【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ・ナチスの系譜と現状―米国がしかけたマイダン・クーデターがもたらしたものー

乗松聡子

いま私たちが目撃しているウクライナ戦争は一言で言えば、2010年に民主的に選ばれたビクトル・ヤヌコビッチ政権が、14年2月、当時の米国オバマ政権が介入して起こした「マイダン・クーデター」によって転覆され、米国の傀儡政権に取って代わられて以降、ウクライナ政府軍が東部ドンバス(ドネツク、ルガンスク)のロシア系住民に対し攻撃を開始し、8年間続いてきた内戦である。

The central street of the city after the storming of the barricades during the EuroMaidan

 

ドンバスの住民が、米国をバックとした自国の政府軍からロシア協力者との嫌疑をかけられ逮捕、拷問、虐殺される様は、かつて韓国済州島で起きた「4.3事件」に構造が似ている。この戦争に今年の2月24日からロシアが、ドンバスの人々を救援する事も一つの目的として参入した(先に発表した記事では、2021年を通してウクライナ側は戦争準備を着々と進めており、今回の戦争は22年2月16日に始まったという見解も紹介した)。

西側メディアが宣伝するような、「プーチン大統領の帝国的野心による侵略戦争が2月24日に突然始まった」というストーリーとは全く異なる歴史的背景と史実を踏まえてこそ、私たちはこの戦争を終結させるための言論と行動を起こせると信ずる。

その信条の下に、さる4月17日、笹本潤弁護士と「緊急企画:ウクライナについてのオンラインイベント」(日本国際法律家協会・ピースフィロソフィーセンター共催)を開催した。そのときの自分の講演内容にもとづき、「独立言論フォーラム」(ISF)に「ウクライナ 忘れられている死者たちは誰か」という三部構成の記事を出したので読んでいただきたい。ここでは講演では話したが三部作に書ききれなかった、報道の問題やウクライナのネオナチについて書きたいと思う。

ウクライナ戦争においては、ゼレンスキー大統領などウクライナ当局者が言うこと、つまりウクライナ側の「大本営発表」をそのまま事実であるかのように「報道」する西側メディアが大半である。もちろんロシア側の報道も「大本営発表」であろう。

しかし西側メディアは、ウクライナや西側政府の発表は無検証で「事実」のように報道し、ロシア側の情報はすべて「プロパガンダ」であるか、または不当な主張として報道するのが常である。その国の報道機関が、戦争の片方の発表をただ伝書鳩のように伝えるだけになったとき、その国はその戦争に参加しているのである。

それで視聴者の頭の中には「西側=すべて正しい;ロシア=すべてが悪(嘘)」という構図が出来上がり、それが日々強化される(つまり、洗脳)。これはロシアだけではなく中国、朝鮮民主主義人民共和国、イラン、シリア、キューバ、ベネズエラなど、米国に服従しないせいで米国から敵対視されている国々についての西側報道に共通する。

一つの典型例を挙げる。TBSの4月12日放映の「Nスタ」のダイジェストをYouTubeの「TBS News DIG」で見ていたら、「ロシア軍“有害物質”使用か」という見出しのニュースで、米国国防総省のカービー報道官が12日の記者会見で「(マリウポリで)化学物質を混ぜた催涙ガスを含む様々な暴動鎮圧剤を使う可能性について」指摘したとし、そこで「化学兵器の使用が確認されればロシア侵攻開始以降初めて」とのテロップが流れた。起こってもいないことを仮定で「起これば初めて」とまで言うのは、起こってほしいのかと思ってしまう。

次にはなんとネオナチのアゾフ大隊のツイッターを画面に出し「ロシア軍がマリウポリで不明の有毒物質を無人機から投下」と報じ、アゾフの創設者であるアンドリー・ビレツキー氏の「3人に明らかな化学兵器特有の症状が出ている」という言葉まで引用した。アゾフが何か言うだけで「明らかにした」とまで報じてしまうのである。

挙げ句の果てに、キャスターは「情報の真偽や信憑性はわからないことも多くあるわけですけど、プーチン大統領としては手段を選ばない、虐殺・テロのような状況が続いています」と締めくくった。言いながらうつむき加減になり、目をパチパチまばたきさせるボディラングエッジが象徴的だった。ジャーナリストとして恥ずべき発言をしていることが内心わかっているのかもしれない。

「情報の真偽や信憑性はわからない」ことを認めておきながら最後にプーチン大統領に虐殺者、テロリストのレッテルを貼って終わらせる、これが日本メディアの手口なのである。「ロシアが化学兵器を使う」という言説は忘れた頃に繰り返し出てくるが、西側の「期待」に反し、そのようなことは確認されていない。4月12日のカービー報道官の発言の原文を見れば「確認できていない」と言っている(このように多くの報道は原文に当たれば報道の印象とは随分違うことが多い)。

「ブチャの虐殺」という、国連の現地調査団も約50人の死者を確認していながら加害者を特定していない事件が、西側ではロシアがやったと決めつけられているのも同様である。

アゾフ大隊とは何か。マイダン・クーデター後、14年5月、移民やロマ族に暴力を振るうようなネオナチグループを母体として誕生した。出資者はウクライナの巨大オリガルヒのイーホル・コロモイスキー氏である。

MARIUPOL, UKRAINE – MAY 17: Surrendered servicemen of Ukraine’s national battalion “Azov”, which is an all-volunteer infantry military unit, are being transferred to Yelenovka in Mariupol, Ukraine on May 17, 2022. Leon Klein / Anadolu Agency/ABACAPRESS.COM
写真:Abaca/アフロ

 

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乗松聡子 乗松聡子

東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない  世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。

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