【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第9回 ウクライナを売った男、ゼレンスキー

寺島隆吉

ところが、 元アメリカの財務次官ポール・クレイグ・ロバーツ(PCR:Paul Craig Roberts 経済学博士)が嘆いていたように、プーチン大統領はISISを壊滅させるところまで追い込みながら、いつも最後のところでロシア軍を撤退させてしまうのでした。

今回のウクライナ戦争でもプーチン大統領は同じような行動形態を取り、ポール・クレイグ・ロバーツ博士を嘆かせました。博士の言い分は次のとおりです。

「初戦で一気にウクライナ軍を殲滅してしまえば、戦争はあっという間に終わっていたはずだ」。

「相手は配色が濃くなれば停戦と交渉に応じるが、それは態勢を立てなおすための時間稼ぎだ。だから、その手に乗ってはならない」。

「交渉を重ねれば重ねるほど、キエフはイスラム過激派までも含めて世界中から応援団をかき集め、戦局はますます拡大し泥沼にはまっていくから、最後は核戦争になる可能性もある」。

アメリカ政府の元高官が、このような助言・呼びかけを自分のブログで書いていることそのものが驚きですが、プーチン大統領は、せっかくのこのような助言すら聞く耳を持たないようで、戦局は泥沼化していく様子すら見えます。

ついにロバーツ博士は堪忍袋の緒を切らして、次のように「ロシア人は馬鹿か!?」というブログまでも書くようになりました。

Dumbshit Russians?「ロシア人は馬鹿か!?お人好しのロシア人」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-835.html( 『翻訳NEWS』2022/03/21 )

実はロバーツ博士は、昨年(2021年)末の段階で、 「ウクライナに『ミンスク合意』を守るよう、どれだけ交渉しても無意味だ。向こうは合意したと見せかけてドンバス攻撃を続けるつもりだから」と言っていたのでした。

次のブログでロバーツ博士は「キエフに毅然とした態度でレッド・ラインを示し、最終通告を与えるだけでよいのだ」と言っていたのですが、現在の事態は博士の予言通りになったようです。

Will Russia Learn In Time Before War Is Upon Us?「ロシアは戦争の火蓋が切って落とされる前に正しい身の処し方を学ぶだろうか?」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-753.html( 『翻訳NEWS』2022/01/01)

上記のブログでロバーツ博士は次のように言っていました。

 

ロシアが平和を望んでいるのは分かる。 私も同じ気持ちだ。 しかし平和を手にするためには、侮辱や挑発を受け入れないという姿勢を示すことが必要なのだ。ラブロフ外相がいつも言う。「西側諸国の皆さんと交渉する準備はいつでもできています」という姿勢ではだめなのだ。米国政府には、善良な意志は弱さにとられる。そうなることで挑発がエスカレートし、結果、戦争になってしまう。

(中略)

ロシアが、善良な意思ではなく、強さや危険な面を出していたのなら、西側諸国はロシアに交渉の手を差し出していただろう。

ロシアは米国政府と意味のある交渉などできはしないだろう。米国政府がロシアを恐れない限りは。

ロシア政府の中枢やメディアが、ロシアは不公平に扱われているなどと泣き言をいっているだけの国であるなら、米国政府はそんな国と真剣に交渉しようなどと夢にも思わないだろう。

 

上でロバーツ博士は、 「ロシアが、善良な意思ではなく、強さや危険な面を出していたのなら」と言っていますが、その典型例として博士が出しているのが、 EUに対するガス供給の問題があります。

プーチン大統領は、しばしば「EU諸国に供給しているガスを止めるつもりはない」「ガスをウクライナ危機の武器として使うつもりはない」と言い続けていますが、ロバーツ博士は次のように言っています。

「それこそ愚の骨頂」。

「欧米がロシアにたいして過酷な経済制裁を加えているのに、その反撃としてなぜガスを止めると言わないのか」。

「米国政府には、善良な意志は弱さにとられる。そうなることで挑発がエスカレートし、結果、戦争になってしまう」。

EUの燃料輸入国・輸入率。ロシアからの輸入率は、NATURAL GAS(天然ガス)41%、OI L(石油)2 7%、SOLID FUEL(固体燃料)47 %

 

EUはエネルギー源の多くをロシアから輸入している。ところが「馬鹿正直なプーチン」は、これを武器として使おうとはしない、これがロバーツ博士の言い分です。

つまり「ミンスク合意」が守られなかったのは、プーチン大統領が毅然とした態度で交渉に臨まなかったからだと言いたいのです。

その結果、8年間の交渉をしても、そのたびに合意が破られ、ドンバス住民の命が奪われ続けたのでした。ドンバス2カ国に特別な自治権を与えるという「ミンスク合意」は、8年間の交渉でも実行されなかったからです。

そこで遂にプーチンは、意を決してドンバス2カ国を独立国として承認し、その独立国の要請でドンバ スにロシア軍を進めるという手続きを取ったのでした。アサド大統領の要請でシリアにロシア軍を出してイスラム過激派を追い出したのと同じです。

しかし、ドンバスの住民にしてみれば、 「やっと地下室や地下壕の生活から解放される」という喜びと同時に、 「遅すぎる決断だった」 「もっと早く決断してほしかった」という思いも強かったに違いありません。

他方、ウクライナは、 「ミンスク合意」を守っていれば、ドンバス2カ国はウクライナの自治領として国内に存続させることができたはずなのに、悪くすれば、 永遠にその領土を失うことになります。

それに引き換え、カナダのケベック、スペインのバ スクやカタルーニャ、イギリスのスコットランドや北アイルランドのように、独自の体制を認めつつ自治区・自治州を国内に存続させている国も少なくありません。

ドンバス2カ国もそのような存在にするというのが「ミンスク合意」だったはずなのですが、キエフ政権はアメリカの意向に沿って、それを拒否し続けてきたわけです。

アメリカにしてみれば、合意・停戦をされたのでは、わざわざ2014年にクーデターを起こしてまで新政権を作った意味がないと言いたかったのでしょう( 「ミンスク合意」については、後日あらためて詳述するつもりです)。

ゼレンスキー大統領は、 「ロシアと闘わせるための餌にしよう」と目論んでいるアメリカの戦略に乗せられて、ウクライナ兵を「砲弾の餌
食(cannon fodder)」として提供し、その結果、国土も焦土と化すかも知れないのです。

したがって今回の事態は、どちら側にとっても不幸なことでした。次の論考は、そのことを見事に表現していました。

*The Man Who Sold Ukraine「ウクライナを売った男――ゼレンスキー大統領」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-841.html( 『翻訳NEWS』2022/03/23)

しかしアメリカの世界戦略にとっては、ウクライナをロシアと戦争をさせ、双方が共倒れになれば、こんなに好都合なことはありません。
この戦乱がたとえ10年間にわたろうとも、そしてウクライナで多くの若者が死のうとも、あるいは世界中から集められたイスラム過激派・ネオナチの武装集団によってウクライナが荒廃しようとも、アメリカにとってはロシアが疲弊して崩壊してくれればよいのです。

かつてアメリカがソ連軍をアフガニスタンに引きずり込んで、ソ連を崩壊させたと同じ戦略です。このときもソ連軍と戦ったのは米兵ではなく、世界中から集められたイスラム原理主義者たちでした。

今回のウクライナにおける戦いは、ロシア軍と「世界中から集められたネオナチ集団とイスラム過激派」ということになるかも知れません。米兵は死ななくて済みますし、アメリカの軍産複合体は今回の戦いで大量の武器を売りさばくことができますから、一石二鳥ということになります。

次の論考は、アメリカとNATOが「ネオナチをアメリカ国内ですら訓練していること」を詳細に紹介しています。そしてNATO諸国だけでなく日本すらも、ネオナチの武装装備を、金銭的かつ物質的に支援していることも。

US and NATO allies arm neo-Nazi units in Ukraine as foreign policy elites yearn for Afghan-style insurgency(米国とNATOの同盟国がウクライナのネオナチ部隊を武装化、外交政策エリートはアフガン・スタイルの反乱に憧れ)
https://thegrayzone.com/2022/03/20/us-neo-nazi-ukraine-afghan-insurgency/ Alexander Rubinstein、 March 20, 2022

本章では、ゼレンスキー大統領のオンライン演説がいかに嘘に満ちているかを、ウクライナにおける原発と生物兵器研究所を例にとりながら説明するつもりでした。ところが書いているうちに、どんどん横にそれて行ってしまいました。

しかも日課としている夕方の散歩が近づいて暗くなり始めているのに、まだ目標の入り口にすら到達していません。しかし、もう十分長くなってきていますから、今日は断念します。

(追記)

先に、24時間放送のRTが「ドンバス地区へのウクライナ軍の猛攻」を生々しく記録したドキュメンタリーを放映していることを紹介しました。

と同時にこのドキュメンタリーが放映されたのは、ロシアがドンバス2カ国の独立を承認しウクライナ軍にたいする反撃をロシア軍が開始した直後だったことも、紹介しました。

もっと早くに、これらの映像が流されていれば、世論の流れも変わっていただろうと思うと、ポール・クレイグ・ロバーツ博士ならずとも、 「プーチンの決断力の弱さ」に失望させられます。

ひょっとしてプーチン大統領は、このような映像を早くから流すと「ミンスク合意」実行の妨げになると思ったのかも知れません。しかし、もしそうだとしたら、そのこともまた、ロバーツ博士の言う「プーチンの善良さの現れ」とも言えます。

ところが、このようなプーチンが世界中の大手メディアでは「独裁者」扱いなのです。

それはともかくとして、上記のドキュメンタリーがRTのニュース番組としてではなく、録画されていて、 視聴者は自分の好きな時間で見ることができることを発見しました。そのURLは下記のとおりです。

Donbass: The Grey Zone, Life in the Frontline Village(ドンバス:グレーゾーン、最前線の村での生活)https://rtd.rt.com/films/donbass-the-grey-zone/

Donbass:Yesterday, Today, and Tomorrow, The history of the Donbass conflict(ドンバス:昨日、今日、明日。ドンバス紛争の歴史)
https://rtd.rt.com/films/donbass-yesterday-today-and-tomorrow/

英語による字幕ですが、それを無理に理解しようとせずに、ドンバスでどのような光景が展開されてきたのかを知っていただくだけでも、ゼレンスキー大統領の演説がいかに嘘に満ちていたかを知っていただく一助になると思います。

ドキュメンタリー GRAY ZONE。ウクライナ軍の爆撃で、廃墟と化したドンバスの町や村。

 

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体1—アメリカとの情報戦に打ち克つために—』の第8章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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