【連載】安斎育郎の今週のウクライナ情報

続・ウクライナ戦争をどう見るか?

安斎育郎

●「悪魔プーチン、英雄ゼレンスキー」大合唱

様々な情報収取と分析の結果、私はウクライナ戦争の原因は、アメリカ政府とウクライナ政府自身にあると確信しており、「悪魔プーチン、英雄ゼレンスキー」という認識はとりません。私は開戦以来『ウクライナ戦争論集』を 2 冊発行して関係者に送り、7月24日に園部で行なった講演で使った 100 枚余りのパワーポイント資料もお送りしています。

そこでも私の立場は明確で、この戦争の原因は明らかにアメリカとウクライナの政府にあり、戦争が終わらない理由もアメリカとウクライナ政府にあると確信していることを明らかにしています。

●びっくり仰天すること

大変驚くことに、日本で「悪魔プーチン、英雄ゼレンスキー、ウクライナ頑張れ」大合唱に参加している人々の多くが、①この戦争に先立ってアメリカがウクライナの NATO 加盟をめぐって2008年以来ロシアを刺激し、ロシアに国家安全保障上の重大な懸念を抱かせ続けてきたこと、②挙句の果てにはアメリカが 2014年のユーロ・マイダン・クーデターを陰で画策してウクライナに親米傀儡政権を作ったこと、③そして、2019年2月には NATO加盟をウクライナ首相の憲法上の努力義務にしたこと、

④2014年に誕生した親米傀儡ポロシェンコ政権下でウクライナ東部のドンバス地方のロシア語話者に「民族浄化」的な攻撃を仕掛け、国連でもジェノサイドと批判されるような蛮行を重ねて1万4000人以上の人々の命を奪ってきたこと、⑤この戦争が始まってからも、今やウクライナ正規軍に組み入れられたアゾフ連隊などの極右民族主義者集団(ネオナチ集団)が住民を「人間の盾」にした立てこもり作戦をとり、撤退時には市民ごと爆破するといった軍事行動をとってきたこと、さらには、⑥ゼレンスキー政権が野党や批判的なマスコミを潰して独裁化し、ブチャの大虐殺、マリウポリ産科病院爆撃、マリウポリ劇場爆撃、兵士による少女レイプ事件や性的虐待、ロシア兵は遺体を犬に食わせているといった証言、クレメンチュクのショッピング・モール攻撃事件などでつき放題のウソをついて国際世論をだまし、ひたすら「もっと武器を!」と迫ってきたこと、

そして、⑦アメリカなど西側諸国の武器供与で戦争を続けるゼレンスキー政権は、その結果として和平交渉を遠のかせ、ウクライナ国民にとてつもない犠牲を強いていることなど、の事情をよく知らないで「ロシア叩き、ウクライナ支援」の歌を唄っていることです。

この傾向は、平和運動、反核運動、憲法擁護運動などに関わっておられる人々においても同じですし、与野党を通じて同様の傾向が見られます。どうしてこうなってしまったのかなあ?

毎日あちこちのツイッターの発信情報を分析していると、「最近、西側発信のウクライナ情報のフェークはかなり知られてきたが、2014 年以来のドンバス地方での民族浄化とも言うべきロシア語話者に対する蹂躙はまだまだ知られていない」という意見に出くわします。

ロシアが特殊軍事作戦に踏み切った理由の一つは「ウクライナの非ナチ化」でしたが、ドンバス地方ではウクライナ正規軍に位置づけられたアゾフ連隊などのネオナチ(極右民族主義者)集団が、ウクライナのロシア語話者に反人権的暴虐を加えてきたことが背景にあります。

2014 年に誕生したアメリカの傀儡政権のポロシェンコ大統領は、ウクライナのウクライナ語話者を「われわれ」と呼び、「ウクライナのロシア語話者」を「かれら」と呼んで、「我々は様々な恩恵に浴することが出来るが、かれらはそうはいかない。われわれの子どもや孫は毎日学校や保育園に行くが、かれらは穴ぐらで暮らす。

要するにかれらは何もできないのだ。それこそがこの戦争(ドンバス内戦)に勝つ理由なのだ」と述べ、恐るべきことに翌年にはナチ・ジャーナリストのボグダン・ブトケビッチがテレビに登場して、「ドンバスの人間役立たず。我々ウクライナ人の資源を無駄に消費する。少なくとも 150 万人は無駄。残酷だが、彼らを絶滅させなければならない」と言い放ちました。そして 2014 年から今に続くドンバス内戦で、ロシア語を話すというだけの理由で13,000~15,000 人と言われる人々が命を奪われてきたのです。

ドンバスの人々は 2014 年に自立の道を選び、ドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国を立ち上げて独立を宣しました。「ロシア語話者というだけで自国政府に敵視・迫害されるいわれはない」ということで、ロシアの支援を受けながら分離独立の道を求めてきました。今度の戦争はその延長線上にあり、単に「ロシアによる侵略戦争」という以上に、「民族自決権擁護闘争」の色彩を帯びています。

●フェーク情報が多いのも今次戦争の特徴驚くことがもう一つありますが、それは、ウクライナ発や西欧諸国発の情報の「ウソつき」ぶりです。

あきれ返るほどのウソが平気でつかれ、「悪魔のロシア」のイメージづくりに一役も二役も買っています。そして、日本のマスコミは、例えば、「ブチャの街で撤退するロシア兵が残した何百体もの虐殺死体」といったフェーク・ニュースを流した後、それがウソだと判明した後も修正報道をほとんどしないので、人々は最初に流されたウソによって「悪魔のロシア」のイメージを刷り込まれたままになっています。恐ろしいですね。

最近、某出版社から、ウクライナ戦争論をまとめた本を書いてはどうかと提案されています。著者の私も、本を刊行する予定の出版社の担当者も、もしも「ウクライナ戦争の原因はアメリカ政府とウクライナ政府にこそある。この戦争には民族自決権擁護の側面がある」という趣旨の本を書いた場合にこの国でどのような「袋叩き」が待っているのか、それを気にかけなければならないとは、はなはだ情けない話です。

※なお本稿は、平和友の会会報連載「世相裏表」2022 年9月号からの転載記事です。

 

※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。

https://isfweb.org/recommended/page-4879/

●「ISF主催公開シンポジウム:参院選後の日本の進路を問う~戦争前夜の大政翼賛化」(8月27日)のお知らせ

https://isfweb.org/post-6537/

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国 ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

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