第43回 幻の証拠に踊らされた捜査と裁判
メディア批評&事件検証梶山:栃木県警は検視の際に被害女児の頭から見つかった布製の無粘着テープ片を勝手に持ち帰ってもいて、解剖医にも知らせていなかったのです。しかもその鑑定は犯人と見られる女性のDNA型が出ていたにもかかわらず、被害女児とそのほかに鑑定を行った科捜研技官2人の汚染で犯人追及はできないとした。勝又受刑者のDNA型は全くなかった。
元警察幹部: 証拠の管理、適正な証明が一貫してなされていない。警察というのは、出た証拠をきちんと管理しながら、鑑定を行い、被疑者と証拠品の結びつきを明らかにする。それから第三者の介在余地がないということを明らかにしないといけない。それが鑑定できないなら、その理由を明らかにしなければいけない。その努力が一切されてないということです。証拠から勝又受刑者と犯人が同一であるという事実が証拠から明らかにされていない。一審ではDNA型の解析データであるエレクトロフェログラムさえも開示されていない。
しかし、梶山さんは、その一審で提出されていない解析データを入手し、元科捜研主出身の学者ら2人に検証してもらい、犯人とみられる女性の型が検出されていたことを明らかにした。これを再審の新証拠とすれば、判決に大きく影響する可能性は大だと思われる。
我々警察や検察という犯人を逮捕して裁判にかける以上、証拠の一つである、しかも今回の事件で犯人割り出しが期待されたDNA型鑑定で犯人とみられる型が出ていながらそれを裁判に出さないというのは犯人隠避になる。重大な事件だ。ただもう時効が来ている可能性がある。何らかの処分はできるだろうが。
梶山: 解剖医が首筋の傷は爪による傷としているが、これを途中から警察、検察が勝手にスタンガンの傷に変えた。警察が勝又受刑者の自宅を家宅捜索した際に、スタンガンの箱を押収しているが、肝心なスタンガン自体がいまだに発見されていない。それなのにスタンガンも事件で使ったことになっており、一審の宇都宮地裁は凶器の一つに認定している。
元警察幹部: スタンガンの箱があったから結び付けたものですね。本来は勝又受刑者に自供させて、スタンガンをどこに捨てたか場所を特定させて、スタンガンを発見したら秘密の暴露になります。しかし、ガサを打った後に調書に出てきている。調書の日付とスタンガンの箱の捜索差し押さえの押収品目交付書の日付と見比べると、それが嘘の供述だとわかる。
ところが弁護士は知識がないから突き切れない。それもおかしい証拠。まず未だに見つかっていない。出てきてないものを証拠にするのもおかしい。思い込み捜査の典型だ。集めた証拠が一致しているという捜査の基本が出来ていない状況で逮捕している。考えられないような捜査だ。
その幻の証拠を証拠として採用する裁判官は最低。こんな裁判官なら今市事件のように証拠なしで有罪の山が作れますよ。恐ろしい。しかもこの裁判は裁判員裁判でしょう。これを知ったらさぞ傷つくでしょう。梶山さんが執筆している連載のタイトル「絶望裁判」そのものですよ。証拠なしで有罪ですから。
梶山: 栃木県警は、足利事件でも冤罪を起こしているが?
元警察幹部: 栃木県警は 群馬県境でも時効になった事件も含めてたくさんある。殺人事件の捜査の基本ができていない。それがこれまでの結果が示していると言っても過言ではない。何度も言うが捜査に一貫性がない。過去のミスを振り返ろうとしない。だから毎回繰り返すんですよ。警視庁とかの特捜班に基本を学ぶ必要がある。まず証拠ありきですよ。幻は絶対だめ。今市事件は無罪事件です。
だって考えてみてください。ガムテープの時だって軍手なんかを使いませんよ。凶器も遺留品も。何も出てこないなんてありえません。性行為をしたと供述していて、被害女児の体にその痕跡がないなら被疑者が嘘をついていると誰でもわかりますよ。見え透いた嘘は通りませんよ。
勝又受刑者の無罪証拠はあっても彼を犯人と断定する証拠はゼロじゃないですか。勝又受刑者は犯人じゃありません。証拠が裏付けていますよ。この捜査はちょっとひどすぎます。
一日も早く、検察と協議して白旗を掲げ、勝又受刑者を刑務所から解放するしかないと思いますよ。もうすでに梶山さんたちが証拠を掲げて報道しているのですから。
連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)
https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/
(梶山天)
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。