【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ・ナチスの系譜と現状―米国がしかけたマイダン・クーデターがもたらしたものー

乗松聡子

「ゼレンスキー大統領がユダヤ人だからウクライナがネオナチのはずはない」という言説があるが、ネオナチ集団に出資したコロモイスキー氏もユダヤ人だし、ゼレンスキー氏をコメディアン俳優として、そして政治家として後押ししてきた人物でもある。

ネオナチを投入して暴徒化させたマイダン・クーデターを事実上指揮したビクトリア・ヌランド米国国務省次官補(当時)もユダヤ系である。ユダヤ人が中心の国である、外交政策で米国と一体化しているイスラエルはウクライナに対する軍事支援国の一つであり、今回のロシア侵攻以降の戦闘でもアゾフ大隊がイスラエルの兵器を使う場面が記録されている。

アゾフ大隊はドンバスへの攻撃で「活躍」した、アイダー大隊、「ライト・セクター」などと並ぶネオナチ武装集団である。民間施設襲撃・占領、略奪、恣意的拘束、拷問、性暴力など戦争犯罪を多数働いたことも人権団体や国連の報告書で記録されている。ロシア人を人間以下と見なす極端なナチス思想に駆られた人間が武装して自分たちの住んでいる場所を闊歩しているというだけで、ドンバスの人々にとってはどれだけ恐怖であっただろう。

Kyiv, Ukraine – March 13, 2015: Soldier of Azov regiment guards the armored military cars before loading it in trailers and sending to the East Ukraine.

 

1923年関東大震災後の朝鮮人虐殺を彷彿とさせる。アゾフは、「ドンバスのロシア系には福祉を受けることも学校に行くこともさせない」という発言で知られるポロシェンコ大統領に絶賛され、2014年11月にはウクライナ国家親衛隊に編入された。

ザ・ネイション」誌は、ウクライナは「軍隊にネオナチを編成した世界唯一の国」と言った。米軍にクー・クラックス・クラン(KKK)を編入することと同じである。日本でいえば在日朝鮮人ヘイトで知られる在特会を武装させて自衛隊に編入するようなものであろう。そのアゾフを「内務省系軍事組織」などと称してネオナチであることを矮小化したり否定したりしている西側メディアは、第二次世界大戦中にナチスのユダヤ人虐殺を見てみぬフリをした者たちとそっくりだ。

先述の、アゾフの初代指導者のアンドリー・ビレツキーは、少数派に暴力を振るうような白人至上主義グループを率いていたが、2010年には、ウクライナ国家の使命は「世界中の白人人種を率いて、セム人に率いられた人間以下の人種に対する最後の十字軍を率いる」という発言をしている。14年には国会議員に選出、16年にはアゾフを母体に極右政党「ナショナル・コー」を作った

ロシア侵攻が始まるまでは、西側メディアもアゾフを危険視する記事を多く出していたのに、侵攻後はアゾフを「国を守る勇士」であるかの如く賛美に回った。フェースブックも、アゾフをKKKと同じ扱いで禁止処置にしていたのに、なんとロシア侵攻直後にアゾフを解禁している

日本では、主要メディアにしては珍しく朝日新聞の「論座」が、清義明氏によるウクライナのネオナチを解説する記事(3月23日付)を載せたが、その中に日本の公安調査庁が、2021年度版の「国際テロリズム要覧2021」の中のレポートで、アゾフについて「欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ、同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は2,000人とされる」と記述している。

「論座」で書かれたせいか、その直後なんと公安調査庁はその記述を削除し「公安調査庁はアゾフをネオナチ組織としては認めていない」とHPで宣言したのである(4月8日)。

公安調査庁がかつて記述していた通り、アゾフはSNSを使ってネオナチ思想の者たちを世界中から集めてきた。ウクライナ・ナチスの専門家であるコチ大学のタリク・シリル・オマー教授は「アゾフは大隊だけではなく国際アゾフ運動として展開してきた」と言う。ウクライナ・ナチスの拠点であるリビウにはウクライナ軍士官学校(NAA)があり、その学内組織として「センチュリア」という、国際アゾフ運動と深い関係にある極右組織がある。

そこには米国、英国、カナダ、フランス、ドイツ、ポーランド、リトアニアなどNATO各国の軍隊が指導的関与をしており、極右的傾向のある軍隊を養成・訓練してきたのである(ジョージ・ワシントン大学の欧州・ロシア・ユーラシア研究所のサイトで公開されている報告書に詳述)。

ウクライナのナチスは第二次世界大戦時にまで遡る。ウクライナの民族主義組織(OUN、1929年設立)の、反ユダヤ・反共産主義者ステパン・バンデラを指導者とするOUN-Bはナチスドイツ占領下のウクライナにおけるユダヤ人大量虐殺に参加し、OUN-Bの軍事組織、ウクライナ蜂起軍(UPA)は、「ヴォルィーニと東ガリシア大虐殺」(1943-45)で6万から10万に及ぶポーランド人を虐殺したと言われている。記録されているその殺害の残虐さは南京大虐殺を彷彿とさせる。

ナチスドイツはニュルンベルク裁判で裁かれたが、ウクライナのナチスは追及を逃れ、戦後も欧州でCIAが逃亡を助け反共ゲリラとして活動を続けた[i]ナチスドイツは過去と決別させられたがウクライナ・ナチスとその思想とシンボルはそのまま引き継がれて今にいたるのである。

現在のウクライナの民族主義者のデモステパン・バンデラの肖像を堂々と掲げ、UPAのシンボルであった黒と赤の旗が翻り、ウクライナ各地にはステパン・バンデラの銅像が建っている。それを踏まえ、ウクライナのネオナチを「ネオナチ」と呼ぶのは間違いでそのまま「ナチス」と呼ぶべきだという有識者少なくない

マイダン・クーデター後、共産党は禁止され、OUNやUPAなどウクライナ・ナチスの批判は禁止され、ゼレンスキー政権下ではメディアの集中化も進んだ。ロシア侵攻後、メディアは一局に統一され、11の野党が活動禁止とされたが、ネオナチ政党は健在である。政府に異論を唱えるジャーナリストや活動家も次々とSBU(国家保安局)に拘束されたり行方不明になったりしており、拷問も報告されている

Fake Dictionary, Dictionary definition of the word Neo-Nazism. including key descriptive words.

 

野党指導者であるヴィクトル・メドベチェク氏は4月12日に逮捕されたままである。[ii]岸田首相が、いくら気に入らないからといって志位共産党委員長を拘束できるだろうか?ウクライナが民主主義国家だと思っている人たちは目を覚ますべきだ。「ユダヤ人のゼレンスキー大統領のウクライナがネオナチのはずがない」と言う人は、自分の願望ではなく実情を正視してほしい。

2019年にロシアとの融和を訴えて、強硬マイダン派のポロシェンコ現職大統領に圧勝した(得票率73%)ゼレンスキー大統領は、公約を果たすどころか就任直後からネオナチ勢力の圧力に屈服し始める。19年、内戦が続くルガンスクのゾロテという町を訪れ、和平を妨害しようとするアゾフの隊員と対峙して「武器を捨てろ」と迫ったが、その動画がSNSで炎上し、先述のアンドリー・ビレツキーは、「ゼレンスキーがこれ以上迫るなら、数千人の戦闘員をゾロテに送る」と脅しをかけている

結局ゼレンスキー大統領はこれまでミンスクII合意を実行せず、ネオナチ勢力にますます媚を売ってきた。21年11月、ウクライナで最も著名な超国家主義的者の一人、ドミトロ・ヤロシュは、ウクライナ軍総司令官の顧問に任命された

同年12月ゼレンスキー大統領は「ライト・セクター」の司令官ドミトロ・コツユバイロに「ウクライナの英雄」賞を授与した。ロシア侵攻後3月1日、ゼレンスキー大統領はオデッサの地方行政官として、ドンバス地方での数々の戦争犯罪で告発されている極右組織「アイダー大隊」の元指揮官、マクシム・マルチェンコに交代させた。

もちろん問題の本質はゼレンスキー大統領個人ではなく、既述のようにウクライナを傀儡化した米国である。オーストラリアのジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン氏の「米国がロシアとの代理戦争に提供する資金のほんの一部で、ゼレンスキー大統領がロシアと和解しようとしたらリンチすると脅していたネオナチ民兵から保護し、この戦争全体を防ぐことができた」との見解に賛同する。

ロシアを弱体化させるためにネオナチを支援し止めようともしない米国がその方向性を逆転させさえすればゼレンスキー大統領もロシアとの和平の公約を実行できたであろうし、今回の戦争は起こらなかっただろう。

国際世論形成の一端を担う私たちは、これ以上戦争に油を注ぎ、命を奪い続ける言論を批判し、和平と終戦に向かう議論を促進すべきであると思う。

[i] オリバー・ストーン&ピーター・カズニック(2013)『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』、2巻、68~70頁、早川書房。

[ii] オリバー・ストーン監督によるヴィクトル・メドベチェク氏のインタビューを中心に展開する2019年のドキュメンタリー「Revealing Ukraine」の日本語字幕版は今のところここに「乗っ取られたウクライナ2019」という題でアップされている。https://www.youtube.com/watch?v=1yUQKLiIoFA(YouTube はウクライナの事実を伝えるサイトや動画をどんどん検閲している。リンク切れの場合は検索し直すか、Rumble, Odysee といった代替プラットフォームを探せば見つかることが多い)。

 

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乗松聡子 乗松聡子

東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない  世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。

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