【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第49回 オレの記念日

梶山天

20歳の時に冤罪「布川事件」の殺人犯とされ、29年間も獄中で過ごした桜井昌司(75)さんの半生を12年間カメラを通して金聖雄(きむ・そんうん)監督が追い続けたドキュメンタリー映画「オレの記念日」が今月8日から東京・ポレポレ東中野で始まった。

撮影風景

 

1時間44分の物語は、最初から映し出された画面に釘付けになった。ひとえには、赤煉瓦が際立つ千葉刑務所だからからも知れない。ここには、ISF独立言論フォーラムのホームページで副編集長の梶山天が冤罪キャンペーンを展開している連載「今市事件」の勝又拓哉受刑者(40)が今、獄中生活送っている。だから、桜井さんと勝又受刑者が重なって見えるのだ。

千葉刑務所外壁

 

千葉刑務所_桜井さんの後ろ姿

 

千葉刑務所正面

 

千葉刑務所プレート

 

桜井さんは、夢を描いた最盛期に警察の一方的な取り調べで、虚偽の自白をさせられ、裁判所が安々それを認めて塀の中に閉じ込められ、人生の大半をそこで過ごすことになる。人を殺めていないのに、どんなに理不尽で、苦しかったことか。

桜井さん父(左端)

 

再審無罪判決

 

国賠勝訴

 

国賠訴訟勝訴の報告をする桜井さん

 

昨年11月に勝又受刑者と面会した瞬間、驚いた。白髪姿で目の前にいる勝又受刑者が本当に本人なのか分からないように老け、塀の中では何かとネガティブになりがちだということを知った。ほとんどの人がそうなることは当たり前らしい。

それなのに桜井さんの心も表情も豊かだった。「1967年10月10日 夜風に金木犀は香って 初めての手錠は冷たかった」。桜井さんは、逮捕された日の事をこう詩にしたためていた。

 

ノート

 

さらに「無期懲役が確定した日」「母が死んだ日」などと、冤罪で背負わされた自分の人生に次々と降りかかってくる困難を「記念日」と自ら呼んで、優しい言葉を綴りながら飄々(ひょうひょう)と乗り越えて進み続ける姿は、閉塞感を抱えながら生きる私たちに大切なことを教えてくれている。心の在り方を変えれば、悲しみもいつかは、ほほ笑みに変わっていくと。

桜井さん(左)と青木さん(右)

 

桜井さんは2019年に末期の直腸がんで余命1年の宣告を受けた。それでも自分が身をもって体験した「人権なし」の冤罪のない社会を作るために全国を駆け回っているのだ。冤罪を防ぐ法整備を確立するために。

今市事件の勝又受刑者らこれから再審を闘う人たちのために「絶対あきらめるな!」と声をからして訴える桜井さんの姿にどれだけ多くの人たちが背中を押されてきたことか。桜井さんの「記念日」はまだ続いているのだ。その存続は大きい。

桜井さん『記念日』朗読

 

桜井さんには司法改革という大きな志がある。日本の警察の取り調べの実態を経験を踏まえて語ってもらった。何と興味深い生々しいものだった。

「日本の警察というのは、逮捕したことを犯人の確証と思っていますから、最初から(殺害を)『やった』と言えと、どの事件も同じ。私たちは逮捕された時点では、全然強盗殺人事件で調べられるとは、思ってないんですよね。だって身に覚えがないから。

けれど、向こうは違うということなんですね。そういう調べを受けると、やっていない人ほど、簡単に言ってまう(自供)というか、警察を信用していますからね。

『見た人がいる。証拠がある。お前たちだ』と言われると、だんだん、だんだん何だろう、たたかれる痛みというか、疑われる痛みというか、それに負けてしまうということは、一般の人は知らなさすぎる。

恋人と喧嘩したことがある人、会社で理不尽に怒られたことがある人、学校で理不尽に先生に怒られたことがある人。夫婦喧嘩がある人。その夫婦喧嘩が朝から晩まで際限なく続くと思った方がいい。それが小さな部屋で耐えられるのか、ということです。それが警察の取り調べです」。

「それを一般の人たちは、お巡りさんを連想しています。一番印象に残っているのは、シャバに出てきて、同級生に『何でやっちゃった』と言ったのよ。警察に『やっていない』と言ったらちゃんと調べるだろう」と言うんですね。『あーこいつもほんとの警察を知らないなー』と思いました。

いっぺん疑いを持ったら警察は確信してやることは、もう痛めつけるだけなんです。だから全面可視化が必要なのです。取り調べ時の弁護士立ち合いも当然なんです。この国は世界から遅れているのです」。

「(あくまで自白を強要して虚偽自白調書を作るというのが警察であり検察である?)そう。それをやすやすと採用するバカな裁判官いるからですよ。簡単な話なんですよ。裁判所が『そんなものは信用しません。証拠以外は認めません』。

だったら(警察、検察は)やらないんですよ。どうしようもないじゃないですか。やすやすと裁判所が認めるのだから。だから警察、検察が『自白、自白』という。一般の国民だってそうでしょう。そういう司法を司法だと思い込んでいる。やったと言わせる『あー犯人なんだ』」。

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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