【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

台湾有事と日本の軍事大国化

照屋寛之

3.南西諸島の攻撃拠点化と日米共同統合演習

沖縄県民にとって最も衝撃的なことは、12月24日付『沖縄タイムス』『琉球新報』の「南西諸島に攻撃拠点」「米軍、台湾有事で展開」「台湾有事想定、日米が計画」「住民巻き添えの可能性」の記事であった。その最も当事者となる沖縄県民が全く知らないうちに「自衛隊と米軍が、台湾有事を想定した新たな日米共同作戦の原案を策定したこと」が明らかになった。

米軍が日本国内に拠点を設けるためには、日本政府としての防衛政策決定、土地使用や国民保護などに関する法整備が必要であることは言うまでもない。

実行されれば、与那国町、宮古島市、石垣市の南西諸島が攻撃目標になるのは間違いない。住民の安全を置き去りにした米軍と自衛隊の独走した行動計画は厳しく批判されるべきだ。南西諸島にある有人、無人合わせて200弱の島々のうち、軍事拠点化の可能性があるのは約40カ所。陸自がミサイル部隊を配備している奄美大島、宮古島や配備予定の石垣島も含まれる。

しかし、防衛省も自衛隊も「住民を戦闘に巻き込むリスクが飛躍的に高まる。理解を得られない」と懸念した。現に自衛隊が南西諸島に配備する対艦・対空ミサイルは敵基地からの攻撃を避けて移動できるよう車載式になっているため、反撃を受けると島中にミサイルが撃ち込まれて住民は逃げ場がない。

『南日本新聞』は、新たな共同作戦計画では、南西諸島一帯が戦場になりかねないと、制服組幹部は予見する。「日本列島は米中の最前線。台湾をめぐる有事に巻き込まれることは避けられない。申し訳ないが、自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」と無責任極まりない発言も出るほどの深刻な事態だ(21年12月24日)。

南西諸島の軍事拠点化を裏付けるかのように、21年11月も日米共同統合演習が行われた。自衛隊は米中の東アジアでの覇権争い、特に、米軍との対中国戦略にも組み込まれ、その前線の戦いも余儀なくされかねない。中国の軍事的台頭など東アジア情勢が混迷を深める中、米軍の対中国戦略を想定した共同訓練、総合訓練も行われるようになっている。

Aomori Prefecture, Japan – September 07, 2014: United States Air Force Lockheed Martin F-16C Fighting Falcon multirole fighter aircraft flying in formation.

 

22年は自衛隊約1万6000人、米軍1万人、航空機70機そして艦艇30隻が参加し、これまでにない大規模な日米共同統合演習が行われた。同演習は日米が台湾有事に対する即応能力を高めることが目的であった。訓練のシナリオからは南西諸島での有事で、沖縄本島を補給や医療など後方支援の「拠点」として位置付けているとの見方もできる。

沖縄では、台湾から約111キロの最も近い与那国町での演習では、16式機動戦闘車(MCV)が運び込まれ、県内で初めて一般の道路を走行させたことが注目された。自衛隊はこれまでの訓練では、沖縄戦で住民が巻き込まれたことなど、沖縄県民の感情への配慮から訓練であっても戦車などを公道で走らせることを避けてきた。

ところが、今回の日米共同統合演習では有事に前線で使われることを想定した車両を与那国町に運び込んだ。演習が毎年のように行われ、恒例化すれば、台湾有事の際、南西諸島が戦場化される可能性がますます高まるのではないか。反対派住民は「台湾有事を念頭に置いた戦争準備だ」と抗議の声を上げた。

沖縄市、うるま市の中城湾港では、自衛隊車両の陸揚げの際、100人を超える市民が「沖縄を戦場にするな」と訴え、座り込んだためおよそ1時間車両が港から出られないほど緊迫した。最終的には、機動隊が動員され、座り込んでいる市民をごぼう抜きにし、排除後にしか車両は港を出ることができなかった。

同演習が始まると、11月13日にはロシア海軍の船舶5隻が与那国島と西表島の間を通過して東シナ海に進出。11月14日には中国軍の無人偵察機などが、沖縄本島と宮古島の空域を通過した。もちろん演習に対する威嚇であった。大規模な演習や、防衛力の強化に向けた議論が南西諸島の緊張をさらに高める結果になることも考慮すべきだ。

防衛省関係者は無責任にも「その一面もある」と認め「中国の覇権主義を牽制するために必要な緊張とも言える」と話す。ところが、沖縄は戦後一貫して米軍基地の過重負担の犠牲になってきた。

台湾有事に向けた訓練でも犠牲になり、いざ有事になれば戦場になり想像を絶する犠牲者を出すことになる。政府、自衛隊は県民の犠牲をもっと真摯に考えるべきだ。

4.外交による米中対立緩和と日本の役割

アメリカも日本も台湾有事が叫ばれる中で、中国と有事解消に向けてどのような外交交渉をしてきたのであろうか。日本とアメリカは台湾有事で軍事同盟をより緊密なものにし、対中国の抑止力を強化してきた。結果的に、軍事的な緊張度は高まり、まさに「安保のジレンマ」状態である。

本来ならこのような危機的状況が起こったならば、中国、台湾、北朝鮮との外交交渉による解決策を多面的に模索することが当然だ。台湾有事を煽った安倍元首相は在任中に何回、中国の習近平総書記と会談したのであろうか。

在任中、地球儀俯瞰外交と称し、80回以上も外遊したが、中国包囲網を築く軍事協力が目立ち、結果的に中国を刺激し、台湾有事を助長したのではないか。

軍事力で平和を構築することができなかったことを過去の戦争の歴史からも学び、外交力で戦争を回避することが政治の最大の使命であること改めて確認したい。人類は有史以来、武力で問題解決を図るという手段を繰り返し、「人類の歴史は戦争の歴史」であった。特に、日本は先の大戦を経て、二度と戦争をしないという誓い、憲法第9条(戦争の放棄)を堅持する国である。

その精神に立ち返り、武力に訴えず、外交力で平和的な問題解決の道を探る不断の努力をしなければならない(半田滋「台湾有事で踏み越える専守防衛」立憲フォーラム、6頁)。

台湾有事の危機が迫る中、日本はどのような役割を担うことができるか。アメリカとの同盟関係は維持しつつも、これまでのように、アメリカ一辺倒・追従の同盟ではなく、東アジアの隣国である中国、韓国、北朝鮮ともっと連携の取れる外交を積極的に取り組むことが必要だ。

東アジアサミットやASEANプラス3といった地域の枠組みの中で中国と具体的協力関係を構築し、20年に誕生した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの活用に諸外国との連携を深めることが、米中対立の緩和にも役立つのではないか。

RCEP. Regional Comprehensive Economic Partnership. Vector infographics with a world map and countries that are parties to the trade agreement on white backgrouhd

 

米中対立の長期化が想定される中、外交関係を改善することは台湾有事を回避するためにも必要だ。有事になった場合、アメリカが最も頼りにしているのは日本であり、日本の協力なくしてアメリカは中国と戦うことは不可能だ。

日本が米中対立を緩和する大きな役割を果たしうるのではないか(田中均「米中対立の激化と日本」グローバル経営2020年9月号、7頁)。

 

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照屋寛之 照屋寛之

1952年生まれ。日本大学大学院法学研究科博士課程(政治学)単位取得退学、沖縄国際大学専任講師、助教授、教授を経て沖縄国際大学名誉教授。同大沖縄法政研究所副所長、所長、図書館長、副学長を歴任。「オンブズマン制度に関する一考察」(日本大学法学会『政経研究』)「国策のあり方を問う沖縄県知事選」(同日大『政経研究』)「米軍基地と自治体行政」(沖縄国際大学『総合学術研究紀要』)編著『危機の時代と「知」の挑戦』(論創社)など。

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