【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ停戦のためには背景を見る必要がある―NATOの拡大と武器援助がロシアの恐怖に―

羽場久美子

私は、中朿欧の近現代国際政治、 第一次世界大戦それから第二次世界大戦、 そして冷戦、さらにはEUやNATO拡大を専門にしています。

ロシアのウクライナ侵攻に ついて、あまりメディアで言われていない3つのことについて今日は話させていただきます。ロシアのウクライナ侵攻は主権と領土一体性への非常に乱暴な攻撃であり、展望もないままロシア国民や兵上を騙しながらやっているという点で、非常に問題があると思います。

そのうえで、戦争というものは100%片方が悪いということは絶対にあり得ません。今、世界中のメディアはこの戦争において、ロシアが悪、ウクライナが善として報道しています。

しかし、少なくとも政治学者としてはそんなことはあり得ない。戦争をするとき、自国民に対してはどちらも自分たちは正義であると言うわけです。双方の意見をききつつその正義を吟味するのが本来のメディア、研究者、外交です。一方だけを正義にした戦争という見方は間違いです。多くの專実を拾象してしまいます。

・「ナチス以来」は、噓

1つ目、 西側世界では、今回のロシアのウクライナ侵攻はナチス以来、第二次世界大戦以來の最大の戦争だとよく言います。嘘です。 間違いです。

ナチスはホロコーストで600万人殺しました。第二次 世界大戦で、ソ速は2000万人、中国は1000万人、日本は280万人近く死んでいます。一人一人の死は地球より重い、と言われますが、それでも比較統計学的に見ると、ウクライナでロシア殺した人数は国連人権高等弁務官事務所報告で、925人、実際はより多いと言われますが、桁が3桁も4桁も違います。

1956年のハンガリー事件、68年の「ブラハの春」と言われたチェコスロバキアなど、ソ連は何回も東欧諸国に侵攻しています。ポーランドにも行っています。だから、ポーランドやハンガリーやチェコはロシアをものすごく恐れている。彼らからすると、目の前でその過去が再現されているような印象でしょう。

9.11で3000人余の方が亡くなったにアメリカは、テロリストに報復するとして、アフガニスタンとその後イラクに侵攻し何十万の人を殺しました。でも今のようには国際世論は何も言わなかった。

戦後も繰り返し戦争や殺戮があったにもかかわらず、ナチス以来の初めてということは事実に反します。誰も分かっている噓をなぜここまで、メディアも社会も一致して言うのだろうか、と思います。少し不思議に思っていただきたい。

・問題の根源はNATOの拡大とウクライナ軍事支援

2点目は、ロシアはなぜ侵攻したか、です。

その背景はNATOの拡大、ウクライナへの武器の供与です アメリカは、ポーランド経由であるいは他の国経由で多くの武器を供与してきました。今もしています。携帯してロシア戦闘機を擊ち落とすほどものすごく威力を持った地対空ミサイルや戦車の壁を貫通するとされる対戦車ミサイル。つまり国際政治からすればNATO拡大と武器供与がそれを恐れるロシアの侵攻を招いたと言えます。

ウクライナは「ロシアの柔らかい下腹」といわれてきました。しかも、「ヨーロッバのバンかご」、食料庫とも言われる食料を大量に供給する豊かな殺食地域です’そこにNATOに加盟してもいないのに続々とNATOの最新鋭の武器が入ってくる。

そのままそれを認めていると、気がつかないうちにモスクワのすぐ目と鼻の先に、大量のミサイルがモスクワに向け て配備されるという状況が生まれてきているということですアメリカにとってのキューバ・ミサイル危機と同じような状況です。

ロシアが侵攻する前ブーチン大統領 は、繰り返しバイデン大統領とヨーロッ パ諸国にNATO拡大を止めてくれと懇願するような形で言い続けていた。にもかかわらず、バイデン大統領もNATO事務総長も拡大を含い続けた。明らかに挑発です。ゼレンスキー大統領は憲法にEU、NATO拡大という項目を書き込んだ。そして、憲法に違及するとして、親ロシア派の財閥(オリガルヒ)を国賊として逮捕したり追放したりした。

そういう中で、まさに外交の延長戦としてのギリギリのところで、NATO拡大を阳止する行動に追い込まれたと言えます。4月にNATO関係の、EU関係も含めてヨー口ッバの安全保障会議が開かれると吉われていました。今やらなければもうロシアはやわらかい腹部に銃を突き付けられ動きがとれなくなると受け取った。

これが2つ目です。ですから、ロシアを停戦に持ち込むには基本的にNATOの拡大を止めること、NATOの(アメリカの)最新兵器を、ウクライナの朿部国境に配備しないことが大前捉だと思います。(本誌「NATOとロシアのはざまで引き裂かれるウクライナ・参照」)。

それを考えれば、 地政学的に極めて危険なことをアメリカ・NATO・ウクライナ政府はやっている、ということをなぜ国際社は気づかないのか、なぜメディアは吿発しないのか、と 思ってしまいます。

・中国やインドが停戦を主導すれば問題解決に向かい得る

3番目は、中国、インドによる停戦交渉です。今回のロシアの侵攻は失敗だった。準備不足で、そして民間を犠牲にしないと言いながら1分後には病院や幼児院を爆撃 してしまい、ウクライナ国民を震え上がらせてしまった。ウクライナの東の2州はもともとロシア人が多くを占める地域です。いわばロシアと友人・親戒関係なんですね。ロシアとの兄弟地域といわれてきました。しかしロシアの軍隊は戦車と共に入ってきて民間人が殺されて誰が一緒にやっていこうと思うでしょうか。ロシアの戦略のまずさが、多くの批判を巻き起こした。

ロシアの大失敗だったと思います。ロシア兵の志気も非常に低くて、戦東を捨てて逃げているというような状況もあります。ではどう解決するか。巾国・インドによる停戦の試みです。

国連安保理決議を中国とインドが棄権しました。棄権をバイデンは大変に避難しましたけれども、私は国際政治上、バランスの取れた判断だったと思っています。つまり、100%悪と100%善の 対立であれば本当に第三次世界大戟になってしまいます。

中国やインドはかって冷戦期に非同盟グルーブでした。南アフリ力も棄権した。こうした諸国が中立的な立場で停戦を訴えれば、ロシアも譲歩するかもしれない。 中国が仲裁し、成功する可能性はある。私はそれが中国にとっても評価を受ける、大きな意味をもつと思います。

中国が仲裁者となり、主権尊重と領土保全を言い、武力行使を批判し人迫的な解決を言えば、それは台溶の間題の解決の方向性にもつながります。台湾 問題で武力を行使してはなりません。それは今冋のウクライナ問題で中国も教訓として学んだことだと思います。

中国にはロシアが持っていないものすごく大きな資源があります。つまり経済力です。今、日本は経団連も含めて中国を孤立させることに反対している。日本経済も成り立たたなくなるからですね。 中国が、インドなどと結び仲介に成功すれば、台湾の問題はウクライナと対比しながら中国の平和的外交的解決による優位性を明らかにすることができると思います。

(月刊「日本の進路」第355号(2022年4月号)より転載)

 

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羽場久美子 羽場久美子

博士(国際関係学)、青山学院大学名誉教授、神奈川大学教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長、グローバル国際関係研究所 所長、世界国際関係学会 元副会長(2016-17)。

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