【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第39回 市民が指摘する司法の堕落

梶山天

感想文のラストは、栃木県在住の60代女性からの文章で締めくくりたい。今年4月1日から始まった連載「絶望裁判」の第1回目から欠かさず読んで下さっていました。箇条書きで淡々と綴っていますが、読んでいて、なるほどと感心しました。

毎年入学した大沢小の児童たちには、通学路にある「子ども緊急通報装置」の使い方を習う。

 

それは、副編集長の私が読者の皆様に毎回、何を伝えたいのか、その主なメッセージを文脈から読み解き、梶山の司法に対する心の叫びについて、彼女は答えているのです。こうして人は繋がっていくのだ。ユニークな発想にも熱いものを感じました。ご覧あれ。

犯人とみられる女性由来のDNA型鑑定に度肝を抜かれた。どのようにしてこの結果にたどり着いたかが順次語られ、特に以下の内容の深刻さが印象に残った。

①粘着テープのDNA型鑑定を科警研・科捜研が独占するシステムになり、恣意的扱いが懸念された通りにチェック機能がない危険さがもろに露呈したこと。

②栃木県警がDNA型鑑定を、茨城県警が遺体解剖を分担し、容疑者逮捕までの8年半も栃木県警は解剖医と連絡を取らず、解剖医は粘着テープの存在を知らされなかったこと。そのために栃木県警は遺体から推察できる情報なしで容疑者を逮捕し、解剖鑑定書を都合よく解釈して統合捜査報告書として公判に使った。

有罪方向に使える証拠(殺害現場の証明に使われたルミノール写真。書面だけのNシステム通過証拠)に対して、無罪証拠は葬られ、不公平な証拠開示が真相解明を拒む原因になった。

③裁判官の検察への過信妄信
長期勾留・自白強要、取調中の暴力などを問題なしとし、証拠汚染など鑑定の杜撰さを黙認し鵜呑みにしたうえ、訴因変更してまで検察に寄り添った裁判だった。

思い当たることは傍聴していくつもあった。

・DNA型鑑定について

粘着テープと遺体をぬぐった証拠品から、捜査員と鑑定人ら8人分のDNA型の汚染が分かった。「鑑定資料としてふさわしくない」と検察側証人が発言し、さらに被告人のDNA不検出に対して「出なくても(犯人として)矛盾はない」と、証言した。科学を無視して、その時々で自分たちに都合のいい解釈をしてきた。

あまりにも杜撰な証拠の扱いに、これで客観的科学的と言えるのだろうかと驚いた。が、梶山連載を読んで、組織ぐるみで粘着テープの秘密を隠すなら充分納得できると溜飲した。

一審、控訴審とも、それぞれ法医学者が「粘着テープにある第三者のDNA型鑑定をやれば真犯人が分かる可能性がある」と証言したのに、裁判所は取り合わなかった。取り返しのつかない手落ちだった。もっとも、科警研での再鑑定では、どうなっていたか心もとない。裁判官は、被告人が犯人だと予断を持っていたように思えた。

・訴因変更について

一審は証拠は乏しいが、「自白」は信用できるとして、有罪になった。控訴審では、裁判官が検察に訴因変更を促し、検察が殺害場所と時間を拡げたことにより、犯罪事実の詳細が不明のまま結審して無期懲役が言い渡された。裁判官の検察への妄信や過信を見せつけられた。

本来は、証拠に疑いがあれば、犯人性が証明されたことにはならないはず。犯行場所と時間が広がったことで、捜査機関が自白を補強する証拠にした殺害現場ルミノール写真やNシステムの記録はどうなったのか。有罪になってしまえば、検察は証拠にこだわらないのか、今でも不思議でならない。

刑事裁判はまず冤罪を生まないことが大原則だ。

2010年に晴れて再審無罪になった足利事件の菅家利和さんだが、その4年後、今度は今市事件の容疑者として勝又拓哉氏の逮捕が同じように大々的に全国報道され、「自信をもって逮捕した」と栃木県警刑事部長が胸を張って記者会見した。

さすがに同じ間違いはしないだろうから、きっと決定的証拠をつかんだのだろうと、私は思った。ところが、1年半後、乏しい状況証拠しかなかったことが分かった。証拠が乏しかったなら、逮捕時の警察の自信は何の自信だったのか。

「自白」させる自信?有罪にする自信?たとえ疑わしくても、大した証拠なしに有罪にしてはいけないだろうと思った。それどころか、一審で被告人のDNA型不検出を隠していたことが後に分かる。

梶山連載によれば、決定的証拠を隠ぺいしていたという。

控訴審、最高裁と経たが、いつどこでどのように犯行が行われたのか未だに分からない。わいせつ目的で、犯行の発覚を恐れて殺したとされているのに、遺体に性的暴行の痕跡がない。凶器も不明、勝又氏のDNA型も指紋も出ない。もうはっきり勝又さんは今市事件とは無関係だと断言できる。それでも、無期懲役が決まった。

日本語の会話がやっとの勝又さんが、警察、検察、裁判官、さらには弁護士まで騙し通して、まだ殺ったことを隠している、という判断が下されたのだ。上告棄却で閉じた扉の重さに怒りと不信感でいっぱいになった。

世間的には一件落着した形だが、記者だった梶山さんが、人知れず資料を集め、専門家を探し当て、事件の闇を調査報道してくださったことをありがたく思う。服役している拓哉さん本人はもとより重い病気の寛解を待ってダブルワークで生計を立てながら、息子さんの救出のために東西奔走している勝又さんのお母さんへの力強い後押しだ。

私たちにとってもうれしい衝撃だった。記者の執念で追及した新事実、職責をかけて使命を貫く法医学者の鑑定結果はそれを知った私たちを揺さぶり、問題提起を突きつける。勝又拓哉さんを早く救出するには、どうしたらいいのか、と。

それにしても、知らないうちにとんでもなく恐ろしいことが決まっていくものだ。科学の名を装い、経費を口実に、捜査機関が鑑定を事実上独占するなど、納税者国民の臨むところではない。真相究明のために間違いが是正できる機関、システムが開かれてほしい。間違いないという前提で権威を保つより、疑いがあればやり直す権威の方がどんなに信頼できる事だろうか。

今市事件によって、私は司法の現実を勉強させてもらい、自分が試されていると感じる。

冤罪被害者が次々生まれる、この体質がなぜ改まらないのか、別件逮捕で長期勾留、証拠がない分「自白」を強要し、集めた証拠を独占する検察。DNA型鑑定で不検出でも「出ないこともある」という警察庁の科警研技官の言い分や取り調べにいささかも違法を疑わないことにみられる、裁判官の捜査機関・検察への過信妄信は、被告人に不公平すぎる。

さらに科捜研や科警研がDNA型鑑定を独占するシステムにした過程と現実に、足利事件の再来を恐怖している。捜査機関や裁判所は、冤罪を絶対出さない気概よりも、事実認定に誤りはないという権威高揚に加速している。

だからこそ、梶山スクープが大きな力になってくれたことは、期待以上の調査報道であると確信する。多くの司法関係者が警鐘を鳴らして、支援してくださることを励みに、今市事件の再審実現の一助になりたい。

今市事件発生から2年後に大沢小の通学路6カ所に設置された「子ども緊急通報装置」は、非常ベルやカメラ付きで、ボタンを押すと今市署につながり、署員は現場の映像を見ながら児童と会話ができる。

 

連載「絶望裁判」に東京都立大の女子学生が書いた感想文を載せたのをきっかけに、思いもよらぬ反響で、この連載のスペースの中で、多くの人たちが意見を出し合い、繋がった。素晴らしい体験だった。そして心の中に灯った一筋の明かり。それぞれの人たちの胸の中に日本の司法に今何が必要なのか、しっかりと目標が見えてきたと思う。

今市事件を追いかけている梶山は、2007年に亡くなった父のことを最近、よく思い出す。新聞記者になったとき、父は「マスコミは、とかく上から目線でものを言う。偉くならなくていい。ただの記者でいい。だけど、弱い人の声に耳を傾け、立ち止まり、助ける記者になってほしい」。そう言ってたよね、母さん。ボクは弱者の味方になっているよね。

 

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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