【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

「自由」「民主主義」の党綱領を自ら否定、自民党・公明党は即時解散せよ

浅野健一

宗教法人「世界平和統一家庭連合」(旧・世界基督教統一神霊協会、以下・統一協会)によって人生を破壊された山上徹也氏が、統一協会に「最も影響力のあるシンパ」だった安倍晋三衆院議員(元首相)を暗殺して2カ月になる。

山上氏は、日本社会が不問にしてきた反人民セクトである統一協会問題を社会化するために決起した。

Assassination written newspaper close up shot to the text.

 

私は、「安倍元総理の銃撃事件がパンドラの箱を開けたと捉えるのは、ある意味で暴力の連鎖を呼びかねないから、絶対にマズイ」(青木理氏)「あまりにヒートアップすると山上容疑者の目論み通りになってしまう」(古市憲寿氏)などという立場に与しない。

山上氏は、統一協会が安倍氏の祖父で元A級戦犯被疑者の岸信介元首相(東条内閣商工相)の時代から半世紀以上、自民党と深い関係にあることを自分で調べ、安倍氏を銃撃した。山上氏の暴力行為を糾弾するだけではなく、山上氏の個人的な怨念がなぜこれほどまでに強烈になり、統一協会最高幹部の襲撃を諦め、安倍氏を標的にしたかを社会全体で究明しなければならない。

 

犯罪報道で非公人の被疑者・被害者の匿名原則を主張する私が山上氏を顕名にするのは、山上氏の人間としての尊厳を大切にしたいからである。

報道界は銃撃事件が起きる前に、岸・安倍一族と自民党が統一協会と結んできたどす黒い関係を明らかにし、自公政権を倒すべきだった。

捜査当局、裁判所が機能していれば、安倍氏は間違いなく刑事裁判を受けていたはずだ。モリ・カケ・サクラ・カワイの各疑獄事件で強制捜査が行なわれ、安倍氏が法と証拠に基づく公開の裁判で刑務所に入るか政界を去っていれば、安全だったのにと思う。

安倍氏は逆に、2020年9月の首相退任後も最大派閥の領袖として院政を敷き、調子に乗って軍国主義化を煽り、統一協会系の団体のイベントにビデオ出演した。山上氏は数カ月後にその動画をネットで見て、犯行を決意したようだ。

当時、私は批判したが、安倍氏の大胆な行動を報じたのは、しんぶん赤旗やフライデー等だけだった。キシャクラブメディアは安倍氏と統一協会のあからさまな関係をニュースと思わなかったのだ。

安倍氏が権力を握り続けたのは、ジャーナリズム、大学が機能していなかったからだという反省が今必要だ。

・「統一協会で調査は不要」閣議決定の傲慢

安倍氏暗殺事件の後、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)、市民団体、一部メディアによる告発運動と調査報道によって、自民党が1955年の結党直後から、統一協会(韓国で54年に設立、日本では59年から伝道開始)と協働し、政治・選挙活動を展開してきたことが明らかになった。

 

自民党の綱領は「民主主義の理念を基調として文化的民主国家の完成を期する」「民生の安定と福祉国家の完成を期する」などと謳っている。

International Day of Democracy. September 15. Holiday concept. Template for background, banner, card, poster with text inscription. Vector EPS10 illustration

 

統一協会は宗教団体というより、事業も行なう政治組織ではないか。自民党の党綱領が掲げる自由と民主主義の理念を否定する違法集団だ。

Freedom word written with wood type blocks

 

また統一協会は、日本が朝鮮半島を植民地支配した過去を理由に、日本人を騙して献金させることを正当化している。これは、靖国神社にある遊就館の「日本は列強からアジアを解放した」とする思想に象徴される自民党の歴史認識と絶対に相容れないものだ。多数の自民党議員は、統一協会の荒唐無稽な主張を知りながら、協会信者に選挙運動などを担わせたのだ。

統一協会の実態は設立以来、何も変わっていない。変わったのは、安倍政権になって、自民党と統一協会の関係がより強固になり、清和研究会(安倍派)の議員を中心に、統一協会との関係を隠さず、公然と行なうようになったことだ。主要な問題は、統一協会を政治利用してきた自民党の在り方だ。

自民党が政権を追われていた2011年3月に起きた東電福島第一原発事件で、自民党は当時の民主党政権に、内閣が設けた「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」とは別に、国会主導の事故調査委員会(別名国会事故調)の設置を強く求めた。また、福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)も設置した。

自公両党は原発事件と同様の調査委を設置すべきだ。外部有識者・法曹関係者・統一協会被害者らを入れた独立調査委員会が望ましいが、政府は8月15日、統一協会と閣僚ら政務三役の関係について「個人の政治活動に関するもので、調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定した。

岸田氏が8月10日、党役員人事・内閣改造を強行すると、共産党の小池晃書記局長は“統一協会隠し失敗内閣”と名付けた。経済再生担当相に再任された山際大志郎氏は教会との関係を明かした上で、「総理には(協会との関与を)報告していない」と言い放った。

・統一協会による自民党への〝脅し〞

一方、統一協会の田中富弘会長は、組閣当日の午後3時から日本外国特派員協会で1カ月ぶりに記者会見した。田中氏は自民党の動きを意識して会見したと思われる。

A Japanese business executive standing at the microphones at a press conference. Taken on location in Kyoto, Japan.

 

田中氏は、統一協会が岸氏の時代から、自民党・民社党などの右派議員と、日本と世界における反共産主義運動をずっと「手を合わせてきた」と強調し、今後も反共の政治家を選挙で支援するとエールを送った。

自民党は、過去の何が問題で、どういう理由があって「関係を持たないのが基本」(茂木自民党幹事長)とするのかを明らかにしない。だから、田中氏は今後も共闘すると断言するのだ。

産経新聞だけが報じたが、田中氏は岸田氏が統一協会との接点を認めた閣僚を外す内閣改造を行なったことについて、「世論に対する気遣いも否定できず、誠に遺憾」と述べている。

自民党をはじめとする「反共」政治家と統一協会の関係を一番知っているのは、統一協会自身である。田中氏は、自民党との関係をいつでも暴露できると脅しをかけているのではないか。

統一協会は8月21日、テレビ・新聞・週刊誌を中心に報道が相次いでいることに対し「異常な過熱報道に対する注意喚起」と題するリリースをホームページに掲載。「日本国憲法第20条で保障された『信教の自由』を無視した魔女狩り的なバッシング行為」で、「著しい名誉棄損と信者や関係者に対する深刻な人権侵害」と主張した。

また、「当法人および友好団体等が開催するイベントへの取材活動を始め、協賛、後援、寄付、ボランティア派遣等を通じて、実に多くの報道機関が密接に関わって来た」「現在、各報道機関と当法人および友好団体等とのこれまでの関わり等について、過去に遡って詳細な調査を進めている。調査結果がまとまり次第、全面的に公表させていただく予定だ」と書いている。

これは、協会と関係を持ったメディアを公表するという脅しをかける一方で、本当は、自民党との関係も暴くぞというメッセージではないか。

統一協会がやってきた霊感商法・高額献金強要などの犯罪の検証・批判は欠かせないが、最大の問題は、国民政党を名乗る自民党が統一協会と政治活動を協働してきたことだ。

自民党の2022年の政党交付金は159億円に達している。私は、自民党は政党要件を失ったと思う。

米諜報機関、統一協会、神社本庁・靖国派と組んで権力を維持し、教育勅語・皇国史観・大東亜戦争を肯定・美化する一方で、戦後77年にわたり米軍の駐留(軍属などを含め約10万人)を認め、米軍の核の傘の下にいる日本。米国の反中・朝・ロの最前線に立たされている日本。外国軍隊が77年駐留し、米軍のゴルフ場、学校の光熱費まで負担する日本。どこが「美しい国」か。自民党は、歴史認識と政策が矛盾して、ばらばらのパラノイア政党ではないか。

自民党はいますぐ解散すべきだ。「自民党は自主解散せよ」が人民のスローガンでなければならない。

統一協会は8月11日、安倍氏をソウルでの公式イベントで追悼した。安倍氏の葬儀は東京・芝公園にある浄土宗の増上寺で行なわれた。安倍氏は神社本庁・靖国神社の政治連盟のリーダーで、祖父の代から3代にわたり統一協会の最大の理解者。創価学会を基盤とする公明党と野合政権を組んで計9年間首相を務めた。

進化論を否定し、堕胎に反対する極右・キリスト教福音派のトランプ氏に隷従し、ロシア正教会の熱心な信者のプーチン氏と未来に向かって駆け抜けると約束した。

フライデーの報道によると、安倍氏はそれに加えて“手かざし”(崇教眞光)信者を公言していた。安倍氏と配偶者の「私人」(閣議決定)である安倍昭恵氏が神道系の新興宗教に入れ込んでいるという情報は以前からあった。

人権と民主主義、自由で開かれた価値観を共有する国では、安倍氏の宗教観は理解不能だろう。

・統一協会とズブズブの公明党も解散を

宮島喜文・前参院議員の証言や、井上義行参院議員の復活当選で、安倍氏が首相・自民党総裁として、国政選挙で統一協会・国際勝共連合・原理研に票の取りまとめを依頼し、広告塔になっていたことが明白になった。自民党と協会の組織的関係は明らかだ。

その安倍氏を「国葬儀」にすることで、自民党は自壊する。「国葬」支持の公明党(創価学会が支持)も歴史の審判を受ける。次の選挙までに民衆は忘れると、岸田氏や公明党の山口那津男代表は、安倍・菅流に考えているのだろうが、今度はそうはいかない。

state funeral

 

公明党は8月19日、佐藤茂樹国対委員長と高木陽介選対委員長が、統一協会と関係のある雑誌の取材を過去に受けていたと発表した。高木氏は元毎日新聞記者で、創価大学出身。また石川博崇参院議員は8月5日、統一協会系の「世界平和女性連合」のチャリティバザーにかつて参加していたことを明かした。

23年前、自公野合政権が誕生してから、メディアは公明党・創価学会批判を控えている。日本の多くの新聞社は公明新聞・聖教新聞を印刷し、創価学会系の団体はテレビ・ラジオ・ネット媒体に巨額の広告料を支払っている。

公明党が政権反対党だった1990年代、創価学会は自民党と一部メディアの共謀により疑惑などをでっち上げられていた。しかし、公明党が自民党と連立を組んでから、マスコミによる創価学会バッシングは消えた。

統一協会に支援されている自民党候補を、選挙現場で全力支援してきた公明党も解散するしかない。

「権力犯罪を監視する実行委員会」(私は顧問)は安倍氏の国葬に関わる予算執行差し止めの仮処分を起こしたが、8月19日には「国葬儀」閣議決定取り消しなどを求めて大阪地裁に提訴した。同様の訴えは東京・神奈川・埼玉に続いて四件目で、札幌や沖縄でも提訴する。

また、国葬を巡り、弁護士や兵庫県議など51人が兵庫県監査委員に対し住民監査請求を行なった。他の三道府県でも差し止め監査請求があった。

岸田氏は8月21日、新型コロナウイルス陽性者となり、公務をオンラインとした。官邸は翌日、公邸内で執務する岸田氏の写真3枚を公表。夕方には、岸田氏はモニターを通じて内閣記者会の番記者による囲み取材を受けた。官邸内で番記者が画面の両側に立って発言を聞き、質問していた。

オンラインならZOOM等、パソコンでの取材ができると思うが、キシャクラブメディアだけに取材を限定しているためにやらないのだろう。

 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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