【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

年末「改憲解散」の可能性も、安倍晋三「核」「軍国化」暴走の背景

山田厚俊

・年末に解散総選挙も

このような安倍氏の思惑を察知してか、6月上旬、自民党の幹部職員とある派閥の領袖が党本部で密かに会合を持ったという。テーマは、参院選後の岸田内閣の足場固めだったそうだ。

永田町ではこの参院選で勝利すれば、岸田政権は安泰だとの見方が強い。しかし、幹部と領袖の考え方は違っていた。何か1つミスを犯せば、自民党内からも不満が噴出し、一気に政局になりかねないとの意見で一致したのである。では、どうすればいいか。自民党関係者はこう明かす。

「年末に解散総選挙を仕掛けるか、それができなかった場合、年明け通常国会の場で冒頭解散に打って出るかというプランです」。

Dissolution

 

このアイディアにはいくつものメリットがある。

1つは、野党が全くの無防備状態であること。準備不足からまたしても野党は惨敗を喫するというものだ。

2つ目は、衆院の10増10減の新区割り導入前の、現区割りで選挙をしてしまおうというもの。

6月16日、政府の衆院議員選挙区画定審議会が新区割りをまとめ、岸田首相に勧告した。一票の格差を是正するため、25都道府県の140選挙区で線引きの見直しを行なったのである。

A news headline that says “electoral district” in Japanese.

 

線引きの見直しは、現職議員の“死活問題”に直結する。支援者が別の選挙区になるなどの状況が発生し、後援会組織を組み直さなければならないからだ。自民党内では早くも反発の声が上がり始めている。

新区割り案を実施するため、秋の臨時国会では公職選挙法改正案が提出される見通し。しかし、可決成立したとしても、適用されるのは2023年4月以降になるといわれている。区割りの不満によって岸田政権が不安定化するよりも、適用される前に総選挙を実施すれば、異論は封じ込めるとの算段だ。参院選に勝利し、衆院選でも勝ったとなれば、まさに盤石の基盤固めとなり、3年ほどの準備期間が与えられことになるからだ。

そして、もう1つのメリットが“安倍潰し”だと見られている。最大派閥の安倍派だが、“ポスト安倍”がなかなか現れていない。安倍氏が簡単に「その座」を譲らないと見られているからだ。

それでも、健康問題と自身の後継問題を抱えている安倍氏にとって、合区前の現選挙区で戦うことの安心感はありがたいもの。加えて、後継者問題に悩む安倍氏に時間的猶予を与えようということ。つまり、2つの点で岸田首相は、安倍氏に恩を売れるのである。

“安倍潰し”というより、その影響力を抑えて飼いならす方策を探っているようだが、解散の大義名分はあるのか。そんな問いかけに対し、自民党関係者は笑いながらこう答えた。

「今年、ようやく衆院憲法審査会が動き始めたところ。自民党は、防衛・憲法改正などを公約に掲げています。野党が反対を訴えれば、岸田首相にとっては渡りに船。国民に信を問うと言って、解散に持ち込めばいい」。

そもそも、これまでも解散の大義名分なんて、あってないようなものだった。だから、“憲法改正”の是非を改めて問うという形にすれば、国民を納得させられると踏んでいる。こうして伝家の宝刀を抜くことで、岸田長期安定政権を狙っているようだ。

これに対抗する野党の手だてはないのだろうか。ある野党議員はこう嘆く。

「『常在戦場』が本来あるべき政治家の姿ですが、与野党ともに緩んでいます。常日頃から地元を歩き回り、有権者の声を聞き、法案づくりなどをしなくてはいけない。しかし、今の議員たちが実践しているのはごくわずか。野党でその傾向はもっと強い。早期解散総選挙に持ち込まれれば、大惨敗になるのは必至でしょう」。

カギを握るのは誰か。 ある政治ジャーナリストは語る。

「今はまだ少数だが、民主党出身の無所属会派『有志の会』に注目しています。福島伸享氏(茨城1区)、北神圭朗氏(京都4区)、仁木博文氏(徳島1区)、緒方林太郎氏(福岡9区)、吉良州司氏(大分1区)の5人。この有志の会が野党をまとめるカギになるのではないで
しょうか」。

これまでの野党と違った新しい姿を見られる日が来るのは、果たしていつの日のことだろうか。

(月刊「紙の爆弾」2022年8月号より)

 

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山田厚俊 山田厚俊

黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。

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