憲法・国会無視、NATO首脳会議で岸田首相「日本軍事化」約束
政治6月29日、スペイン・マドリードで開催されたNATO(北大西洋条約機構・加盟国)首脳会議に、岸田文雄首相は日本の総理大臣として初めて出席した。同日にはそれに先立ち、岸田首相の主催で、アジア太平洋パートナーであるオーストラリア・ニュージーランド・韓国・日本の4カ国による首脳会議も開催された。
NATOはその名称通り、北大西洋の安全保障にかかわる「軍事同盟」である。ここに、北大西洋から遠く離れた日本が、ましてや首相が参加したのはなぜか。その意味はどこにあるのであろうか。
・岸田首相が出席した理由
日本は北半球の極東に位置し、北大西洋とは全く無縁である。だから、日本は、NATOの正式加盟国ではない。しかし、第二次安倍政権時代の2014年には、後述するようにNATOとの間で「国別パートナーシップ協力計画」を締結している。それにより、一定の関係を持っていることも事実である。だからといって、加盟国ではない日本の首相が首脳会議に参加することは、やはり異様なことである。
その背景に、今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻と、日本海・南シナ海をめぐる中国や朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の動きの活発化が指摘されている。しかし、ウクライナ情勢はユーラシア大陸のロシアとウクライナおよびNATOの問題であり、直接的には日本と無関係である。また、中国や北朝鮮の動きは今に始まったことではない。したがって、それらをもって出席の理由とすることには無理があるだろう。
では、岸田首相はなぜNATO首脳会議に出席しなければならなかったのか。
アメリカのバイデン大統領が推進している「自由で開かれたインド太平洋の実現」こそが、その背景にあるのではないだろうか。5月に初来日したバイデン大統領は、同23日に日米首脳会議、翌24日にクアッド(4カ国)首脳会議を東京で行なった。クアッドは、両国にインドとオーストラリアを加えたもので、インド太平洋地域の問題を協議している。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、NATOは直接的には戦闘に参加しないが、多くの武器を供与し、さまざまな経済封鎖を行なっている。それは、すなわちNATOによるロシアおよび周辺国への締め付けを意味している。
これらはNATOから見た東側の世界の問題であるが、ロシアの南側には中国があり、その周辺にインドや日本、韓国が位置している。「自由で開かれたインド太平洋の実現」は、ロシアと中国を現状の中に封鎖し、外への拡大を防止しようとするものにほかならない。日米安保条約を国是とする自民党(自公)政権は、NATO勢力のインド太平洋地域への拡大に寄与するため、NATO首脳会議に参加したのであろう。
6月のNATO首脳会議では、新しい「戦略概念」が採択された。10年の首脳会議で採択された「戦略概念」は、ロシアとの関係を「戦略的パートナーシップ」と呼び、中国には全く触れなかった。だが、今回の「新戦略概念」は、初めて中国にも言及している。
その理由を日本経済新聞6月29日付は、〈NATOが中国に言及するのは、欧州を防衛する上でその動向が無視できなくなっているためだ。例えば中国の技術発展は、高速通信規格「5G」に絡むスパイ疑惑となって欧州の不安を深めた。
広域経済圏構想「一帯一路」ではギリシャ最大の港湾という重要インフラを買収した。ほかにも宇宙やサイバー空間、北極海で中国は活動を活発にしている〉〈対中国で連携するため、NATOは首脳会議にアジア太平洋の4カ国を招く。(中略)中国の台頭にどう対応するかを話し合うとともに、ロシアのウクライナ侵攻を機に不安定になっている世界で民主主義陣営の結束を示す〉と論じた。
これは、やはりユーラシア大陸の西側に位置するNATO、南側のインド、東側の日本と韓国が共同してロシアや中国を封じ込めようとする政策の一環である。言い換えれば、NATOのインド太平洋地域への勢力の拡大にほかならない。
首脳会議では、ストルテンベルグ事務総長の冒頭発言に続き、最初に岸田総理大臣が次のような発言をしたとされる(首相官邸ホームページより)。
(1)NATO首脳会合に、わが国を含むアジア太平洋のパートナーが参加していることは、欧州とインド太平洋の安全保障が切り離せないとの認識の表れである。ロシアによるウクライナ侵略は、欧州だけの問題ではなく、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙。日本は、G7を始め同志国と足並みを揃えて前例のない強力な制裁措置を講じ、ウクライナの人々に寄り添う人道支援、財政支援、防衛装備品支援、避難民受け入れを行っている。
(2)ロシアによるウクライナ侵略は、ポスト冷戦期の終わりを明確に告げた。東シナ海・南シナ海で力を背景とした一方的な現状変更の試みが継続されている。ウクライナは明日の東アジアかもしれないという強い危機感を抱いている。力による一方的な現状変更の試みは、決して成功しないことを、国際社会は結束して示していかねばならない。
(3)今回の侵略に際し、ロシアによる核兵器使用の脅しは、核不拡散体制に深刻なダメージを与えたのではないかと危惧。
(4)現下の国際情勢を踏まえ、日本は、本年末までに新たな国家安全保障戦略等を策定する。また、日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意。
(5)NATOは日本の重要なパートナーであり、協力の一層の強化に取り組んでいく。新時代の日NATO協力の地平を開くため、協力文書である「日・NATO国別パートナーシップ協力計画(IPCP)」を大幅にアップグレードする作業を加速化し、サイバー、新興技術、海洋安全保障といった分野での協力を進展させる。
(6)NATOが、インド太平洋地域への関与を強めていることを歓迎。
これら岸田首相の発言は、要するにNATOへの全面的依存であり、軍備力の増強による再軍備化の容認だ。
ここでの発言は「国際約束」であり、反故にすることは不可能である。 そのような場で岸田首相は、憲法9条の根幹にかかわることを平然と述べたのだ。どのような考えの下でのことか、少なくとも岸田首相は、秋の臨時国会で十分に説明する義務がある。
国権の最高機関は国会である。行政府が立法府の上位に位置することは絶対にない。首相自らがその説明を拒否するならば、あるいは十分な説明ができなければ、それは憲法に違反した行為であり、直ちに国民の審判を仰ぐべきである。
「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。