「資源のない国」から「自然豊かな国」へ―安藤昌益に学ぶ―(後)

中瀬勝義

5.これからの都市や国の在り方

安藤昌益は環境の問題でも先進的な視点を持っていたと言われている。ここでは健康・環境・資源の問題を中心にこれからの都市や国の在り方を検討してみたい。

(1)自動車から自転車へ

ブッシュ米大統領が「アメリカ人は石油中毒」と言ったように、アメリカは自動車なし ではありえない国になってしまっている。そのためにアメリカは貿易赤字になるとともに、運動しないために生活習慣病による医療費支出が拡大した。それを反省し、石油を消費し ない、運動不足が解消される自転車の活用を国家戦略として展開している。

自転車は持続可能社会の優等生と言われ、ヨーロッパでも国家戦略として自転車活用が 推進されている。アメリカが自転車活用に取り組む大きな動機は石油輸入による貿易赤字と90兆円とも言われる医療費の削減を目指しているためである。

アメリカと同様に日本でも近年は自動車に依存し、特に地方では自動車なしでは生活ができないまでになっている。しかし、石油資源は今後40年しかないとも言われており、抜本的な自動車依存ライフスタイルからの転換が求められている。

ヨーロッパでは自転車専用路線を設け、市民が自動車の活用から便利な自転車活用に転換するための仕組みづくりが進んでおり、日本でも自転車活用の仕組みづくりが望まれる。自動車から自転車に転換するメリットは以下のように大きい。

①自転車は少ない資源で製造できる。

②運転するのに燃料がいらない。

③排気ガスや騒音などの公害がない。

④駐車場のスペースが少なくて済む。

⑤運動不足が解消され健康になる。

⑥観光などの便利なツールである。

自動車を製造するには大量の資源とエネルギーが必要になる。特に資源の少ない日本においてはその資源は輸入に頼らざるを得ないことから問題は大きい。さらに石油燃料を消費しないこと、環境汚染をしない等と効果的である。そして、運動不足が解消され、買い物や観光などにも有効である。

自動車を使う生活から燃料の必要ない自転車活用の生活に徐々に転換できるならば世界の資源はより長持ちできるようになるとともに、環境問題の最大の原因が削減されると考察される。また、地方においては自動車のない生活が成り立たないとの意見があるが、昔のような御用聞きや訪問販売を再生すれば、自らがマイカーで買いに出かけなくとも必要品が入手可能となり、その問題は解決できる。

(2)家庭菜園・屋上菜園のすすめ

都市の大きな環境問題にゴミ問題がある。ゴミの約30%は生ゴミとも言われ、生ごみの削減は重要な課題である。著者は家の屋上に約100個のプランターによる家庭菜園を行い、生ゴミを堆肥化し、土として、肥料として活用し、自宅からは生ゴミを出さないエコライフを20年近く実践してきた。

屋上に降る雨水も活用し、夏の厳しい時期を除いて水道水は使わなくても済んでいる。夏は1か月に10キロ前後収穫ができ、寒い冬には1キロ前後しかないが、食料自給率にはかなり貢献している。

このエコライフを、国を挙げて実践したキューバを紹介した吉田太郎によると、「ソ連圏の崩壊と1959年の革命以来続いているアメリカの経済封鎖というダブルパンチで、石油、食糧、農業、化学肥料を始め、トラックから、石鹸のような日常品にいたるまで、何もかもが途絶するという非常事態に直面した。

キューバは農業国でありながら、砂糖やコーヒー と言った換金作物を輸出して、米や小麦を輸入するという国際分業路線に乗ってきたこと から、日本と同じように、国内食料自給率は40%そこそこで、一歩舵を誤れば、大量の餓死者を出しかねない危機的状況下で、ハバナ市民が選択したのは、首都を耕すという非常手段である。それも農薬や化学肥料もなしである。

そして全くのゼロからスタートした都市農業が10年を経て、結果として一人の餓死者も出すことなく、かつ、220万人を超す都市が、有機農業で野菜を完全自給することに成功したのである。市全体では、家庭菜園、個人農家、協同組合農場、自給農場など8000を超す都市農場や菜園があり、3万人以上の市民が耕している」と報告している。

未曽有の経済封鎖の中でなされた世にも不思議な物語がキューバで起こったということ である。この経験は終戦直後の日本そのものと言ってもいい。敗戦によって大変な苦労を 強いられたわけだが、資源がなくても国民は独自のライフスタイルを編み出し、何とか生きていくことができる能力を持っている。

豊かな生活・経済が継続しただけでその真髄を 忘れてしまうほど人間は愚かではない。資源やエネルギーが不足するという若干の不自由 があっても、時間をかけて工夫していけば「環境と調和した社会」へ転換することは可能だということではないだろうか。

家庭菜園等は世界的にも広がっており、ドイツでは市民農園(クラインガルテン)が発 達し、その収穫量は市民の消費量の1/3にも達していると聞いている。フランスなども同様で、長期のバカンスには農村に家族ぐるみで入り、休息や観光とともに農的生活を行い野菜を収穫している。こんなライフスタイルをこれからの日本も抜本的に行うような国の在り方に転換することが望まれる。

現在日本の休耕地や耕作放棄地の面積は38.6万 haと耕作地面積の約8%、国土面積の約1%、国民1人当たり10坪に相当し、この休耕地や耕作放棄地を家庭菜園に活用できるとドイツに匹敵する市民農園の可能性があり、食料自給率はかなり向上することが可能である。

また、自然農法創始者・福岡正信氏によると、1反 で家族5人位は食べられ、日本の耕地面積は459万ha(農林省統計、ピークは昭和36年の609万ha)なので、単純計算すると約2億人分にもなる。農業人口減少等課題は山積だが、今後の政策次第で食糧自給率100%も夢ではない。

 

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中瀬勝義 中瀬勝義

1945年生まれ。東海大学海洋学部、法政大学法学部卒、首都大学東京大学院観光科学修士卒。環境調査会社で日本各地の環境アセスメント、海洋環境調査に参加。現在はNPO地域交流センター、江東エコリーダーの会、江東区政を考える会、江東5区マイナス地域防災を考える会等に参加。技術士(応用理学、建設、環境)。著書『屋上菜園エコライフ』『ゆたで楽しい海洋観光の国へ、ようこそ』(七つ森書館)。 中瀬勝義 | ちきゅう座 (chikyuza.net)  Email:k.nakase@ka.baynet.ne.jp

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