【特集】ウクライナ危機の本質と背景

現時点での安斎のウクライナ戦争論小括─2022年5月28日

安斎育郎

・ウクライナ戦争の基本的性格

❶アメリカがウクライナ国民を「人間の盾」として起こした対ロ戦略戦争が基本的性格である。

❷この戦争の非人道的性格は、ウクライナの極右民族差別主義集団「アゾフ」によるものである。

❸西側諸国によって戦況に関する情報の捏造・歪曲・無視が行われ、「悪のロシア」像がつくられた。

(1)ウクライナ戦争の原因は、次の3つである。

①NATOの東方拡大方針

ロシアが「国家安全保障上の重大な懸念」と再三表明していたにもかかわらず、NATOが東方拡大方針を取り続け、ウクライナのNATO加盟の可能性を受け入れてきたこと。

②アメリカによるウクライナ政権の傀儡化とNATO加盟への勧誘

アメリカはオバマ政権下のバイデン副大統領を中心にウクライナにNATO加盟を促し続けただけでなく、2014年のユーロ・マイダン・クーデターの機会にヌーランド国務次官補を現地に派遣し、暴力的極右集団まで使ってウクライナ政変に関与して傀儡政権をつくり、ついにはウクライナ憲法に「ウクライナ首相のEUおよび NATOへの加盟努力義務」まで規定させてロシアを刺激したこと。

③ネオナチ集団アゾフによるロシア系住民に対する非人道的行為

2014年のユーロ・マイダン・クーデター以来、ネオナチの極右民族主義思想に染まった民兵集団「アゾフ大隊」がウクライナ国家親衛隊として正規部隊に組み入れられ、「アゾフ連隊」としてドンバス地方のロシア系住民に非人道的・反人権的な無差別攻撃を加えて14,000人とも言われる犠牲者を出してきたこと。

(2)戦況

軍事的にはマリウポリのアゾフスターリ製鉄所に立てこもったアゾフ連隊を中心とするウクライナ軍が全面降伏するなどしてロシア軍が優位性を示し、その後のルハンスク州支配を決定づけるセヴェロドネツクでの戦いでも、局所的な一進一退はあるものの、ウクライナ軍部隊に戦闘命令拒否の動きが出るなど、ロシアによる完全制圧は時間の問題と言われる。

ゼレンスキー大統領は西側諸国に重火器などの無制限軍事支援を、また、セヴェロドネツクを防衛する現地司令官は「英雄主義だけで都市を守るのは不可能だ、敵を遠距離で攻撃できる武器が絶対的に不足し ている」と訴えており、自力での戦闘継続が困難に陥っていることを
認めている。

アメリカ、イギリス、ポーランドは今のところウクライナの最終的な勝利を信じていると伝えられるが、フランス、ドイツ、イタリアは早期停戦の模索を主張し始めており、ルハンスク州を失うと後者の支持が拡大する可能性がある。

(3)ウクライナの政治体制

ゼレンスキー政権下のウクライナ政治は、アメリカのネオコンおよびウクライナのネオナチ(アゾフ連隊)の強い影響下に置かれ、ウクライナ主権の代表者たる大統領の自律的な意思決定権が極端に制約されていると思われる。大統領が戦局の不利を認識してロシアとの和平交渉を望んでも、それを阻む力学が働いている。

(4)情報戦

アメリカやイギリスをはじめとする西側諸国は自陣営に有利な情報を選択的に報道し、不利な情報を徹底的にブロックするなど、極端な情報統制を行なっている。

時には「ブチャの悲劇」や「マリウポリ劇場攻撃」や「アゾフスターリ製鉄所からの民間人の避難妨害」など、アゾフ連隊を中心とするウクライナ側が仕組んだ非人道的な行為を「ロシア軍の反人権的な行為」として報道し、真実が明らかになった後でも訂正報道に否定的な態度を変えず、ロシア軍の非人道性やウクライナ軍の抵抗によるロシア軍の攻勢の遅れなどを演出し、現状認識を見誤させる情報戦を続けている。

一方では、ロシア軍の住民避難への援助や、食料や戦災復旧のための援助活動、さらには、マリウポリやルハンスクの避難者の証言(「攻撃してきたのはアゾフ」など)に関する報道は徹底してブロックしている。

NATO加盟方針を表明しているフィンランドのマリン首相は、2022年5月26日にウクライナを訪問し、「ロシア軍が多数の民間人を殺害した」と誤報されたブチャなどを視察したと伝えられるが、このような捏造情報が国家元首レベルでも信じられているとすれば、こうした状況は速やかに改善されなければならない。フランス憲兵隊法医学チームがウクライナの仕業と解明した「ブチャの悲劇」との関わりで決議された国連総会決議も、見直されるべきだろう。

(5)この戦争で大儲けするアメリカの軍需産業

ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、レイセオン・テクノロジーズ、ゼネラル・ダイナミクスなどアメリカの軍需企業の株価が軒並み高騰し、最高値を更新している。アメリカのオースティン国防長官はレイセオン・テクノロジーズの重役 だった。

ウクライナに対する武器貸与は「2022年ウクライナ民主主義防衛レンドリース法 」に基づいて行われているが、既存の法律では、貸与した武器が破壊されるなどした場合に受け取り国(ウクライナ)が金銭による返済を行う義務が課されていたり、あるいは武器の貸与期間が5年間に限定されていたりしていたが、新法では、これらの規定の適用を免除している。したがって、武器の費用は回収できないので、国の財源から軍需産業に金が流れる構図になっている。

(6)日本の立場、日本の市民運動の傾向

日本を含む西側世界の多くの国が、アメリカを指揮者とする「反ロシア、プーチン・バッシング」合唱団の一員として声を揃えてウクライナ進軍マーチを歌っているが、それは対米従属路線を歩む日本政府レベルだけの話ではなく、市民運動、平和運動、憲法擁護運動、反核運動の中でも「ロシア批判・ウクライナ支援」の声が圧倒的に強い。

しかし、この戦争の背景を踏まえるなら、この対立の原因をつくり、いやがるロシア熊を小突きまわして怒らせ、暴れ出した熊をさらに小突き回すための槍や礫 つぶて をウクライナ国民に供与して展望のない戦いを継続させ、自らはウクライナ国民を「人間の盾」に ロシア疲弊作戦を見物して軍需産業を利しているアメリカ政府の本質的な責任を見逃してはならない。

(7) 和平への展望

ロシアが「特殊軍事作戦」に踏み切るに至った原因は、❶ウクライナのNATO加盟、❷ネオナチによるロシア系住民への暴力、である。

❶のウクライナの NATO 加盟については、「NATO加盟問題を白紙に戻し、中立化の可能性を模索する」方向にウクライナが舵を切れば和平への道が開かれる。

❷のネオナチの根絶は、今次戦争のネオナチ系戦犯の裁判を通じて思想と行動を検証するのに加え、アゾフ連隊を正規軍に組み 込んでいるような状況も含めて、ウクライナがネオナチの影響をどう克服出来るかは、すぐれてウクライナ国民自身による戦後政治の重要な課題である。即時停戦のためにはウクライナ政府が中立化の可能性を排除しない意志決定を速やかに行ない、それに基づく対ロ和平交渉をいかなる国家や機関も妨害することなく誠実に行うことだろう。

・ウクライナ情報─ロシア兵の蛮行?

あれもこれもロシア兵の蛮行というウクライナや西側諸国の発信のウソが大分暴かれてきました。ブチャの大虐殺、マリウポリ劇場ミサイル攻撃、産科の女性への攻撃・・・・。それらがロシアによる蛮行ではなく、ウクライナ軍、とりわけ、ネオナチのアゾフ連隊の仕業らしいことが科学的調査やその場に居合わせた人の証言などで明らかにされてきつつあります。

戦争では、敵への憎しみを煽り立てる宣伝方法がよくとられますが、今日お伝えするニュースもひどいものです。西側報道では一切伝えられないのですが、ロシアテレビ( RT )によれば、次のような 情報が伝えられています。

これまで、ロシア兵による少女レイプの蛮行などが伝えられ、「悪魔のロシア」を演出する戦術の一端を担ってきました。こうした情報は、ブリンケン米国務長官や、民主党のヒラリー・クリントン、あのトランプ大統領の演説原稿を目の前で破り捨てた下院議長のナンシー・ペロシらによって、さらには、ゼレンスキー大統領によって「おぞましいロシア兵の非人道的振る舞い」として引用され、毎日のようにウクライナから発信されてきました。

ところが、これらはウクライナ人権委員会のオンブズマンのリュドミラ・デニソヴァという女性による作り話だったとして、ウクライナ政府は残りの任期1年を待たずして解雇しました。デニソヴァが発信するロシア兵による性犯罪や小さい子供に対するレイプ事件については、ウクライナ国内で事実関係が確認されず、かえってウクライナに悪影響を与えるということで、ウクライナメディアやプロパガンダをつくる関係者まで「ドン引きした」ということです。

信用ある報告として「ロシア兵の蛮行」を話すブリンケン米国務長官

 

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安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国 ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

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