【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第38回 東京都立大女子学生の感想文の波紋

梶山天

ISF独立言論フォーラムのホームページでの連載「絶望裁判 今市事件」で紹介した裁判官を目指す東京都立大2年の女子学生の感想文が未だに反響を呼んでいる。

先月22日付、第33回「私の夢を壊さないで! 法律学を学ぶ女子大生の怒り」で、判決内容と連載に掲載されている栃木県警や検察、解剖医の内部文書や写真、図、裁判所の判決文をじっくり照らし合わせて読み解き、裁判所の不当な判決を批判した内容だった。

一審判決で無期懲役が言い渡されると宇都宮地方裁判所前では多くの人々が一喜一憂していた。

 

副編集長の私が都立大生の感想文を初めて手に取り読み始めると、目が離せないぐらい引き込まれてしまった。衝撃的だった。鳥肌が立ち、その分析力の鋭さに圧倒されてしまった。こんな大学生がいるんだと脱帽した。「読んで、はい、良かっただけでの感想文で済ませるのはもったいない。この感想文こそ、たくさんの人に読んでもらいたい」と思って連載に掲載した。

すると、瞬く間に人から人へ、どんどん広がっていった。私の4月から始まった今市事件の連載「絶望裁判」をツイッターで紹介している知人から既にアクセス数が凄いという連絡をもらった。

都立大生の感想文に発奮されて、わざわざ感想文を書いて送ってくれた東京都在住の20代女性は、弁護士資格を取るために勉強しているという。その文章を紹介しよう。

友だちから都立大生のことがISF独立言論フォーラムのホームページに載っていると聞き、早速、見てみたました。一読して凄いと思った。まるで本当の裁判官が意見を寄せているとも思えるような鋭い指摘には、よく法律を熟知し、学んでいるからこそ、こんなに書けるんだと改めて性根を入れて勉強しなくちゃと奮い立たされました。そして背中を押していただいた感じもします。

それにしても今市事件の裁判は、ちょっと異常だと思います。中立の立場の裁判所が警察、検察の判断に対して何かしらの忖度をしなければならないほどの圧力が働いていのではないかと思ってしまうのはなぜだろう。

そんな状態で殺人罪など人の一生にかかわる裁判をきちんと裁定できるのか、不安になるのは私だけではないのじゃないかと思えてなりません。

梶山さんや筑波大学の本田克也元教授は、弁護士でもないのに手弁当でこの事件を自ら調べている姿勢に日本にもこんな人たちがいるんだ、と日本も捨てたもんじゃない、と再認識した次第です。

連載を読むと警察、検察がこんなことをしてまでして無実の人を犯人に仕立てるのか。信じられないと正直、半信半疑だったのですが、なんと、それを裏付ける捜査機関の内部文書や写真、図がしっかりと載せられているのには驚きました。事実が証明されていました。これって、もう逃げられませんね。どんな弁解も通用しないと思います。

本当に警察官や検事たちが平然と違法行為をし、しかも本当は勝又受刑者が犯人ではないと認識していたとしたら犯罪です。その可能性も出てきました。裁判官たちが、それに気づいていないというのが悲しいです。

もしかしてこの事態は、今市事件だけでなく、ほかの裁判もそうではないか、との疑念さえ覚えてくると、空恐ろしいです。本当なら国自体が大変なことになっているということです。そしてこの裁判は、市民の意見を反映させる裁判員裁判でした。このとんでもない今市事件裁判を裁判員として体験した人たちはどんなに傷ついたことでしょう?こんなことがあっていいのでしょうか。

それに控訴審の東京高裁が自らが犯行日時と場所について、全く新しいと思えるほどの予備的訴因変更を促して起きながら自判して無期懲役。裁判員制度は何のためにあるのか。それを最高裁が容認する。これが本当に裁判なのか、私は分からなくなってきました。それとも裁判員制度はもう廃止にするということなのでしょうか?この今市事件裁判は、最初から最後まで何が何だか分からなくなった裁判だと思うんですが。私の勉強不足なのでしょうか?

気を取り直して、私も勉強して弁護士になれたら、梶山さんたちのように人を助けたい。そしてこの連載で学んだ証拠を大切にする、証拠にこだわる弁護士になりたい。連載を読んでそう感じました。

次に栃木県在住の60代半ばの男性が、5月23日付の「第16回 被害者女児の解剖鑑定書が『総合捜査報告書』に」、を読んでの感想をISFに寄せてくれたので紹介したい。

裁判員裁判では、ある事件に関心があり、注意深く事件を追っている人たちだけが、裁判員になるわけではないだろうと思います。突然裁判員に選任され、出された資料、映像を見、議論し判断するしかない。

そういうことになったら、そこに出された専門家と言われる人の調査報告書等は、何の専門的な知識もない市民の裁判員はならば、それを信じるしかないというのが現実ではないでしょうか。

普段は別の仕事をして、短期間に専門外の事で、事件の真相をつかみ「一人の人間の人生を」決めなければならないのです。

ある意図を持って、専門家の報告書が一部だけ裁判員に報告されたとしたら、偏った判断になるのはゆがめないと思います。今市事件での本田克也元教授の司法解剖鑑定書が「遺体の状況及び死等に関する統合捜査報告書」として一審では一部だけしか載らなかったというISF(独立言論フォーラム)の梶山天さんの記事を読みました。

検察、警察の描いた事件のシナリオに都合の悪いことは隠蔽し、事実を隠して裁判を行ってしまったことは、裁判所も含めて許せない行為だと思います。

こんな不平等な裁判があっていいんでしょうか。本田元教授の司法解剖鑑定書が裁判の早い段階から審理されていれば、この裁判はまったく違った判決が出たと思います。大切な部分を「統合捜査報告書」により隠してしまったことで、今市事件は、冤罪事件になってしまったと思います。

警察官、検察官、裁判官。あなた方の職業は、私たち国民の汗水流して働いて得た税金で成り立っています。裁判という法廷に出される証拠は、誰のものでしょうか。これは事件の真実を明らかにするための公共の財産だと私は思っています。その財産を改ざんするなんて、国民への裏切りです。そして犯罪者です。その行為はとても許せない。それを未だに知らぬふりしている国は何をしているんでしょうか。

一審判決当日は傍聴券を求めて多くの人々が列を作った=2016年4月

 

梶山から
感想文ありがとうございました。たくさんの人たちが、私たちの調査報道を通じて今の司法の現実を知る。「事件が解決すれば犯人は誰でもいいや」と言わんばかりの今市事件捜査、そして裁判を通しての今の司法の実情が見えてきたと思います。さて、その病痕をどうしたらいいか、みんなで考える。とても大切なことです。そして意見を共有する。その輪がどんどん広がっていく。その思いがいずれ国を動かすことにつながる。そう信じています。

私はかつて朝日新聞鹿児島総局長時代に架空の県議選違反事件を暴いたことがあります。鹿児島地検の後押しを受けて無実の人たち十数人を逮捕、起訴した「志布志事件」のおかしさに気づいて捜査に携わった捜査員を口説いて内部文書を入手。2006年1月から総局全員で調査報道を行ない、翌年2月の判決で全員無罪を勝ち取りました。調査報道を始めてから判決2カ月前までほかのメディア何も報道をしなかったのです。今回の今市事件も同じで、何の音さたなし。

ですが、心ある弁護士たちが再審を行うと記者会見をするときには必ず動く。いや動かざるを得なくなると確信しているからです。日本の司法にまだ正義が残っていることを信じて……。

 

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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