「台湾政策法」は米中の次の爆弾ー台湾を同盟国化し外交待遇を付与ー(上)

岡田充

台湾を主要な同盟国にし、台湾在米機関の名称を「台湾代表処」に変更して外交待遇を付与。攻撃用兵器を含め約45億ドル(6120憶円)の軍事支援を供与する。

米議会上院の超党派議員が2022年7月、こんな内容の「2022年台湾政策法案」(注1)を提出した。提案通り議会を通過して大統領が署名すれば、米国の「1つの中国」政策は完全に空洞化し、中国が大軍事演習を上回る「強硬措置」に出るのは必至だ。

米中対立の次の「爆弾」になりかねないこの法案内容を点検すると、対中強硬派の本音が見えてくる。

China and Taiwan tensions, conflict and crisis. Newspaper print. Vintage press abstract concept. Retro 3d rendering illustration.

 

まず、台湾問題をめぐるこの間の米中関係を整理する。台湾が米中対立の核心的争点になる中、中国はバイデン政権が「1つの中国」政策の空洞化を狙っているとの疑念を深めている。バイデン政権も、台湾問題で中国が許容できない一線を意味する「レッドライン」を探るため、トランプ前大統領に続いて対中挑発を繰り返してきた。

ペロシ米下院議長は8月初め、バイデン政権の制止を振り切って、間もなく終わる自己の政治生命を前に、個人的レガシー(政治的遺産)を満足させるため訪台を強行した。

Nancy Pelosi, congresswoman and speaker of the United States House of Representatives, sitting in a red car participating in the pride parade. Photo taken in San Francisco, California on June 26 2022.

 

これに対し中国は、台湾を包囲して11発のミサイルを発射する最大規模の軍事演習で報復した。さらに中国軍が、台湾海峡の「中間線」を無視し、台湾本島の東側を含む軍事演習を「常態化」させるのは間違いなく、彼女の訪台は米台双方にとって明らかに逆効果になった。

軍事演習で注意すべきは、中国がミサイルを日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させたこと。EEZへの落下それ自体は国際法上の違法性はない。ただ政治的には、台湾有事を煽って軍拡と米台連携を進める岸田政権への警告であることは忘れるべきではない。

・公的交流を解禁、国家承認に近づく

この法案を提出したのは、「台湾ロビイスト」のリンゼー・グラム上院議員(共和党)とロバート・メネンデス上院議員(民主党)。2人は22年4月15日に台湾を訪問して、蔡英文総統と会談した。法案内容について、台湾側とすり合わせたとみられる。

Taipei ,Taiwan- Sept.30,2018 Presidential Office Building of Taiwan located in downtown Taipei.

 

仮に法律が成立しても行政府への強制力はなく、バイデン政権が実際に法案のどの規定を発動するかの選択が焦点になる。「1つの中国」政策を空洞化する内容だけに、バイデン政権も神経を尖らせ、連邦議会は8月の審議入りを見送り、9月から法案修正の協議に入ることになった。

法案は全9編からなり、このうち第1編「米国の対台湾政策」と第2編「米台の防衛パートナー強化と実行」を中心に内容をみる。

第1編の第101条「政策の宣言」は、米国の台湾政策を再確認すると共に、法案趣旨として「台湾の安全とその民主的、経済的、軍事的システムを支援し、海峡両岸の安定を促進し、台湾をインド太平洋経済枠組みに編入し、中国の台湾侵略を抑止する目標を確立する」と明言した。

この「中国の台湾侵略を抑止する」とは、中国からみれば「台湾統一の阻止」である。中国共産党にとって台湾との平和統一は、近代化と平和的国際環境の実現と合わせ「歴史的三大任務」の一つであり、「統一阻止」は許容できない内政干渉になる。

中国は軍事演習直後の8月10日に新たな「台湾白書」を発表し、米国を指す「外部勢力の干渉」を「台湾独立勢力」と並べて、「主要矛盾」に位置付けた。中国政府は法案を、「外部勢力による内政干渉の法制化」と見做すだろう。

次に102条「台湾政府の処遇」は、「米政府に対し台湾の民主政府を台湾人の合法的代表として関与させ、米政府当局者は、台湾政府当局者との公的交流へ規制を止める」と、当局者間の相互交流解禁を求めた。

トランプ前大統領時代の2018年、高官の相互訪問を促進する「台湾旅行法」を制定。そしてトランプ前大統領は2020年夏、台湾旅行法に基づき、アザー厚生長官とクラック米国務次官を相次ぎ訪台させた。これに対し中国側は、軍用機を台湾海峡の中間線を数回にわたり越境させたほか、軍事演習を繰り返して「第4次台湾海峡危機」ともいうべき現在の緊張の導火線になった。

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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