【特集】終わらない占領との決別

米製兵器爆買いの果てに─米中新冷戦に組み込まれる日本─(後)

望月衣塑子

5.「イージス・アショア」の導入議論と見送り

紆余曲折の末、「ちゃんと使えるのか」のそもそも論に立ち返った事例もある。日米連携のシンボルとされ、19年度に契約予定だった地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」だ。

当初、安倍政権はアショアの配備地を菅官房長官の郷里である秋田と、安倍首相の地元の山口の2演習場にする方針を発表した。価格は2基で計2352億円だったが、「後年度負担金」を利用したため19年度の支払いは57億円だけ。残る2295億円は20年度以降、4年に分けて支払う予定だった。防衛省はその後、アショア2基を30年運用した場合の維持・運用経費などのライフサイクルコストの見積もりを発表。2基の導入と運用含めた総経費は6985億円に上るとした。

このアショアについても、米政府の要望が水面下であったと言われる。防衛省幹部は「山口と秋田への配備で防ぎたいのは、日本への攻撃同様に、中国や北朝鮮から米国へ飛んでいくミサイルをいかに打ち落とせるかだ」と話す。一方、「なぜ、秋田の新屋地区が候補とされたのか」「山口のむつみ演習場で、以前と同じことを押しつけて進めようとするのはおかしい」……。候補に名指しされた秋田県の新屋地区や山口県の萩市・阿武町の住民らからは、政府への不満が爆発した。

この場面で、アショア導入を見送る決定をしたのは河野太郎防衛相だった。20年6月25日、河野氏は、自民党国防部会などの会合で、イージス・アショアの配備計画の断念を、6月24日の国家安全保障会議(NSC)4大臣会合で決定したと明らかにした。河野氏は「代替地を見つけるのは困難」とし、国内配備自体が撤回された。

河野氏はNSC会合で、迎撃ミサイル発射後に切り離される約200キロのブースターを陸上自衛隊のむつみ演習場内に確実に落下させるには、改修に2200億円以上の費用と10年以上かかる見通しになると分かったと説明し、陳謝。ミサイル防衛には当面、海上自衛隊のイージス艦と地対空誘導弾パトリオット「PAC3」で対応するとした。半面、導入を決めた17年当時の判断については「北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を繰り返しており、当時は(判断は)正しかった」と弁明し、判断ミスは否定した。

秋田県の佐竹敬久知事は記者団に「県民の不安が無くなって良かった。ただ(導入を閣議決定した以降の)2年半は一体何だったのか」と政府への不信感をあらわにした。山口県の村岡嗣政知事も「早急な決定に感謝する」とし、「住民の安全に関わることは、間違いない説明をするよう防衛省は改めてほしい」と注文を付けた。

6.加速する値上げと東南アジアへの「輸出」への動き

イージス・アショアは見送りになったが、FMSの米製兵器の価格は米側が見積もるため、値段は米側の言い値になりがちだ。日本向けに部品を作り直す必要もあり、当初の見積もりから価格が高騰することが多い。日本側が適正価格を検証するのは難しく、米側の圧倒的優位は動かない。

Wooden blocks with “WAR” text of concept and coins.

 

21年11月15日に発表された財政制度審議会分科会への報告では、自衛隊の航空機とヘリコプターのうち、国産6機種の部品価格が、6年間で最大10倍超に上昇していた実態が明らかになった。P1哨戒機と自衛隊ヘリの2機種は輸入品だが、機種本体が国産でも部品の4~6割は輸入に頼っているため、為替変動の影響を受けやすい。例えば、海自ヘリのエンジン部品が14年度で数千万円が20年度には約3.3倍の数億円に跳ね上がっていた。

財務省は、価格高騰の主な原因について「原材料費の高騰や為替の変動」と説明しているが、防衛省の関係者は「契約担当者らの一部を除いて値上げの実態を把握しておらず、予算をチェックする財務省も、値上げが妥当か十分検証せず支払いに応じていた」と指摘する。

米国はもっとシビアだ。プロジェクト継続には議会(下院)の承認が必要など、日本と比べて厳格なプロジェクト管理を適用する。当初は750機の調達予定だったF22戦闘機が195機、当初29隻を調達予定だったシーウルフ級原潜がわずか3隻でそれぞれ調達中止になるなど、価格の高騰が続けばプロジェクト自体が中止される。ところが日本の場合、原則は自動継続で、プロジェクトの中止は防衛大臣しか決められない仕組みだ。これでは議会のチェックが働いてないということに他ならず、硬直化を生む原因になっている。

爆買いの一方で、特に東南アジアの国を中心に日本の防衛装備品を輸出する動きが進んでいる。もともと「武器輸出三原則」では、直接的な殺傷能力がある武器は輸出対象から除外されていた。14年の武器輸出解禁の時も、礒崎陽輔首相補佐官は「国際紛争を助長する輸出はしない」と述べており、防衛装備移転三原則の下でも、輸出は「救難、輸送、警戒、監視、掃海」と用途を限定し、殺傷能力を持つ完成品は想定していなかった。

だが、政府は「共同開発」名目でなら技術移転(=輸出)できる可能性を残していたのだ。実際、岸田政権は、海上自衛隊の護衛艦を原型にした「共同生産」方式で、インドネシアからの受注を目指している。21 年8月には金杉賢治・駐インドネシア日本大使が、防衛駐在官を伴ってインドネシア国防相らと面会。三菱重工からフリゲート艦を取得するための会談が行われた。インドネシアへの艦艇輸出は、日本以外にもイタリア、トルコが受注を争う。受注すれば、「共同生産」を通じて、殺傷能力のある装備品を輸出する初めてのケースになる。

東南アジアへの武器輸出が取り沙汰される背景には、中国の軍事力の台頭と、太平洋地域での緊張の高まりがある。日本の防衛費が増加を続けるもう一つの大きな要因だ。

Modern strategic rocket forces concept on flag background

 

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望月衣塑子 望月衣塑子

東京新聞社会部記者。経済部時代、武器輸出、軍学共同をテーマに取材。モリカケ疑惑では菅義偉官房長官会見で質問し続けた。現在、入管法や外国人、ジェンダー格差などを取材。17年、平和・協同ジャーナリスト奨励賞。

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