【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第14回 「ブチャにおける虐殺事件」の真相

寺島隆吉

しかし、ブチャの虐殺報道の矛盾は至る所に表れています。

たとえば次の時系列による記事では、ロシア軍がブチャから撤退したとき(3月30日)、市長はビデオで、 「我々の勝利だ、ロシア軍の弱さの表れだ」と自慢げに語っているのです。が、街に散乱していたとされる惨殺死体については一言も語っていません(3月31日)。

* Russia and Ukraine trade accusations over Bucha civilian deaths(TIMELINE) (ブチャの民間人死亡をめぐり、ロシアとウクライナが非難の応酬—時系列)4 Apr, 2022
https://www.rt.com/russia/553274-bucha-war-crimes-allegations/

突然、 惨殺死体の話が出てくるのは4月2日で、ウクライナ国家警察が「破壊工作員とロシア軍協力者の排除」と「ロシアによる戦争犯罪の現場視察」のため、ブチャに特別部隊を派遣してからでした。

ブチャにおけるロシアの残虐行為とされる証拠は、その4月2日に同市から流出し始めたのです。その証拠とされる映像には、私服姿の死体が散乱し、手を後ろに縛られた死体も写っています。

また、この記事では、ウクライナ軍司令官セルゲイ・コロトキ(Sergey Korotkih)が公開し後に削除された動画の、あるクリップで、ブチャでウクライナ軍が交戦ルールを議論している様子が映し出されていました。

「我々の勝利だ」と自慢げに語っているブチャ市長https://t.me/Segodnya_life/50838

 

その動画では、戦闘員のひとりが、 「ウクライナ兵を識別する青い腕章をつけていない連中を撃ってもいいか」と尋ねているのが聞こえています。その答えは、 「問題ない」というものでした。

*ウクライナ軍が交戦ルールを議論している様子
https://t.me/vityzeva/53030

ブチャで殺害されたとみられる民間人は、後ろ手に縛られ白い腕章をつけていました。
ロシア軍は、非戦闘員であることを示すためにすべての市民にこれを着用するよう求めたとされていますから、これは明らかにロシア軍が殺したのではないことを示しています。

上記のRT記事が述べたことを傍証する事実を『櫻井ジャーナ ル』(2022.04.06)は次のように述べています。

ブチャからロシア軍は数日かけ、3月30日に撤退を完了させ、31日には市の職員がフェイスブックで喜びを伝えているが、 虐殺の話は出ていない。テレグラムのチャンネル、 ブチャ ・ライブでも31日まで虐殺の話は出てこない。

https://www.youtube.com/watch?v=nellEd8umKU

しかし、4月1日夜にツイッターにアップされた自動車から撮影されたビデオには、ヤブロンスカヤ通りに死体がある様子が映されている。現地を取材したAFPの記者はその通りで24体を、またAPの記者は20体を確認したという。

ロシア軍が撤退した後、ブチャへの砲撃があり、戦乱の廃墟を作り上げた。BBCが4月3日に公開した映像にはアスファルトに食い込んだ迫撃弾が映っていて、その状態から発射地点は南側だと推定されている。つまりウクライナ軍がいた場所だ。
https://www.youtube.com/watch?v=bb5uXrK-hGI

右で『櫻井ジャーナル』は、 「31日には市の職員がフェイスブックで喜びを伝えている」と書かれていますが、RTの記事では、同じ動画が示されていて、ここでは「ブチャ市長(mayor)」となっていました。

しかし、いずれにしても、この動画に出てくる人物は虐殺については一言も語っていません。キエフや西側が大騒ぎするほどの虐殺があったのであれば、それを市長や市民が語らないはずはないでしょう。

さらに『櫻井ジャーナル』は、この記事を次のように続けています。

4月2日にはネオナチを主体に編成された親衛隊の大隊(アゾフ特殊作戦分遣隊)がブチャに入っているとニューヨークタイムズ紙は報じたが、アゾフと同じネオナチでライバル関係にあるというボッツマンのチームも、ウクライナ警察の特殊部隊と一緒に4月2日には現場へ入っているという。

ボッツマンのチームはウクライナ軍を示す青い腕章をつけていない人物の射殺を許可されていた。ロシア軍に処刑された人びとだとして公開された写真の複数の遺体には白い腕章が巻かれている。

その2日、ウクライナ国家警察は自分たちが行った掃討作戦の様子をインターネット上に公開した。そこには大破した自動車の中に死体が映っていたものの、そのほかに死体は見当たらない。
https://www.youtube.com/watch?v=Z7yIyNBMpQY

これを読むと、次の2つのことが分かります。

ひとつは、アゾフ大隊と同じネオナチで、それとライバル関係にあるというボッツマンのチームは「ウクライナ軍を示す青い腕章をつけていない人物の射殺を許可されていた」 。

ところが、 「ロシア軍に処刑された人びとだとして公開された写真の複数の遺体には白い腕章が巻かれている」のでした。

つまり結論はRT記事と同じで、虐殺だとされた死体には白い腕章が巻かれていたのです。ウクライナ軍は「青い腕章をつけていない人物の射殺を許可されていた」のですから、この死体はロシア軍によるものではなくウクライナ軍によるものだったということです。

しかも、 「自分たちが行った掃討作戦の様子をインターネット上に公開したとされる映像」に登場するウクライナ国家警察は、 確かに青い腕章を巻いていました。だとすると、白い腕章の死体は、ますますウクライナ軍によるものだったことになります。

もうひとつ、この記事で分かることは、ウクライナ国家警察による映像では、 「大破した自動車の中に死体が映っていたものの、そのほかに死体は見当たらない」ということです。そこで、 『櫻井ジャーナル』による推測はつぎのようなものでした。

つまり「国家警察はブチャで親衛隊と行動をともにしていたので何が起こったかを知っていたが、その死体を親衛隊が何に使うつもりかを知らなかった可能性がある」 。

言いかえれば、道路にたくさん自動車が散在していて、その自動車内の死体がロシア軍による虐殺死体として使われた可能性があるということです。

このように考えれば、ブチャ市長(またはブチャ市民)が「我々は勝利した」 「ロシア軍は敗退して退散した」と語っている映像の数日後
に、突然、虐殺死体が登場したことの謎が解けることになります。

青い腕章をつけてブチャ市内を巡回するウクライナ国家警察。4月2日、この映像では、路上に散乱する虐殺死体は映っていない
https://www.youtube.com/watch?v=Z7yIyNBMpQY

上記の記事を載せた『櫻井ジャーナル』は、その翌日、もうひとつ関連記事を載せました。それは次のような興味深い内容でした。

ウクライナのブチャでロシア軍が住民を虐殺したとする話に不自然な点があることは少なからぬ人が指摘している。

が、そうした中、ニューヨークタイムズ紙は4月4日、マクサー・テクノロジーズという会社から提供された写真を掲載、3月19日には死体が路上に存在していたと主張している。

ところが、この記事にも疑問がすぐに出てきた。

「3月19日の写真」は土砂降りの雨の後だとわかるが、現地で土砂降りの雨があったのは3月31日から4月1日。影の分析から撮影された日付けは4月1日。SunCalc プログラムで太陽の角度を分析した結果もやはり4月1日だという。 これは住民の証言とも一致している。

ニューヨークタイムズ紙の記事は偽情報の可能性が高い。

 

つまり、モスクワ側から「ロシア軍がブチャから撤退したとき路上に虐殺死体はなかった」という反論が出たので、慌ててバイデン政権が考え出したのが、 「マクサー・テク ノロジーズという会社」を使って、捏造写真を作り出すという方法だったようです。

それを、バイデン大統領に媚を売る「娼婦メデ ィア」ニ ューヨークタイムズが4月4日に載せたのが、 「3月19日には死体が路上に存在していた」とする記事だったのでしょう。

しかし上記の『櫻井ジャーナル』が示すように、検証の結果、 「3月19日の写真」とされたものは、4月1日にヤブロンスカヤ通りで撮影されたものであることが、ほぼ確実なのです。

だとすれば、路上に散乱していたとされる死体は、やはりロシア軍によるものではなかったのです。なぜなら、ロシア軍が撤退を完了したのは、3月30日でしたから。

このような偽旗作戦は、ベ トナム戦争時における「トンキン湾事件」 、シリアにおける「化学兵器攻撃」その他に見られるように、米軍・CIAの常套手段です。ですから、彼らの指導を受けているウクライナ軍が、その手を使わないはずがありません。

それはすでにウクライナ南部のマリウポリ市の事実で証明されています。次の記事で、ロシア軍によってネオナチのアゾフ大隊からやっと解放された市民が、その喜びとネオナチによる市民への虐待・虐殺について生々しく語っているからです。

Was bombing of Mariupol theater staged by Ukrainian Azov extremists to trigger NATO intervention?「マリウポリの劇場爆破は、 ウクライナのアゾフ過激派がNATOの介入誘導のために仕組んだのか?」( 『翻訳NEWS』2022/03/28)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-851.html
* Video: Mariupol: “Nicolay Knows”. Civilians Denounce the Crimes of the Neo-Nazi Azov Regiment「動画『マリウポリの現状を語るニコライさん』 。市民たちがネオナチのアゾフ連隊が犯した罪を告発」( 『翻訳NEWS』2022/03/28)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-848.html

こうして、 「ロシア軍による、劇場や産科病院へ の爆破」というのも、ウクライナ軍による「自作自演」だったということが、現場からの証言として明らかになってきました。

ですから、 「ロシア軍によるブチャ虐殺事件」というのも近いうちに真相が明らかになるものと信じています。 次のスコット・リッターによる論考は、そのことをよく示しています。

The truth about Bucha is out there, but perhaps too inconvenient to be discovered「ブチャで起こったことの真実はすぐそこにある。だが露見するにはあまりにも不都合な真実だ」( 『翻訳NEWS』2022/04/08)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-870.html

スコット・リッターと言えば、フセイン大統領のWMD(大量破壊兵器)所有を口実にアメリカがイラク侵略に乗りだしたとき、 「私が国連査察官として全ての化学兵器を廃棄処分したから、そのようなWMDはあるはずがない」と強く主張した人物として有名です。

その彼が今度の「ブチャにおける虐殺事件」を取りあげて論じたのが、右記の論考なのですが、その冒頭は次のように始まっています。

「戦争における最初の犠牲者は真実だ」

この言葉は紀元前6世紀のギリシャの悲劇作家アイスキュロスのものだ。彼は「戦時には、絵や神話からの引用、おおげさなことば、言葉遊びやなぞなぞが多数使用される」 としていた。

「近代戦争におけるプロパガンダとはいかなるものか」 について初めて語ったこのアイスキュロスはきっと、今のウクライナ情勢を見れば、自分のことばがそのまま通用している、と感じるはずだ。

キエフ政権と、西側が繰り出している情報戦に助言を与えているものたちが、アイスキュロスが使った脚本手法を駆使し、共謀して、ウクライナのブチャという町で起こった近代悲劇をでっちあげた可能性がある。

このことは、その場しのぎのごまかしのために嘘を利用するのではなく、戦争の武器として嘘を利用している (みごとな) 一例になるだろう。

このあと、スコット・リッターは、 「キエフ政権と西側が繰り出している情報戦に助言を与えているものたちが、共謀してウクライナのブチャという町で起こった近代悲劇をでっちあげた可能性がある」とした根拠を述べています。

しかし、それについては既に『櫻井ジャーナル』も述べているので、それは割愛して、ここではリッターが次のように述べていることだけを紹介して、本書の「締め」にしたいと思います。

ブチャで起こったことについての真実はすぐそこにある。しかし残念なことにその真実は、法医学的検証や現場検証を積極的におこなう立場にいる人々にとって不都合な真実のようだ。

なぜなら、国際法のもとでその犯罪の真の加害者が法廷に引きずり出された時には、米英両国政府が「起訴された罪」 の共謀者として取り上げられることは間違いないだろうからだ。

というのは、真実追究の過程で「ブチャを占領していた短期間にロシア軍に協力したという罪を負わされた市民」 を、 「ウクライナ国家警察が殺害していた」 という事実が明るみに出て来る可能性もあるからだ。

つまり、スコット・リッターは、惨殺したとして路上に放置されていた死体は、 「ブチャを占領していた短期間にロシア軍を歓迎したとされる市民」だった可能性があると言っているのです。まさに「戦争における最初の犠牲者は真実」(アイスキュロス)なのです。

しかし皮肉なことに、この事件を口実に「プーチンを国際刑事裁判所(ICC)に告発する」と叫んでいるバイデン大統領の国ア メリカは、ICCに加盟していません。

今まで世界中で侵略戦争をおこなってきたからこそ、アメリカは、 「戦争犯罪」の罪に問われることを恐れて国際刑事裁判所(ICC)に加盟してこなかったのです。そのアメリカがプーチンを「戦犯」にかけるためにICCに加盟するのでしょうか。

これはアメリカの過去をも暴露することになり、巨大なブーメラン効果をア メリカにもたらすでしょう。もしそうなれば、将来の大きな見物になることは疑いありません。

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体1—アメリカとの情報戦に打ち克つために—』の第13章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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