「台湾政策法」は米中の次の爆弾ー台湾を同盟国化し外交待遇を付与ー(上)

岡田充

・既に台湾軍事予算の増額を要求

法案ではさらに、103条で「国務長官に対し、中華民国の国旗掲揚を含め台湾当局に台湾主権を象徴する行動を慎むよう求めた行政指導を撤回するよう求める」とあり、「国家承認」に近い措置を提言している。

しかも104条では、米中間で確実に問題化するだろうが、「台湾への事実上の外交待遇は他の外国政府と同等」と台湾を国家扱いし、「国務長官に『台北経済文化代表処』の名称を『台湾代表処』に変更し、それに応じた調整を行うよう指示させる」と、名称変更を提言している。

第2編の「米台間の防衛パートナー強化と実行」も、際どい記述が並ぶ。201条の「台湾関係法の改正」は、「防御的な性格の兵器」の台湾供与をうたっている「台湾関係法」の改正を求め、「防衛的兵器」だけでなく、「攻撃用兵器」も供与可能にする内容だ。

台湾関係法を変更し、米中間で合意した「台湾への武器供与を次第に減らし、問題を最終的に解決する」とした1982年8月の「第3コミュニケ」を、骨抜きにする狙いが透けて見える。

さらに202条では、国防長官に人民解放軍の侵略から台湾を守る「戦争計画の改定・報告の指示を要求」。203条は、国務長官に対し国防長官と協議の上、台湾と作業部会を設置し、中国の侵略の効果的抑止を維持するための(兵器)購入計画や防衛の優先順位など、脅威対応と解決策について共同評価し報告させるとしている。これだと米台の安全保障協力は、日米安保体制並みになる。

武器供与については204条で、台湾の防衛能力の近代化を加速させるため「4年以上にわたり45億ドルの対外軍事資金供与を承認する」と定めた。さらに最大20億ドルの融資および融資保証と、対外有償軍事援助から武器備蓄に1億ドルを拠出するとしている。これらの資金供与は、「国務長官が議会に対し、台湾が前年度比で防衛費を増やしていると証明した場合にのみ利用可能」とある。

American soldier in uniform and civil man in suit shaking hands with national flag on background – Taiwan

 

台湾行政院は8月25日、2023年度防衛費を総額5863億台湾ドル(約2兆6500億円)と、22年比13・9%増額する予算案を決定した(注2)。軍事費増額は6年連続だ。国内総生産(GDP)比で約2.4%になり、現在の1.65%から大幅に膨れ上がる。

ここで想起するのは、マーク・エスパー米元国防長官が7月半ばに台湾を訪問した際、蔡英文総統に対し国防予算を国内総生産(GDP)比で3.2%に倍増させ、「全民皆兵」に兵制を変え対中軍事力の強化を要求したこと(注3)。台湾は2019年に徴兵制を終了したが、中国との軍事的緊張の高まりの中、4か月の兵役義務の延長検討など、年内の兵制見直しに入った。

軍事費の大幅増額と兵制見直しのいずれもが、エスパー提言への「回答」と分かる。台湾政策法案は、米台の将来関係だけでなく、一部は既に実行に移されているのだ。

(下に続く)

(注1)URL:https://www.congress.gov/117/bills/s4428/BILLS-117s4428is.xml
(注2)行政院通過112年度施政計畫 蘇揆:戮力推動國家重要政策及計畫 (行政院全球資訊網-本院一般新聞) (URL:https://www.ey.gov.tw/Page/9277F759E41CCD91/1181f445-a648-4761-bf46-e7b67b9b1aefey.gov.tw)
(注3)岡田著「台湾に『軍事予算倍増』『男女1年兵役義務化』要求した米元国防長官発言が物議。日本も他人事では…」(URL:https://www.businessinsider.jp/post-257124

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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