【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

台湾有事と日本の軍事大国化

照屋寛之

1.東アジアにおける米中の覇権争い

冷戦時代、わが国は西側の一員としてソ連が攻めてくることを想定し、陸上自衛隊の約3分の1に当たる5万人が北海道に集中的に配備された。

ところが1989年のベルリンの壁の崩壊、91年のソ連の消滅は、陸自にとって組織の存在意義が問われる時代の変化に直面せざるを得なかった。その後、海軍力を増強し太平洋に進出する中国の存在が陸自の向き合うべき相手となり、存在意義を回復する。

今や、わが国の防衛政策は、北方重視から南方重視、特に九州、沖縄に対して防衛力を強化する、いわゆる南西シフト化し、2016年には与那国島に、19年に宮古島、22年度末に石垣島、23年に沖縄島うるま市にそれぞれミサイルが配備予定である(『「基地の島」沖縄が問う』沖国大沖縄法政研究所編 琉球新報社、60頁)。

南西シフトしたことが東アジアにおける米中、台中関係の悪化と相俟って南西諸島が、台湾有事に巻き込まれる大きな不安要因になっている。

A news headline reading “Taiwan Emergency” in Japanese.

 

本来、自衛隊は専守防衛を建前として生まれた組織である。ところが、その任務は2015年、安倍政権における安保法制の成立によって憲法9条で禁じられていた、集団的自衛権の行使、あるいは他国の軍隊への後方支援まで拡大された。その任務はかなり変容している。

日米の軍事同盟が強化される中で、ここ数年、アメリカの対中政策によって沖縄が自衛隊のミサイル基地化され、台湾有事でアメリカが沖縄の自衛隊基地からミサイルを発射すれば、その反撃で再び戦場にされる可能性が高まっている。

東アジアでは、アメリカにも脅威を与える中国の軍事力増強によって米中の覇権争いが軍事的緊張を高めている。中国の習近平政権は南シナ海での軍事活動を活発化させ、人工島の建設など周辺関係国にも軍事上の危機感を与えている。

United States of America, China and Taiwan flags painted on the concrete wall with soldier shadow. USA and China war concept

 

20年には南シナ海で軍事演習を繰り返し、東シナ海でも日本の領土である尖閣諸島海域への侵入を行うなど日本の対中不信感を募らせる要因にもなっている。東アジアの安全保障環境の悪化は、この地域に利害関係を有するアメリカにとっても軍事的不安材料である。

アメリカのバイデン政権はトランプ前政権の対中強硬姿勢を踏襲し、日米豪印の協力枠組み「クアッド」、米英豪の安全保障枠組み「オーカス」に加え、経済分野でも日本など同盟国を巻き込み新たなインド太平洋経済枠組み(IPEF)を発足させるなどアメリカ主導の「対中包囲網」の構築を着実に進めてきた。

International Organization/International relationship with an image of the national flag

 

これに対し中国が警戒感を示すのは当然である。こうした、東アジアにおける米中の覇権争いが日本を巻き込む台湾有事論の火種になっているとも考えられる。

22年8月にアメリカのナンシー・ペロシ下院議長の訪台で米中、中台関係が悪化し、中国軍は大規模な軍事演習を行い、台湾を取り囲むように6カ所の海域と空域で実弾射撃なども含めた演習を実施した。日本に対して9発も弾道ミサイルを発射し、5発が日本のEEZ(排他的経済水域)に落下した。

東アジアにおけるもう一つの重大な懸念は、北朝鮮の核・ミサイル開発と頻繁な発射である。アメリカ、日本、韓国にとって脅威となっている。かつてない頻度でミサイル発射が行われ、22年11月18日には、新型のICBM級(大陸間弾道弾)ミサイルを発射、わが国のEEZの内側に落下した。(「戦略年次報告」22年11月24日 米中対立の激化と国際秩序の不安定化、8頁、『毎日新聞』22年5月25日、6月15日、11月18日)。

North Korea Nuclear Threat on magazine+++ I wrote all the text +++

 

このように、東アジアにおける米中の覇権争いの結果、東アジアの緊張関係は絶えることなく、特に、アメリカとの軍事同盟が強い日本は、中国との友好関係を築くことができず、中国の『環求時報』は、「日本の対中政策は中米間の競争の枠内に置かれ中日関係に行き詰まりと不確実性をもたらしている」と批判している。中国は台湾問題などで同盟国のアメリカに追従する日本の姿勢に苛立ちを募らせていることの表れである(『毎日新聞』22年11月18日)。

2.台湾有事とわが国の軍事大国化

2016年5月、独立志向が強いと言われている台湾の蔡英文政権が発足して以降、中国は台湾に対する軍事的圧力を強めている。これに対して台湾側も「圧力に屈しない」と強い対応をしている。

このような中台の緊張関係を裏付けるかのように、21年3月9日、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)は、米上院軍事委員会で「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と証言した。

これを軍拡・防衛力強化の好機とばかりに、安倍晋三元首相は21年12月1日、講演で「台湾有事は日本の有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言し、有事が目前に迫っているかのように、国民に危機感を煽った。その結果、安倍元首相の期待通りに、軍備増強論がまかり通るようになっている。

防衛予算も国内総生産(GDP)比1%から2%となり、およそ11兆円にまで増額することについても国民の大きな反発はない。NHKの世論調査によれば「防衛費の増額」賛成55%、反対29%、わからない・無回答15%となっており、賛成が反対を大きく上回っている。

「財源の確保」は「ほかの予算を削る」61%、国債の発行19%、増税16%である。他の予算を削る場合、巷間で言われているのは教育、社会保障費であるが、それらの予算を削減してでも防衛費増額を考えるほど台湾有事への危機感が強い。

政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は、防衛費の安定財源確保に向け「国民全体の負担」が必要であるとして増税を提起する報告書を岸田文雄首相に提出した。

台湾有事論は防衛費の増額に留まらない。浜田靖一防衛相は「(港湾や空港を)自衛隊が平素から柔軟に利用できるよう、地方自治体などから協力を頂きたい」と述べた。

このようなことが許されるならば、空港、港湾の利用が自衛隊優先になり、県民生活への影響は計り知れない。さらに、離島の空港、港湾の改修に優先的に予算を配分し、自衛隊の訓練に平時から利用できるようにするという防衛省の考え方も明らかになってきた。

海上保安庁も有事に備えた体制に移行される。政府は、「武力攻撃事態」などの有事の際に防衛相が海上保安庁を指揮命令下に置く手順を定めた「統制要領」を新たに策定する方針を固めた。中国の海洋進出による尖閣諸島へ防衛を念頭に、自衛隊と海保の連携を強化するのが狙いである。

しかし、これまで海保で対応していたが、自衛隊も加わることによって中国が海警局以上の対応をすることは当然であり、日中関係はますます悪化することは不可避である。武力衝突が起こることも想定する覚悟が必要だ(『沖縄タイムス』22年11月16日)。

News headline that says “Cast Guard Law”

 

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照屋寛之 照屋寛之

1952年生まれ。日本大学大学院法学研究科博士課程(政治学)単位取得退学、沖縄国際大学専任講師、助教授、教授を経て沖縄国際大学名誉教授。同大沖縄法政研究所副所長、所長、図書館長、副学長を歴任。「オンブズマン制度に関する一考察」(日本大学法学会『政経研究』)「国策のあり方を問う沖縄県知事選」(同日大『政経研究』)「米軍基地と自治体行政」(沖縄国際大学『総合学術研究紀要』)編著『危機の時代と「知」の挑戦』(論創社)など。

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