備蓄しており、90パーセントまで濃縮することを選べば、数日のうちに原子爆弾を作ることができると軍備管理の専門家は言っている」とある。

まだしていないが、イラン政府が90%まで濃縮することを決めたとしても、実用的な兵器を一つでも作るには「数日」よりもはるかに長い時間がかかるだろう。加えて、それはイラン政府がそもそも兵器製造の選択をしたことが前提となるが、その選択肢はイラン政府が長い間拒否してきたものである。報告書はこれらの「専門家」の名前を一切引用しておらず、私たちはこの突拍子もない主張をただ受け入れるしかない。

・イスラエルの攻撃がイラン核開発を加速した

読者はこの記事から、イランが何十年もの間、核兵器開発計画らしきものを持っていなかった事実を知ることはできないだろう。イラン政府が爆弾を手に入れたいという願望を持っているということが、何の証拠もなくただ当然のこととして受け止められている。これら全てが、イラク侵攻に導いたプロパガンダのようにもろに見えるなら、それは、完全に不当な予防戦争を売り込むための同じ台本だからだ。

イランの核開発に関するほとんど全ての報道と同様に、この記事でも、イスラエルが既に数十個の核兵器を保有していることや、イスラエル政府が数十年に渡ってイランの核兵器開発が差し迫っているかのようなウソの警報を鳴らしてきたことには全く触れていない。また、イランの核開発計画の最も重要な進展は、イスラエルによる暗殺と破壊工作への直接的対応として、この1年半の間に起こったということも、この記事は認めていない。

イラン政府は、昨年のナタンズ施設への攻撃以前にはウランを60%まで濃縮したことはなかったが、その攻撃をきっかけに濃縮を開始した。もし記事が言うように、イランとイスラエルが「衝突の最中」にあるとすれば、それをもたらしたのはイスラエル政府であり、イスラエルを甘やかしている米国でもある。

米国の経済戦争としての「最大限の圧力」作戦と、イスラエルの秘密攻撃がなければ、イランの核開発計画は、米国が約束を破るまでイランが何年も守ってきた核合意による制限下にまだあったはずである。中東に核危機が迫る可能性は、成功した核不拡散協定を台無しにし、紛争の口実を作り出すことを目的としたタカ派的政策の直接的な結果である。

イスラエル政府は核合意を妨害するために過剰に活動し、その一方で彼らのイランの施設破壊工作がイランの核開発計画の加速を誘発した。何年にも渡って米国の外交努力を損ない、積極的に状況を悪化させたイスラエル政府は今、軍事攻撃によってこうした以前の誤りを更に悪化させようと米国の支援を求めている。イラン政府は核兵器を製造していないが、米国とイスラエルの強硬派は、起こり得るイランからの核攻撃を避けるために、核兵器を製造する動機をもたらすためのあらゆる手段を講じている。

・唯一の解決策としての交渉と妥協

イスラエル政府が本当にイランの核兵器保有を懸念していたのなら、成功した核不拡散協定に激しく反対することはなかっただろう。イランの核開発を平和的に維持することに真剣であれば、いったん締結された協定を破棄しようとはしなかったはずだ。もしイスラエル政府が、イランに対する犯罪的な侵略戦争を始めるために米国の支援を求めるならば、バイデン大統領はその要求を拒否し、イスラエルにとって悪い状況になったとしても米国は助けに来ないことを伝えるべきである。

これらの全てが不合理なのは、イランの核開発が米国やイスラエルに真の脅威を与えていないことである。これまでも与えてはいなかった。たとえイランが将来のある時点で数個の核兵器を製造したとしても、はるかに大きな核兵器を持つイスラエルと対峙することになり、米国がイランから恐れることは更に少なくなるであろう。

この2つの非常に強力な国家が、はるかに弱い国家から自分たちを「守らなければならない」という考えはナンセンスである。しかし、イラン政策をめぐる議論の多くは、米国とイスラエルからの制裁や攻撃は妥当で、それに対するイランの反応は妥当でないという信念に基づいて展開されている。米国とイスラエルが執拗な敵対行為をやめれば、イラン政府はより現実的になるよう望むかも知れない。

全てを考慮すると、我々はより多くの国家が核兵器を持つことを望むべきではないし、既存の全ての核保有国は軍縮に向けて努力すべきである。とは言え、イランの核開発計画への脅迫観念は、それがもたらす潜在的危険性とは全く比例していない。核不拡散は重要だが、戦争を始める程の重要性はない。核問題を管理する唯一の方法は、交渉と妥協であり、米国がその道に戻るにはまだ遅くはない。

(翻訳:東江日出郎)

原題「The War Party Is Still Targeting Iran」(https://original.antiwar.com/Daniel_Larison/2022/07/12/the-war-party-is-still-targeting-iran/

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ダニエル・ラリソン(Daniel Larison) ダニエル・ラリソン(Daniel Larison)

シカゴ大学で歴史学の博士号を取得し、ペンシルベニア州ランカスターに在住。Antiwar.comの寄稿編集者兼週刊コラムニスト。自身のブログEunomiaを主宰。また、インターネットサイトThe American Conservativeの元上級編集者。彼の論考は、New York Times Book Reviewや Dallas Morning News、World Politics Review、Politico Magazine、Orthodox Life等に掲載されている。

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