自民党を支える「宗教」―旧統一教会問題と安倍暗殺、現状は検証・解決に向かっていない―
メディア批評&事件検証・3つの懸念
ここまでの事件後の推移を見ていて私は3つの懸念を抱いた。
1点目は現在も連日のように報じられてはいるが、統一教会の問題をさらに掘り下げることの必要性だ。
教団がいかにして信者を獲得し、財産を奪い、多くの家庭を崩壊させてきたか。そこではどのような手段が使われ対象者の思考の枠組みを変え、自らを自己破産に追い込むまで苛烈な献金をしてしまうのか、そのメカニズムをしっかり解明する必要がある。
単なる消費者トラブル的な構造によって起きた事件ではなく、カルト問題が根にあることを示す必要がある。
2点目は、統一教会と政治家の関係について。立憲民主党や共産党がこの問題について国会での追及チームを作ることを発表した。統一教会と関係を持つ議員が最も多かった自民党内からも同じような動きが出てくることを期待したい。
しかしながら現状は逆行しているようだ。自民党の片山さつき議員は7月14日に「警察庁長官に『奈良県警の情報の出し方等万般、警察庁本庁でしっかりチェックを』と慎重に要請致しました」とツイート、情報統制を図る動きを見せている。
このままでは、岸信介元首相の時代の教団との蜜月関係から昨年9月のビデオメッセージに飛躍し、そこだけを抽出して安倍氏は山上容疑者に「統一教会シンパ」と“勘違い”され“巻き添え”に遭っただけ、と幕引きされてしまいかねない。
それではまた同じことが起こるだろう。しっかり検証して同じような被害者を出さない、出させないようにするのが政治の役割だ。深刻な被害者を生む団体と政治家が密接に繋がることの問題性を検証し膿を出さなければならない。
もし事件発生までに山上容疑者が何らかのセーフティネットに救われていたら、事件は起こらなかったかもしれない。底辺で喘ぐ人をどう救うかということも課題である。
この事件は一連のオウム真理教によるサリン事件のような「カルト団体が起こした重大な事件」ではなく「カルト団体の被害者が起こした重大な事件」である。その深刻さに思い至ってほしい。社会の側がカルト問題の陰にいる被害者たちから目を背けていたことも今回の事件の一因である。
もちろん、統一教会と政治家の関係性を報じてこなかったメディアの責任も重い。であればなおさら、自民党が安易な幕引きをしないようメディアがしっかり監視していく必要がある。
3点目の懸念として、2世たちへの影響についても触れておきたい。
「山上の気持ちが解ってしまうところが辛い」。 ある統一教会二世の女性が私に語った。彼女はすでに信仰はなく親や教団からも距離を置いている。
信仰のない統一教会2世は、親との関係、親と教団の関係、自身と教団の関係、この3つの関係性の中で様々な葛藤を経てきた。
親に対しては抑圧されてきた憤りと親子の情愛が心の中に同時に存在しているケースが多い。教団に対しては総じて恨みや憤りを抱いている。
であるからこそ、山上容疑者の動機面のみを抽出すると、その気持ちが解ってしまう部分があると感じてしまうのだ。
だからといって、蛮行に走る山上容疑者の心情と、他の大多数の葛藤を抱える統一教会二世の心象との間には相当な乖離がある。山上容疑者を“一般的な”統一教会の2世や「統一教会被害者信者の子ども」として取り扱うことには注意が必要だ。
この事件によって様々な問題がクローズアップされた。最も早急に検証が必要とされているのは、安倍氏と統一教会との関係性だ。
山上容疑者が安倍氏を「統一教会シンパ」としたことに論理の飛躍はないか、彼がそう思うだけの合理性はあったのか、改めて示す必要がある。そこで必要な情報については改めて書籍という形で社会に提示したいと思っている。
(月刊「紙の爆弾」2022年9月号より)
ジャーナリスト。ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」主筆。共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)、『日本を壊した安倍政権』(扶桑社)。