始まった維新とれいわ新選組のバトル 「橋下徹vs大石晃子」訴訟が明かす「維新のルーツ」
政治・「大阪をぐちゃぐちゃにした犯人は誰ですか?」
日本維新の会副代表の吉村洋文・大阪府知事に文通費(文書通信交通滞在費)問題で特大ブーメランを直撃させるなど、「維新キラー」の異名を持つ大石晃子衆院議員(れいわ新選組・比例近畿ブロック)が2月3日、“維新創業者”である橋下徹・元大阪府知事に提訴された。同日のツイッターで「ちょ、待て 橋下徹@hashimoto_loにうったえられたんだが」として、訴状の内容の一部を明らかにしたのだ。
「2月3日、橋下徹氏より大石あきこの発言が『たびたび攻撃的な表現行為を繰り返している』として『名誉棄損行為、社会的評価を低下させる行為であり300万円を支払え』との訴状を受け取りました」(同日の大石氏のツイート)。
れいわ新選組の山本太郎代表は「昔の上司が昔の部下を訴えた話」(2月9日の会見)と解説したが、元大阪府職員の大石氏は13年前、橋下府知事(当時)と激突したことで注目された人物。そんな因縁の対決を大石氏は、先のツイッターで振り返りながら、受けて立つと宣言もしていた。
「2008年に橋下氏は、府知事に就任して最初の朝にて『民間では始業前に朝礼するのが当たり前であり組合が超過勤務と言ってくるなら勤務時間中のタバコや私語も一切認めない』と発言しました。それに対し大石あきこが『どれだけサービス残業やっていると思っているんですか?』と噛みついてから13年。本件に対しても然るべき対応を行います」(同前)。
れいわと維新のバトルがさらに激化するのは確実だ。一貫して大石氏は「維新はこういう問題がある」「橋下元知事にはこういう問題があった」などと批判してきたが、今回の提訴はこうした自らの言論を潰そうとするものと捉え、「屈するわけにはいかない」「ますます真実を明らかにする活動に力を入れる」と大石氏は意気込んでいるからだ。
2月3日の第1報と同時に「取材待ってます」とも大石氏は発信。私にも「取材依頼は大石あきこ事務所」とのメールが届いたため、すぐに取材申込みをし、6日に大阪市内で開かれた「介護労働者怒りの集会」に向かった。大石氏がここで国政報告をすることもツイッターで予告していたからだ。
会場で大石氏に声をかけると、「橋下氏は『維新関係者』『維新の親玉』といえます」と強調しつつ、徹底抗戦することを宣言。ファイティングポーズをしながら写真撮影にも応じてくれたが、訴状の内容については「弁護士との相談を終えてから記者会見を開いて説明します」という事情から、取材は先送りとなった。
2月下旬になっても大石氏自身が訴訟について語る記事が出ていなかったのはこのためだ。それでも大石氏は、介護労働者の賃金格差是正がテーマの「怒りの集会」で見せ場を作ってくれた。
約15分間の国会報告の最後で、「維新の悪口を言っていいですか」と切り出し、次のように声を上げたのだ。
「ほんまに維新はひどいですよね。(『新しい資本主義』を掲げる岸田政権の)このしょぼい資本主義に対して(維新は)『賃上げするために経済成長が先だ』とのたまっているのです。おまえらはアホか。おまえらが辞めるのが先だろうと。なぜなら、『大阪をぐちゃぐちゃにした犯人は誰ですか?』という話です。維新なのですよ。さんざん、いろいろなものをリストラして、非正規化を進めておいて、『この日本経済が成長をして初めて賃上げだから、介護規制の緩和をやれ』とか、人殺しという状況です。こんなことを言っていたら名誉棄損をやられるかもしれませんが、やれるものならやってみろと。事実ではないかという話だと思います。(拍手)やっぱり最後に言いたいことは『維新の賃上げは嘘でした』(1月30日のNHK『日曜討論』での発言)。今回もそういうことでした。皆さん、ともに頑張りましょう。私も頑張ります」。
この集会の主催者は「介護・福祉総がかり行動」(ケアワーカーズユニオン)で、キャッチフレーズは「たった九千円では話にならない! その10倍の賃上げを!」。介護現場の賃金格差は8万5000円もあるのに、岸田政権(首相)が決めた改善額は9000円と一桁少なかった。「日曜討論」などで大石氏が「しょぼい」と一刀両断にしていたのはこのためだ。
維新批判が飛び出したのは、国会報告の最後の部分だけではなかった。前半でも、大阪での新型コロナの惨状を紹介したうえで、維新の「身を切る改革」が背景にあると指摘したのだ。
「いま大阪で保健所が崩壊、医療も崩壊。行政も崩壊している状況になっています。1月末の時点では、自宅療養者が3万2千人。それに対して『あなたは自宅療養ね』と認定前の方が4万1000人という状況なのです。その手前の『全体で何人います』という登録さえ1日3000人ができていなかったことが明らかになったので『実態が不明』という状況になっていると思います。
今日(2月6日)の時点でさらに広がって、自宅療養が3万9000人。その自宅療養の手前の方々が6万9000人で、まだまだ増えている。システム入力(登録)ができていない人はもっと多いかもしれない。全貌はつかめない行政崩壊の状況に至っていると思います。
この背景の原因はまぎれもなく、『身を切る改革』と称して公衆衛生とか、介護や医療をとことんリストラ、『ケアワークを舐めてきた』という維新府政・市政の責任ですから、これは絶対に許してはならないことだと思います」(大石氏)。
大石氏の特徴は現場主義だ。現場の人たちの声に耳を傾けて、政治に反映させる活動を続けている。なお国会議員になる前から大石氏は、この集会の主催団体のメンバーとして、政府との交渉などに臨んでいた。「日曜討論」で介護現場が抱える問題を端的かつ具体的に指摘したのは、こうした現場主義の賜物といえるのだ。
・維新に刺さった二つのブーメラン
そんな大石氏のところには、介護関連団体「大阪市介護支援専門員連盟」が検査無料化を求める要望書を大阪市長に出したとの情報も入っていた。維新代表でもある松井一郎市長の即断即決を大石氏が求めたのはこのためだ。先の国政報告では次のように訴えていた。
「介護従業員は必要な検査が受けられない。精度の悪い抗原検査すらできない状況です。『介護サービスの継続には検査体制が必要だ』ということで、『基本的にはPCR検査を無料で受けられるように制度を保障せよ』ということを、1月27日に大阪市長にケアマネの方がしている。『早くこの声を聞け!』ということです」。
この日の“大石節”を聞いただけでも、維新創業者である橋下氏が「維新キラー」こと大石氏を訴えたくなる心情が想像できた。「私人」「一般人」と強調しながら実際は、維新のスピーカー役を務めてきた“広報宣伝部長”のような橋下氏にとって、大石氏の言動は見過ごせなかったのではないか。政界引退をしたものの、自らが産み落とした維新の面々を徹底批判する大石氏を狙い撃ちにすることで、援護射撃をしたように見えるのだ。
実際、初当選直後から大石氏の維新批判は徹底していた。国会初登院をした昨年11月10日の東京・新宿街宣では、自民党以上に改憲に前のめりで「第二自民党安倍派」のような維新を「火事場泥棒」と山本代表が指摘したのに続き、大石氏も維新副代表の吉村洋文知事を次のように批判していたのだ。
「大阪は医療崩壊がワーストなのです。コロナによって亡くなった人は全国1位なのですが、どういうわけか関西のメデイアが『維新のコロナ対策はうまく行っている』と報道するもので、吉村知事の人気が非常に高くて、維新が大躍進をしているという状況なのです」。
「それで火事場泥棒的に調子をこいて、『自分たちがもっと人流を抑えたいから憲法を変えて、皆さんの自由を制限するのだ。これがコロナ対策だ』というわけのわからないことを言っている。まさに火事場泥棒ですよね」。
橋下氏に代わる“維新の顔”となり、「コロナ対応で最も評価している政治家第1位」(毎日新聞の世論調査)にも輝いた吉村氏に特大ブーメランを直撃させ、謝罪に追い込んだのも大石氏だ。吉村氏が大阪市長選出馬で衆議院議員を辞職した15年10月1日に、同月分の文通費100万円“1日満額支給”を受けていたことを暴露したのだ。
しかも第2の特大ブーメランを、吉村氏と橋下氏にぶち当ててもいた。11月17日、「2015年10月6日 ニコニコ生放送(大阪維新の会特番)鼎談 橋下徹・松井一郎・吉村洋文」と題する動画を自身のツイッターに貼り付け、新旧の“維新の顔”である二人が文通費について「もうちょっと内緒に」などと語る場面を紹介した。この鼎談は、吉村氏が文通費満額支給を受けた5日後のことだった。
橋下:「しかも毎月100万円、経費をもらうわけでね。文通費ね」。
吉村:「でも文通費の公開、あれは本当、市長と幹事長がいいところに目をつけたというか、ウイークな(弱い)ところを突いていただいて」。
橋下:「あれだって、地方議員は政務調査活動費で……」。
吉村:「もうちょっと内緒にしてもらってもねぇ(笑)。あれ、完全に第二の財布ですからね」。
橋下:「あれね」。
吉村:「維新の会、維新の党は「公開する」ということで公開していますけれども、あれを公開しないところは本当に第二の財布で、飲み代やなんやに消えているでしょうね」。
橋下:「それで税金だってかかっていないわけですから」。
吉村氏:「そうです」。
ツイッターで大石氏は次のように解説した。
「2015年10月、退職の1日で文通費100万円を得た、5日後の吉村発言。『文通費、内緒にしてもらったら(苦笑)』『公開してないとこは、飲みしろやなんやに消えているでしょうね』→吉村さんは10月分だけ公開せず飲みしろに使ったんですか?『ブーメラン反省』では済まない大問題ですよね」。
維新関係者の二枚舌ぶりやご都合主義を物語る鼎談動画といえる。
吉村氏も橋下氏も15年に文通費問題に気が付きながら6年以上も放置した挙句、昨秋の総選挙後に維新新人議員が問題提起をすると、急に騒ぎだしていたのだ。大石氏の第2の特大ブーメランは新旧の“維新の顔”に突き刺さり、「隠蔽体質の維新は本当に改革政党なのか」といった疑問を膨らませることにもなった。
“嫌がらせ訴訟”とも呼ばれる「スラップ訴訟」を橋下氏が仕掛けたくなる気持ちは、ここからも容易に想像できるだろう。彼が「攻撃的な表現行為を繰り返している」と指摘した大石氏の言動(爆弾発言)が、維新の“改革政党”のイメージをぶち壊すケースが相次いでおり、放置しておけないと考えたのではないか。
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。