琉球弧の悲劇―軍事基地化を止めぬ日米政府―
琉球・沖縄通信【日米安保は「対中同盟」に変質、生命を奪う安保】
日米両政府は21年4月17日、菅―バイデン首脳会談・共同声明を出した。そこにまず台湾問題をおよそ半世紀ぶりに共同声明に明記した。これまで日米安保条約は国民向けでは「地域の安定装置」であるとしてきたことが、今「対中同盟」に安保の姿を変えている。菅―バイデン共同声明で「日本が軍事力を強化する決意表明」をして、台湾有事の「日米共同作戦計画策定」を合意している。後、同年12月報道に至る。
安倍晋三元首相らは執拗に台湾有事をあおってきて国内世論を作ってきた。22年1月7日の日米外務・防衛担当閣僚による「2プラス2」は「共同声明」を出し「中国の行動について、必要なら共同で対処する決意を示し」た。日米が「共同で対処」するということは、日米共同戦争、つまり沖縄戦の再来である。
【日米共同作戦計画】
南日本新聞の報道(21年12月24日付)を見てみる。表題は、「住民軽視 自衛隊も懸念」「米指針転換、離島が戦場に」「南西諸島 軍事拠点案」である。内容は「自衛隊が米軍と台湾有事を想定し、南西諸島に米軍の軍事拠点を設ける日米の新たな共同作戦計画の原案を策定したことが明らかになった。
米海兵隊は、敵地へ上陸する従来型の作戦から、小規模部隊の島嶼部への展開を骨格とする新たな運用指針に切り替えており、作戦計画に反映された。しかし、防衛省・自衛隊でも『住民を戦闘に巻き込むリスクが飛躍的に高まる。理解を得られない』と懸念が漏れる。」と、長く引用したが、筆者が述べたいのは、住民を巻き込むことに自衛隊も率直に懸念を示していることである。
石井氏の論考でも、自衛隊幹部も困惑気味の中で受けざるを得ない米軍の強硬提案だと考えられると述べている。南日本新聞(21年12月24日付)に掲載された写真は、「東シナ海を見る山崎幸二統合幕僚長と米インド太平洋軍のアキリーノ司令官」らの姿を伝えているが、アキリーノの戦争を作って「アジア人」の生命の損失などに「配慮」しない「軍事的合理性」で海洋を見つめる姿と、横に立つ山崎統合幕僚長の胸の内が異なるだろうと思わせている。
ところで新たな米軍戦略構想は遠征前方基地作戦(EABO)といい「日米共同作戦計画」原案と共に示された。琉球弧にある200程の島のうち給水条件がある有人島約40の島々で戦闘を展開する。米軍・自衛隊の既存基地があろうが無かろうが構わずに米軍は「臨時」に拠点を設ける。島々を移動しながら中国艦隊や空軍に攻撃を掛けるようだ。
「臨時」の戦場が決まるまでは軍事機密だから住民保護計画が立てられるはずがない。自衛隊幹部も述べている。沖縄タイムス(21年12月24日付)「住民保護 余力なく」の見出しで「申しわけないが、自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」と述べている。自治体云々は本心ではないだろう。軍事機密の戦争に対して自治体が計画前に知りうるはずはないではないか。
米軍は自衛隊には後方支援を担わせる。EABO作戦は16年に海兵隊司令官ネラー大将が発表した「海兵隊作戦構想」の柱の一つということだ。米軍にとって合理的選択かもしれないが、そこには多くの島民が生きている。米軍事戦略家には人命を考える発想がない。
だから自衛隊だって困惑しているのである。米軍高官たちの人間性喪失者に従う日本の政治家・官僚こそおかしい。大の大人が武器弾薬を持って戦争に突っ込む単細胞者から従属することを止めて、知性を備えた自立的態度を身に着けていただきたい。米軍事家たちが作り、安倍元首相らが引き継いだ「台湾有事は日本有事」は撤回していただきたい。島々を戦場にして日本政府は何か得することがあるのだろうか。
【米軍は戦場から撤退する、逃げると明言】
しかも、“驚くことに”米軍は有事には琉球列島から撤退、グアムかハワイに引き下がることも戦略に入っていることだ。米軍は逃げる、ことを直視しよう。大多数国民が信じている、「安保で米軍が日本を守る」という逆のことが米戦略である。ウクライナと同じだ。
自衛隊プラス島民に戦闘をさせるのである。島から攻撃すれば反撃・標的にされる。米軍は逃げるが、島の人々らは逃げも隠れもできない。死を待つばかり。認識していただきたいのは、自衛隊も島民も国民である。
戦闘の結果、米国にとって少し中国の「力量」を削減し、中国が「消耗」するとなれば、アジア太平洋での覇権国として君臨する将来像があるかもしれない。その米の覇権争いに日本が従うことが大事だろうか。
現在、土地規制法の施行が迫っている。法律の立法事実が見当たらないにもかかわらず、離島住民まで調査の対象にしようとしている。戦争準備の為に心の中で戦争反対と思っていてもあぶりにかけて先に排除しておく。戦争環境づくりの一環だと思う。
日本国民が知らぬ間に戦争準備の法整備も始まっている。今こそ戦争を止める動きを始めて行こう。琉球弧だけの問題ではない。
沖縄戦以上に民の無駄死をもたらす。「日米共同作戦計画」を止め、ミサイル配備は直ちに停止し、平和外交に舵を切らないと沖縄は消滅する。
【最後に】
河野洋平氏は「国交正常化50年の節目に、外交の智恵を尽くせ」と呼びかけている。
日中平和友好条約の第1条には「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和及び平和友好関係を発展させるものとする」とある。
この条文を守る立場からは「台湾有事は日本有事」という言葉がでてくるはずがない。日中共同声明、日中平和友好条約を相互に再確認するためにも締結50年の節目を国民全体で祝ってはどうだろうか。
問題解決は武力ではなく平和外交で行われるべきである。政治家・官僚は率先して米国、中国と平和裏な問題解決を模索し交渉していただきたい。いまだに77年前の沖縄戦の深い傷から立ち直るための努力を続けている沖縄である。
そこが再び戦争の犠牲になることはどうか止めていただきたい。146万人県民が生活している島々を戦場にしないでいただきたい。
沖縄は中国、台湾どちらの支持もしない。紛争に何の関係も無い沖縄が戦場となり県民が犠牲となることは、戦争犯罪に相当する行為である。沖縄は日米両政府が想定する対中戦争の前線基地となって犠牲となることを、断固拒否する。
●「ISF主催公開シンポジウム:参院選後の日本の進路を問う~戦争前夜の大政翼賛化」(8月27日)のお知らせ
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独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。