【特集】原爆投下と核廃絶を考える
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核兵器(原爆)問題をめぐる過去と現在:「被害」と「加害」の二重構造を越えて

木村朗ISF編集長

・フクシマの意味と原発震災の教訓

核と原爆を論じるうえで、原発の問題は避けて通れません。2011年3月11日の東日本大震災は3.11と呼ばれていますが、福島第一原発事故は「フクシマ」というとカタカナの言葉で世界化されるに至りました。

Nuclear power station at sunset

 

あのとき一体何が起こったかも含めて、その事態をどう見るのかということではさまざまな見方があります。大震災でいえば、1923年の関東大震災、1995年の阪神淡路大震災があって、2011年の東日本大震災です。また原発事故としては、1979年のスリーマイル島、1989年のチェルノブイリ、そして2011年のフクシマです。そして「ヒバクシャ」(被爆者と被曝者の双方を含む)という視点で見れば、ヒロシマ・ナガサキ、ビキニ(第五福竜丸事件)、そしてフクシマということで、日本はこれで3度の核被害を被った非常にまれな国になったともいえるでしょう。

また、9.11という世界の状況を一変させた大きな事件が2001年にアメリカで起きましたが、3.11は9.11以上に世界の流れを混沌としたものにする契機になったのではないかという見方もできると思います。

この3.11と9.11については、私は少し違う視点で捉えているのですが、紙幅の関係でここでは論じません。世界から3.11以後の日本がどういう風に見られているかに関して言えば―日本人の中からも自問自答という形で今なされていることですが、なぜ唯一の核攻撃の被害国(自称「唯一の被爆国」)で狭い島国であり、地震大国、津波大国である日本に、いつの間にか54基もの原発を保有する世界第3位の原発大国になることになったのか、という疑問です。

それと並ぶもう一つの問いは、3度目の核被害を被った当事国である日本が、3.11の事態を受けて、世界の他の国々、例えばイタリア、スイス、ドイツなどが原発全廃に方向転換しようとしているにも関わらず、なぜその当事国である日本においては原発再稼働や、原発輸出という愚かな選択をしようとしているのか、という問題です。これは非常に不可解であり不思議というか、正気の沙汰ではないと思います。

・「核兵器禁止条約」と核廃絶への展望~沖縄からの発信

「原発と原爆」は今日の日本にとって大きなテーマですが、「原発と基地」も実は根底では同じだと感じています。原発は民主主義の対極であると蒲田慧さんが指摘されていますが、まったく同感です。また、「福島と沖縄」の共通性をめぐる論点が最近取り上げられていますが、「犠牲のシステム」という中央から地方への一方的な犠牲の押しつけという視点(高橋哲哉著『犠牲のシステム 福島・沖縄』集英社新書、を参照)も重要です。そういう差別、抑圧は原発問題だけでなく、基地問題、とくに沖縄の基地問題に共通して言えることではないかと思います。

米軍嘉手納基地に駐機するB52 爆撃機

 

そして、原発をどうやって止めるかという問題も、日本の基本的な差別抑圧構造、あるいは産業経済構造を根本的に改めることなくして根本的解決はないと思います。今日において「原発と原爆」という問題を考える場合、本当の意味での「核なき世界」―核兵器だけではなく原発や核関連施設も一切ない世界を実現するためにも、沖縄を含む日本全土から基地をなくしていくためにも、「人類と核との共存は不可能である」との基本的認識を持つ必要があります。

ナガサキ・ヒロシマの被爆直後に、占領軍が入ってきて設けられた原爆被害調査のための機関「ABCC」によって、被爆者に対するモルモット扱い同様の人体実験が行われたのではないかという深刻な問題があります。その「ABCC」の後継機関である現在の放射能影響研究所とも重なって、福島県民の被曝調査がそのような流れになってくる恐れが非常に高いのではないかと危惧されているのです。

広島・長崎の被爆者でも、原爆症認定をされている人は非常に限られており、その原爆と被爆者の障害との直接な関連性を医学的に、また科学的に問うことは今でも非常に難しいという実態があります。そのように状況の中で、福島での放射能被害、健康被害と原発事故との関連性を問うのは今後より困難になることが予想されます。そうならようにするためにも、多くの市民がその動きを厳しく監視して、まともな調査と補償を行っていく必要があると思います。

これまでの核兵器をめぐる国際的な取り決めの柱は「核不拡散条約(NPT)」でした。NPTは国連常任理事国である米・中・ロ・英・仏の5カ国には核兵器保有の特権を認め、それ以外の国には禁止するという歪な条約である上、近年ではその不拡散効果は破綻し、印・パ・イスラエル・北朝鮮が事実上核兵器を保有するなど、多くの問題を抱えています。

しかし、2017年に国連が核兵器禁止条約を採択し、反核団体ICANがノーベル平和賞を受賞するなど、核兵器廃絶の国際的な機運がこれまでに無く高まっているのです。私たちの島が核兵器の拠点であり続けること、それにより様々な脅威から解放される好機が訪れているのです。

「核兵器禁止条約」は一部の国の特権を認めず、加盟するすべての国に平等に核兵器の保有や使用を禁止するという画期的な内容で、世界平和に向けての人類の新たな挑戦と言って良いでしょう。

ところが残念なことに、唯一の核攻撃の被爆国であり、本来ならば核廃絶へ向けて世界を主導するべき立場であるはずの日本政府は、いまだに「核兵器禁止条約」への参加を拒んでおり、いまや世界の良心の失笑を買っているありさまです。

私たちは、日本が当然果たすべきリーダーシップを果たさないのであれば、過去も現在も核兵器拠点とされてきたこの沖縄が日本に代わって声を上げ、世界のすべての国が「核兵器禁止条約」に加盟するように国際世論を高めてゆく先頭に立とうと思います。核兵器なき世界への扉を、日本、とりわけ沖縄から、私たちの手で開きましょう。

 

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木村朗ISF編集長 木村朗ISF編集長

独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。

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