現代の戦争と核兵器
核・原発問題●システムとしての核兵器
核兵器という場合、原爆や水爆を仕込んだ「核弾頭」だけあっても役に立ちません。それらを敵地の攻撃目標に確実に運ぶ爆撃機やミサイルなどの「運搬手段」が不可欠です。しかも核兵器を発射する場所が敵に特定されるとそこを攻撃されるので、核兵器の発射システムには敵の攻撃を受けにくい仕組みが不可欠です。
だから、普段は蓋で覆われている地下深いミサイル発射用の格納庫(サイロ)を本物と偽物をたくさん建設して、そのどこかから発射するとか、どこに潜っているか分からない潜水艦から発射するとか、近年北朝鮮が実験したように、国中をウロウロしている列車から発射するとか、敵のレーダー電波を反射しない表面処理を施されたステルス爆撃機から発射するとか、いろいろ手の込んだ方法が考えられています。
また、野球のホームラン・ボールのように放物線軌道を描いて飛んでいく「弾道ミサイル 」では軌道を予測されて迎撃される恐れがあるので、敵のレーダーに映らずに地表面や海面スレスレをグニャグニャと方向を変えながら飛んでいき、コンピュータ自動制御で確実に目標を攻撃できる「巡航ミサイル」もあります。
また、現代の核戦争では都市などを攻撃して建物を破壊したり人々を殺戮したりするだけでなく、敵の情報システムを担う通信衛星や攻撃能力の要である偵察衛星などの軍事衛星を破壊する使われ方もあり得ます。
厄介なことに、人間が作り、配備し、運用しているシステムには技術的な誤作動やヒューマン・エラーもつきものです ので、冒頭に紹介したキューバ危機のような状況も含めて、戦争が起こる前にも、つまり、今こうしている日常の中にも核兵器 師 システムが存在していること自体が、人類にとってのリスクであることを認識しなければならないでしょう。
●おわりに
「核兵器は持っていても使わなければいい」という考えは、危険です。核兵器で威嚇して戦争を防ぐという考え方は「核抑止論」と呼ばれますが、核兵器システムが複雑化すればするほど、また、核兵器を保有する国が増えれば増えるほど、さらに、ウクライナ戦争のような国家間の対立が起これば起こるほど、 人類は核兵器の潜在的なリスクに近づいていることを良く考え、被爆者たちの悲願である「非核の世界」を追い求めなければならないでしょう。
(「2022年5月~6 月ウクライナ戦争論集」から転載)
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1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。