鹿屋基地にみる日米軍事一体化への道

米永あつ子

2022年7月11日、海上自衛隊鹿屋航空基地に米軍の無人偵察機が一時展開する計画を、中西茂鹿屋市長が容認した。慌ただしく、かつ段取り良く手続きに向け動きだした。7月20日には準備作業の米軍関係者10人がバスで鹿屋入りし、7月21日には九州防衛局の関係者が鹿屋市役所を訪れて協定書を交わした。

鹿屋市長が交わした協定書の拡大とダウンロードはこちらから

そして、7月22日には市長と議長が地元選出の国会議員に付き添われて岸信夫防衛相(当時)と面会し、要望書を提出した。

岸防衛相への要望書の拡大とダウンロードはこちら

海上自衛隊鹿屋航空基地の米軍利用問題は、05年から始まっている。04年に日米両政府は沖縄の海兵隊普天間基地の空中給油機(KC130)を岩国基地(山口県)に移駐させることで合意した。

Yamaguchi, Japan – March 21, 2017:United States Marine Corps Lockheed Martin KC-130J Super Hercules tanker aircraft belonging to the VMGR-152 “Sumos” taking off from the MCAS Iwakuni.

 

元来は鹿屋航空基地に空中給油機部隊を訓練及び運用のため、定期的にローテーション展開させ、必要な施設を整備するための計画だった。鹿屋基地は、戦前に海軍基地として作られ、戦後は海上自衛隊の航空基地となった。

現在は、海上自衛隊の哨戒機(当時はP3C、現在はジェットエンジンのP1)と救難ヘリが常駐しており、周辺住民は飛行機の騒音に加えてヘリの低音が響き電話の会話もできないほど日々騒音被害に悩まされている。

Fukuoka, Japan – April 14, 2014:Japan Maritime Self-Defense Force Lockheed Martin P-3C Orion maritime patrol aircraft.

 

A new Kawasaki P-1 Maritime Patrol Aircraft flies near the Atsugi air base. The Kawasaki P-1 entered service in 2013 to replace Japan’s aging American P-3C Orion aircraft.

 

しかも、自衛隊基地周辺には学校、保育園、病院、公共施設、住宅街があり。普天間基地と同じような環境だとも言われている基地である。

05年に普天間基地から12機の米軍空中給油機が移転するという話が浮上してから鹿屋市は、国に対して具体的な説明を求めてきたが国は「地元への説明なく再編を決めることはない」というばかりで、具体的な話はなかった。鹿屋市は基地問題を市民と共有しようと基地に関する情報を市報に連載し、また市主催の学習会も実施した。その内容をパンフレットにして市民に配布した。さらには06年2月26日、8000人の市民集会を開く等米軍反対の旗を揚げた経緯がある。

以来、息をひそめていた米軍の鹿屋基地使用が中西市長に代が入れ替わると再浮上し、16年に中西市長がそれまで鹿屋市は一貫して反対していた米軍機空中給油機訓練を「苦渋の決断」として受け入れたのだった。

さらに今年、今度は米軍無人偵察機の一時展開計画が浮上した。防衛省職員が鹿屋市役所を訪れ、議会全員協議会で米軍無人偵察機の一時展開が必要な理由を「ロシアのウクライナ侵攻も日本にとって脅威であり、台湾有事に備え中国を監視するために情報収集が必要。そしてまた海洋進出を強める中国を念頭に、南西諸島の警戒監視体制を強化するためだ」と説明。まるで『脅威』を強調した戦争政策ではないかと感じた。

Unmanned military drone armed with missiles for use in war and conflict.

 

結局、市議会は深まった議論もないまま今回の米軍機展開を容認する決議案が、議員25人の記名投票(賛成17、反対5、無投3)で可決した。

この結果が7月11日の議会全員協議会で『議会の決議を重く受け止める』と市長の一時展開容認表明への流れを作りあげた。

今回の議会の勇み足と言うべき容認決議は、6月議会初日に中西市長が述べた「議会における議論や市民の意見等を踏まえながら対応する」の言葉に呼応して、鹿屋市議会の任意の議員連盟が音頭を取り「市長の後押しをしよう」と発案し、容認決議を提案したと言われている。

決議文には「安全保障環境が厳しい状況を踏まえ、一時展開の必要性を理解し容認はやむを得ない」としている一方で、「市民の安心安全を担保するため日米地位協定の抜本的見直しを強く求める」との一文を無理矢理盛り込んでいることが気になった。「容認やむなし」という結論を正当化するために無理やり地位協定改定を言い訳的に持ち出している感が否めない。

決議文を提供した議員は「7月に無人機の展開が始まるのでそれに間に合うように決議文を出さなければならない」と提案理由を述べたが、展開に間に合うようになぜ決議をしなければならないのか、納得のいく説明もなかった。

しかも、中西市長が市民の安全保障と不安の声をまとめた質問書の回答を待っている最中に提出された決議案。市民の立場に立った議論はない中で誰が容認できるというのだろうか。私は怒りを超えて呆れるばかりだった。

結局、提案理由に対し3人の議員が反対討論に立った。賛成討論では2人の議員が「安全対策を徹底した上で、市民の命を守るために必要だと確信している」と主張。一方、反対派3人の議員が「市民の安心安全が担保されるよう最後まで国に丁寧な説明を求める決議をすべきだ。懸念は払拭されていない」と反論した。

九州防衛局の関係者が説明に来庁してから、わずか1か月で容認する危機感のなさに驚く。議会運営委員会の中でしか議論はなく、議会の中で『可決ありき』と非難されても仕方ない。オフィシャルな場所で全く協議がされていない容認決議。繰り返すが、市民生活不在のままで可決された決議だ。その決議を受けて中西市長の容認理由は、情報収集の必要性と住民説明会で市民の不安や懸念が整理されたというのも理解しがたい。

1年間だけの約束だというが、『約束』とは本来、重たいものである。容認まで議論不足の経緯の中で、約束事を守らなかった時の手順も語られていない。その際、市長は待ったをかける覚悟があるのか問われてもいない。

米軍無人偵察機8機展開に加え、市民生活で一番問題となるのは、200人もの米兵が駐留するということ。しかも民間の宿泊施設を利用し、市民の隣の住民になるということだ。米兵が使用する車は防衛省がレンタカーを借り入れるという。行動制限もない中、鹿屋だけの問題ではない。事件がなくても事故は起きるだろう。

米軍は何をしても許される日米地位協定下で市民生活の治安対策も机上の論理で説得力ない。

7月13日:住民説明会
7月14日:市長が県知事に説明・意見交換
7月19日:塩田康一鹿児島県知事が一時展開の容認を表明
7月21日:一時展開に関する協定を締結
7月22日:中西鹿屋市長・市議会議長が協定の遵守等の要請のため岸防衛相(当時)と面談し要望書を提出
8月1日:市庁舎内に相談窓口設置
8月3日以降、米軍関係者が順次鹿屋入りし、資材の搬入・設置等、一時展開にかかる準備作業を開始
8月4日:米軍無人偵察機の一時展開前に在日米軍副司令官ジェームスB. ウェロンズ氏ほか米軍関係者、防衛省職員が鹿屋市に挨拶のため来庁。

 

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米永あつ子 米永あつ子

鹿屋市議会議員

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