「台湾は中国内政」と認めた大平外相、日中共同声明からみる台湾の現状

岡田充

・日本がとるべき台湾姿勢

米中対立激化の中で、「一つの中国」に関し日本が取るべき政策を提言する。

2019年、台中駅前独立派のデモ

 

1.50年前、日本政府は台湾を中国に帰属すべき存在と認めたことの重みは大きい。日本政府は、米中コミュニケより一歩進んで帰属先を鮮明にする立場を採った。

大平が答弁したように、台湾問題は「中国の内政問題」との立場を再確認すべきだ。中国に現状変更する意図はないサインを送り、むしろ緊張緩和の役立つ、従って、中国の武力行使を容認する口実にはならない。

2.安倍政権の安保関連法制成立以来、菅政権と岸田政権がとってきた「台湾有事」を前提にした対中軍事抑止は台湾海峡の緊張を煽ってきた。

日本の中国敵視政策は、米国の挑発と併せ、台湾海峡で「一触即発」の状況を作り出す危険性を秘めている。日中両国は既に「安全保障のジレンマ」に陥っている。

安全保障で相互不信が高まる日中関係の改善には、外交努力が不可欠。とりわけ首脳レベル協議の早期再開が急務だ。必要なのは「互いに脅威はならない」ことを保証し合って、中国に「安心供与」する必要がある。

3.台湾独立を主張するグループは、台湾の「国際的地位未定論」を挙げてきた。日本政府は台湾の中国帰属を確約したのであり、地位未定論に根拠はない。もう一つの安心脅威として「台湾独立を支持せず」を再確認すべきである。

4.中国は台湾への「平和統一」方針を繰り返している。必要なことは米政府と共に中国を挑発し、「平和的解決」という名前の圧力を掛けることではない。逆に「平和統一方針」支持の表明は、効果的である。内政に干渉しない形で、平和的な問題解決の希望を伝えることができるからである。

・「独立」とは何か?

最後に台湾独立について簡単に触れる。

中国が言う「台湾独立」とは、台湾が中華人民共和国の主権から離れて分離・独立するのを意味する。しかし蔡英文政権は中国の主権が、台湾に及んでいるとの現状認識を受け入れていない。「中華民国は主権独立国家だから独立を宣言する必要はない」というのが蔡政権の立場であり、現状維持が建前である。

ではバイデンが漏らした「独立」容認とは、「何からの独立」を意味するのだろうか。蔡政権が主張する「中華民国」は、日米を含め世界の大多数の国が承認していない存在であり、台湾と断交した日米にとって「中華民国」はもはや存在しない。

米国も日本も台湾の「現状維持」を支持するという。だが日米にとって既に国家ではない「中華民国」に対し、公的に関与する「法的根拠」はどこにもない。とすれば、日米が主張する現状維持も、法律論から言うなら根拠が極めてあいまいということになる。

バイデン大統領の独立容認発言について「日経」インタビュー(注17)で問われた呉釗燮・台湾外交部長は「大統領の発言にはとても感謝している」と述べた。その上で、「台湾人は今後も未来を自ら自由に選択できる。その意味で(どこの国からの干渉も受けない)『現状維持』を最も望む」と答えた。

バイデン発言は「のどから手が出るほど」欲しい援護射撃のはずだが、熱烈歓迎すれば「現状維持」路線と矛盾してしまう。そこで「整合性を担保」するために、中国を意味するとみられる「どこの国からの干渉も受けない」という注釈をつけ「『現状維持』を最も望む」と答えたのだろう。恐らく『日経』のインタビュー原稿を、発表前にチェックして付け加えたと思われる。

蔡政権にとって喉から手が出るほど欲しいはずの「独立論」も、その法的側面を検討すればするほど現実的ではないことが分かる。「痛しかゆし」なのだ。

(了)

注1 60 MINUTES[ Biden tells 60 Minutes U.S. troops would defend Taiwan, but White House says this is not official U.S. policy]
Biden tells 60 Minutes U.S. troops would defend Taiwan, but White House says this is not official U.S. policy – CBS News
注2 民進党台湾前途決議文(1999年5月8日 台湾民進党第8次第2次全国党員代表大会)
民進党台湾前途決議文 (konansoft.jp)
注3 岡田充「バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言。それでも「なぜか」中国と台湾が静かな理由」(BUSINESS INSIDER Sep. 27, 2022)
バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言。それでも「なぜか」中国と台湾が静かな理由 | Business Insider Japan
注4 日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(1972年9月29日)
日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明 (mofa.go.jp)
注5 同上
注6 中江要介(「これからの日中関係」学士会アーカイブス 1988年4月号)
学士会アーカイブス | 会報・発行物 | 一般社団法人学士会 (gakushikai.or.jp)
注7 栗山尚一(「台湾問題についての日本の立場-日中共同声明第三項の意味-」2007-10-24国際問題研究所HP)
(https://www.jiia.or.jp/column/column-141.html)JIIA -日本国際問題研究所
注8 「台湾問題と新時代の中国再統一事業」に関する白書(2022年8月10日)
国务院台办、国务院新闻办联合发表《台湾问题与新时代中国统一事业》白皮书 (guancha.cn)
注9 「福田円「『台湾海峡の平和と安定』をめぐる米中台関係と日本――動揺する『1972年体制の含意』」(「外交」=Vol74 Jul/Aug)
注10 福田同上86頁上段
注11 ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明(1972年2月27日 日本外務省仮訳)
(5)ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明 (mofa.go.jp))
注12 日中共同声明に同じ
注13 国務院台湾事務弁公室と国務院情報局は共同で「台湾問題と新時代の中国再統一事業」という白書を発表(2022年8月10日)
国務院台湾事務弁公室と国務院情報局は共同で「台湾問題と新時代の中国再統一事業」に関する白書を公表した (guancha.cn)
注14 福田円 同上89頁
注15 岡田充「台湾メディアが書いた全内幕。ペロシ米下院議長「本人以外誰も望まない」訪台実現の一部始終と「負の遺産」」(BUSINESS INSIDER Aug. 04, 2022)
台湾メディアが書いた全内幕。ペロシ米下院議長「本人以外誰も望まない」訪台実現の一部始終と「負の遺産」 | Business Insider Japan
注16 遠藤誉「中国は台湾『平和統一』を狙い、アメリカは『武力攻撃』を願っている」(中国問題グローバル研究所 2022・10・4)
中国は台湾「平和統一」を狙い、アメリカは「武力攻撃」を願っている | 中国問題グローバル研究所 (grici.or.jp)
注17 「台湾外交部長『中国の野望、台湾にとどまらない』」(「日経デジタル」2022年9月22日)
台湾外交部長「中国の野望、台湾にとどまらない」: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

この記事は、「海峡両岸論No.143」(2022年10月11日)からの転載です。
原文は、コチラ→海峡両岸論NO.143「台湾は中国内政」と認めた大平外相 日中共同声明からみる台湾の現状 

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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