【連載】横田一の直撃取材レポート

始まった維新とれいわ新選組のバトル 「橋下徹vs大石晃子」訴訟が明かす「維新のルーツ」

横田一

・橋下氏が訴えた本当の理由

第1報から6日後の2月9日、3年ぶりの国会質疑を衆院内閣委員会で行なったれいわの山本代表が、不定期会見を開いた。

自宅療養をするコロナ感染者への支援策について「自治体は兵たんが尽きている。予備費を活用し、国が財源を配るべきだ」と政府のテコ入れを求めたが、山際大志郎経済再生担当大臣は「兵たんが尽きているという感覚はない。お困りの方を何とかお助けできるようにしていく」と述べるに止まった。

直後のこの会見で山本氏が「完全に塩(対応)ですね」「一刻も早く、この政治状況が買わないと、失われていく命が増えていくばかり」と批判したのはこのためだ。

この日の会見は、訴訟について弁護士との相談に時間がかかっているためか、大石氏は同席しなかった。そこで私は、国会質疑関連の質問が一段落したところで、次のように質問した。

――橋下さんは自らを「私人」「一般人」と言っているが、大石さんは「橋下氏は維新関係者」「維新の親玉ではないか」ということで、「裁判でも維新の問題を明らかにしたい」と意気込んでいた。訴訟の受け止め、橋下さんが私人なのかどうかも含めてお聞きしたい。

山本:「私人」か「公人」かと言われたら、私人なのでしょう。一般的に「私人」というカテゴリーでは括れない存在であることは間違いないと思います。一般的な私人というところでは括れない有名人であり、力を持った方であろうと。政治的な力もお持ちでしょうと思います。どこからどう見ても、維新の関係者であることは間違いない。「そうではない」と言えるのは、使っているテレビ局ぐらいではないかと思います(笑)。その良い悪いの話はここではしないが、でも普通に見ていて、そうだと思います。生みの親に対しての愛情も、やはり子たちにはあるでしょうし、その関係性は非常に深いものであるという理解です。

橋下さんが大石さんを訴えたという話ですね。「昔の上司(府知事)が昔の部下(府職員)を訴えた」という話だと思うが、これに対して私から何かというのは特にない。全くの第三者、その騒ぎの外側から見ている一般人として、もしもお話をするとするならば、「ややこしいところにややこしいものを持ち込んでもうたな、橋下さん」という感覚です。
大石さん、ややこしいですからね。だから、これまでの喧嘩をしてきた相手とはちょっと質が違うのではないかと思います。同じグループでやっていても、120%、ややこしいですから。誉め言葉です。

――徹底的に議論をするというタイプだと。

山本:もう、議論なのか、もう「泥レス」みたいなことになっていますね。プロレスではないですよ、泥プロレス。沼で戦っている。溶鉱炉に突っ込む寸前でも「I’ll be back!」という人間ですよ、彼女は(笑)。だから、ちょっと、なかなか大変だなと思います。なので、心配しています、橋下さんのことを。

映画「ターミネーター」の名ゼリフを使ったのは、大石氏の“戦闘能力”の高さを表しているのだろう。そのうえで、泥沼の死闘になるであろう橋下氏に気遣いをしてみせた。

この発言に橋下氏は「心配ありがとう」とすぐにツイート。私人関連部分の発言にも触れつつ、次のように発信している。

「政治家時代のメディアへの対応は徹底的な透明性・公平性・ガチンコ勝負にこだわってきたので、今回の発言は一線を越えたと思っている」。
「貴殿がいうように僕は完全な私人とはいえないので、たいがいの批判、誹謗中傷には訴訟などやらずにツイッターでやり返すことにしている」。

このツイートを2月10日付のスポーツ報知は「橋下徹氏、大石晃子議員を訴えた理由明かす」と銘打って伝えたが、この2日前の8日に読売新聞は、日刊ゲンダイのネット記事(21年12月17日配信)が橋下氏の名誉を傷つけたことが提訴につながったと報じていた。同記事の中で大石氏は知事時代の橋下氏について「気に入らない記者は袋だたきにする」などと語っており、訴状にある「大石晃子 外1名」が日刊ゲンダイであることが判明したのだ。

訴訟の大枠が見えてきた。「排除」発言を引き出した私を知事会見で4年以上も指さない小池百合子東京都知事をはじめ、少なからぬ政治家は権力監視を志向する記者を冷遇する一方、迎合的な記者を厚遇する傾向がある。

橋下知事(当時)の差別的報道対応の有無については法廷で争われるだろうが、このことが維新増長の原動力の一つになった可能性は大きい。

先に大石氏が指摘したとおり、大阪のメディア(とくにテレビ局)は維新寄りの報道をすることが多い。今年の正月にも、MBS(毎日放送。本社・大阪市)が元日早々、橋下・松井・吉村の3氏を出演させていたことも記憶に新しい。「関西のテレビ局は死んでいる。維新を怪物にしているのはテレビメディア」(経済情報誌I・B 2022新春号)と山本代表も指摘しているが、13年前に誕生した橋下府政から続く差別的報道対応が、現在の維新称賛報道につながっているのではないか。

Modern Building in Osaka, Japan in the afternoon light

 

その実態の一端を暴露した大石氏の言論を問題にした今回の訴訟は、すなわち“維新のルーツ”を探るようなものになるということだ。

維新のウソや不都合な真実が大メディアに報じられない事例はいくつもある。20年11月、2度目の否決をされた大阪都構想のキャッチフレーズは「大阪の成長を止めるな!」。当時、山本代表は大阪で連日反対の街宣を行ない、ともにマイクを握った大石氏が暴露したのが「大阪の成長率は全国平均以下」ということだった。理系出身(大阪大学大学院環境工学専攻)の大石氏が、統計データに基づいて維新のウソをここでも暴いていたのだ。

また最近では、カジノ(IR)予定地の人工島「夢洲」に790億円の税金投入をすることも問題視、反対署名集めもしている。維新の目玉政策に疑問を投げかけ続けているのだ。

「維新創業者の橋下氏vs維新キラーの大石氏」の法廷闘争が、「維新vsれいわ」のバトルをさらに激化させるのは間違いない。昨年の総選挙では立憲民主党がまさかの議席減となる一方で、れいわは事前予測を上回る3議席(得票ベースでは四議席)を獲得。岸田自民党以上に改憲に前のめりな第二自民党安倍派のような維新との対決姿勢を強めている。

存在感の薄くなった立憲民主党に代わって発信力抜群の山本代表と大石氏が維新を批判、野党陣営の牽引車役を買って出る展開といえるだろう。

そんな大石氏を橋下氏が狙い撃ちにした今回の訴訟が、これからも大きな注目を集めていくのは確実だ。大阪地裁での第1回口頭弁論の期日は3月11日。この法定闘争、ひいては「れいわvs維新」のバトルから目が離せない。

(月刊「紙の爆弾」2022年4月号より)

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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