【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第10回 原発事故の責任解明を求めて走り続ける―福島原発刑事訴訟支援団事務局長・地脇美和さんへのインタヴュー―

前田朗

・刑事裁判無罪判決

――2023年1月18日、東京高裁が福島原発事故・刑事裁判控訴審で東電幹部に無罪判決を言い渡しました。

 

地脇――2019年、一審の旧経営陣の無罪判決に続き、今回の控訴審で再びの無罪判決は、亡くなられた双葉病院の患者さんのご遺族をはじめ、告訴・告発人でもある多くの原発被害者にとって全く納得できないものでした。

公判の中で、事故に至るまでの社内メールや議事録によって、驚きの事実が次々と明らかになりました。社内では、長期評価をもとに津波対策は不可避として、具体的な対策を行おうとしていました。

ところが、それを旧経営陣が先延ばしにし、ほとんど何の対策もしないまま311を迎えたことが明らかになりました。これらは刑事裁判がなければ、闇に葬られたままでした。

現場検証や証人尋問、避難者訴訟最高裁判決や東電株主代表訴訟判決の証拠採用もせず、審理を尽くさなかったにも関わらず、「立証が不十分だった」というのは全く理不尽です。

一方、刑事裁判とほぼ同じ証拠を提出した東電株主代表訴訟では、旧経営陣の責任を厳しく断罪し、13兆円余りの損害賠償を命じました。

双葉病院の避難の過酷さや、今も続く甚大な被害の実態に真摯に向き合ったのか。原発稼働の責任の重さを十分に理解しているのか。

国の原発政策の大転換に呼応し、原子力行政に忖度した判断を確定させてしまえば、原発事故が繰り返されるのではと危惧します。

 

・福島での被災体験

――地脇さんは脱原発のために様々な取り組みをしてきました。主な活動はどのようなものでしょうか。

地脇――その都度その都度、できることをやってきましたので、随分と多くの活動に関わってきました。中でも力を入れてきたのは福島原発告訴団事務局長と福島原発刑事訴訟支援団事務局長です。

全国と海外から約1万5000人が刑事告訴・告発を行い、強制起訴裁判が始まりました。その事務作業や集会、傍聴など弁護団、支援者とともに活動してきました。

「311子ども甲状腺がん裁判」のボランティアスタッフ、「これ以上海を汚すな!市民会議」、さらに国連特別報告者の訪日調査を実現する会の活動にも加わってきました。

 

――脱原発に取り組むようになったきっかっけは3.11福島原発事故でしょうか。

地脇――2007年~2013年3月まで全国転勤の夫と福島県に暮らしていました。福島に原発があることは知っていましたが、特に考えることもなく、何も活動していませんでした。

2011年3月11日は福島県中通りに住んでいました。3月13日から1ヶ月間超、県外4カ所を転々と避難生活を送った後、福島に戻りました。原発事故後も変わらない世の中に絶望して、泣いて、引きこもっていましたが、泣いているだけではだめだ、まずは、知ろう!と学習会や講演会、集会に参加するようになったのが契機です。

――福島から北海道に移って、運動への関わりに変化はあったでしょうか。

地脇――2013年4月に夫の転勤で北海道へ移住しました。北海道内で3カ所転勤し、だんだん千歳空港の近くになったので、移動が楽になりました。距離が遠く、交通費などもかかるので制約も多いですが、電話、FAX、インターネット(メールやZoom)を使い、多くの方のご支援、協力のおかげで、離れていてもできることをやっています。月に数回は福島や東京に行っています。

・東電の無責任体質

――全国各地で数えきれないほど原発関連裁判が闘われています。原発裁判に関わって、東電をはじめとする企業の責任について思うことをお願いします。

地脇――電力会社は絶大な力を持ち、治外法権で守られていることを痛感しています。電力会社が事故を起こしても、放射能を環境中に放出してしまっても、それを規制する法律、裁く法律が存在していないことも被害者になって知りました。

そして事故後、東電との交渉や民事裁判では、まったく反省のかけらも見えません。とても高飛車で、加害者責任を果たそうとする企業姿勢はありません。刑事裁判では、3人の被告人は「記憶がない」「権限がない」「責任はない」と連発し、裁判官から、「あなたの職責は何ですか?」と問われました。

危険なものを扱っているという自覚があるのか、原発事故は起こるはずがないと高をくくり、思考停止していたのではないか。このような事態を招いた責任は「政・官・財・学・報」によって構成された腐敗と無責任の構造の中にあると思います。

2022年7月、東電株主代表訴訟の東京地裁判決(朝倉佳秀裁判長)では「原子力発電所において、一度炉心損傷ないし炉心溶融に至り、周辺環境に大量の放射性物質を拡散させる過酷事故が発生すると、当該原子力発電所の従業員、周辺住民等の生命及び身体に重大な危害を及ぼし、放射性物質により周辺環境を汚染することはもとより、国土の広範な地域及び国民全体に対しても、その生命、身体及び財産上の甚大な被害を及ぼし、地域の社会的・経済的コミュニティーの崩壊ないし喪失を生じさせ、ひいては我が国そのものの崩壊にもつながりかねないから、原子力発電所を設置、運転する原子力事業者には、最新の科学的、専門技術的知見に基づいて、過酷事故を万が一にも防止すべき社会的ないし公益的義務がある。法令の定めを見ても、原子炉施設を設置する者において、その安全性を確保すべき一次的責任を負うことを前提とすることは明らかである」と判示されました。

 

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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