軍事攻撃されると原発はどうなるか

藤岡惇

(12月14日、著者による数か所訂正後再投稿しました。)

@PeacePhilosophy より
ずっと多忙でひと月近くブログ更新ができませんでした。これからも頻度は少なくとも高質な記事を掲載していきたく思いますのでよろしくお願いします。

今回は立命館大学経済学部教授の藤岡惇氏による重要寄稿です(リンク歓迎、転載希望の場合はinfo@peacephilosophy.com へ連絡を)。昨今の日本には核兵器保持も辞さないといった好戦的政治家が台頭してきていますが、皮肉なことに日本はテロ攻撃にもろい原子炉と使用済み燃料プールで列島を取り囲んでしまっています。沖縄・伊江島の土地闘争における非暴力抵抗でガンジーにもたとえられる故・阿波根昌鴻(あはごん・しょうこう)氏は「武器を持つものは武器にて滅ぶ 核を持つ者は核にて滅ぶ」と言いました。日本はまず国中の原子炉と使用済み燃料という核テロの大被害を被る危険性を除去する方法を考えなければいけないのではないでしょうか。核武装などと言ってマッチョに息巻いている人たちには、核保有国であろうがなかろうが誰にでも日本に核攻撃ができてしまう状況をどうするのですかと聞きたいですね。

 

・ゆっくりと爆発する原爆=原発

1945年8月に広島に投下された一発の原爆のばあい、積んでいたウラン235の10-15%にあたる800グラムが核分裂しただけであったが、それだけで広島市を壊滅させ、年末までに14万人の命を奪うなど、すさまじい破壊力を発揮した。

標準的な原子炉のばあい、毎日3キログラムのウランを「ゆっくりと核爆発」させ、その熱で大量の水を沸騰させ、蒸気圧の力で巨大なタービンを回し、毎時100万キロワットの電力を生み出す。標準的原子炉は、一日につき4発の広島型原爆に相当する核物質を燃やして、電気エネルギーに変えてきたのだ。

1基の標準的な原子炉は、どれだけの核分裂生成物(死の灰)を生み出すのか。補修や点検があるため、年間9か月しか動かさないと仮定すると、このタイプの原子炉を1年間動かせば、広島型原爆を1千発、10年間動かせば1万発、20年間動かせば2万発を爆発させたに等しい「死の灰」が出てくるだろう。

2010年1月現在、世界で稼働中の原子炉は437基だったが、そのうち54基が日本国内で動いていた。日本の原子炉の平均発電容量は89.3万キロワット、平均の稼働期間は20年を超えているのだから、広島型原爆100万発以上を爆発させたに等しい量の「死の灰」(放射能の減衰までに数百年かかるものも多い)が、日本で生み出されてきたことになる。

原子力発電(原発)とは、「ゆっくりと爆発する原爆」にほかならないのだが、原子力という暴龍を飼いならすことは可能だという言説が大量にふりまかれた。その結果、「魔法のランプ」内に暴龍を閉じ込め、闇を照らすランプの電源として、安全かつ安価に利用できると、国民の多くは信じ込まされてきたわけだ。

・「福一」で何が起こったのか

2011年3月11日から15日の間に、168発の広島型原爆が爆発したのと同量のセシウム137が福島第一原発(福一)の1-4号炉の格納容器の外にまき散らされた。いくつかの幸運に恵まれたおかげで、福一の敷地外の大気や海に放出された放射性物質は、まだ貯蔵量の1%以下に留まっているようだ。

原子炉には2つの「アキレス腱」があることを福一の核惨事が明白にした。第一の「アキレス腱」とは、原子炉の冷却水を循環させてきた「外部電源装置」であり、ここが破壊され、全電源が断たれると、数時間後には核燃料の溶解が始まり、炉心溶融にいたることが明らかになった。

いま一つの「アキレス腱」は、原子炉格納容器の外側に置かれている各原子炉付属の6つの使用済み核燃料プールと1つの共用プールだ。原子炉の本体は、圧力容器と格納容器という強固なコンクリート壁で2重に守られているので、自然災害であれ、軍事攻撃であれ、相当に強い力が働かないかぎり原子炉本体を破壊するのは容易ではないだろう。しかし外部電源装置も7つの核燃料プールも、ともに圧力容器・格納容器の外側にあるため、軍事攻撃は難しくない。

米国の専門家たちが深刻に危惧したように、使用ずみ核燃料プールがとくに弱い部分だろう。共用プールを除くと、他のプールは建屋の上部に位置しているため、燃料プールの底に穴が開くと、核燃料棒を冷やす水が抜け落ち、核燃料棒の溶融が始まり、水素爆発などを誘発するだろう。

福一には2012年10月現在、12,729本の核燃料棒(うち使用済燃料10,921本、新燃料496本、5-6号炉に装填中が1312本)が貯蔵されている。4号炉の核燃料プールには、福一で貯蔵している核燃料棒総数の12.0%にあたる1533本の燃料棒が冷却貯蔵され、そこにはチェルノブイリの原発事故で放出された量の10倍に達するセシウム137が含まれている。セシウム137というのは半減期30年、福島の汚染レベルを左右する重要な放射性物質だ。その他の放射性物質も加えると、広島型原爆5000発分に相当する莫大な量の放射性物質が4号機の核燃料プールに蓄えられている。

加えて、4号炉の西50メートルの建物内には、縦29メートル、横12メートル、深さ11メートルの「使用済み核燃料の共用プール」(1997年10月に竣工)がある。収容上限は6840本であるが、すでに6377本が貯蔵されているなど、満杯に近い。4号炉の燃料プールに保管されている核燃料の4.2倍、1-3号炉と5-6号炉の燃料プールに保管されている核燃料棒4819本の1.3倍の燃料棒がここに貯蔵されている。福一に保管されている核燃料棒総数の半分(50.1%)がここに集まっているのだ1)。

「魔法のランプ」のガラスは宣伝されたほどには強靭ではなく、誤動作や天変地異があれば壊れてしまうということを、チェルノブイリに続いてフクシマの核惨事が証明した。

加えて「魔法のランプ」には、「アキレスの踵」があること、この踵を攻撃すれば、ランプは簡単に壊れてしまうことをフクシマははじめて明らかにした。「ランプの簡単な壊し方」がついに発見され、世界中の軍事集団が知ることになったわけだ。

・原発が軍事反撃の絶好の標的となるのはなぜか

9月11日事件を口実にして、ブッシュ2代目政権は、反テロ地球戦争を戦うための「米軍再編」を実施した。冷戦期の遺産である宇宙利用技術、情報のネットワーク技術、精密誘導技術を活用して、新型の戦争システムを編み出そうとした。そのシステムは、「宇宙ベースのネットワーク中心型戦争」と呼ばれた。

その結果、米国の保有する軍用機の3割余は無人機となり、米本土の安全な空軍基地内から操縦され、軍事衛星編隊によって精密誘導された無人飛翔体がアフガン・パキスタンの地上の標的にたいして、ミサイルを放ってきた。オバマ政権発足以来、非戦闘地域での無人機攻撃は240件以上発生し、「テロ組織関係者」とされる2000人以上が、裁判もなしに突然、命を奪われてきた。多数の無実の市民や子どもたちが巻き添えになったこともあり、攻撃された地域や国の民衆と政府の怒りを買ってきた2)。

米国に関する限り、宇宙の軍事利用は「宇宙の殺人利用」という新段階に入った。このような「宇宙ベースのネットワーク中心型戦争」のシステムを円滑に動かすためには、「盾」と「矛」、防衛兵器と攻撃兵器の双方が必要だ。「盾」の中軸が「ミサイル防衛」システム。「ミサイル防衛」と称してはいるが、実体は敵ミサイルを攻撃・撃墜する「ミサイル攻撃」兵器にほかならない。

「矛」の役割を担う攻撃兵器のグレードアップ戦略の中軸になりそうなのが、「無人宇宙戦闘機」の開発(たとえばX-37B)だ。「無人の宇宙戦闘機」とは耳慣れぬ用語だが、撃墜されないように進路や速度を自由に操れ、地上20キロ(航空機の航行上限)から100キロ(人工衛星の軌道の下限)までの空間(成層圏・中間圏)、さらには宇宙圏まで航行でき、世界のどの地点へも30分以内で到達できるという次世代ミサイルのこと3)。

「矛盾」という熟語の語源になった古代中国の武器商人と同様に、新型の「矛」と「盾」とを同時に開発し、不安を煽って、同盟諸国に売り込もうとする「矛盾の商戦」が後に控えている。

ところで新型戦争システムを構築する上で、「弱い環」があることも浮かび上がってきた。宇宙衛星編隊、サイバー空間、それに核施設の3つがそれだ4)。なかでも新型戦争システムの現下の最大の弱点は、核施設、とくに原発だというのが、衆目の一致する認識となっている。

米軍に抵抗する側にすれば、核施設の狙い撃ちこそが、もっとも容易で有効な反撃策だと考えるだろう。新型戦争に米国が注力すればするほど、米国とその同盟国の核施設を狙うことで、反撃しようとする動きが強まることは避けられない。

・軍事攻撃を受けると原子炉は破壊される――中東の経験

イラクのサダム・フセイン政権は、バクダット郊外のアル・ツワイサ核施設に、フランスから輸入したオシラク原子炉を設置し、プルトニウムの濃縮を行おうとしていたのであるが、1981年6月7日にイスラエル空軍機によって破壊される事件がおこった。

米国製のF14戦闘機8機が2つの編隊を組み、アラブ諸国のレーダーに捕捉されないように、地上30メートルの低空を時速670キロの速度で1100キロを飛行し、オタシク原子炉を破壊した。

「オシラク原子炉のドームは火の玉を吹き上げて、轟音とともに最後の大爆発を起こした」という。核燃料を入れる前であったために、放射性物質の噴出は避けられたが、強固に作られたとされる原子炉の圧力容器であっても、爆撃されると簡単に壊れてしまうことが分かった瞬間であった5)。

その後、1987年11月にイラクがイランで建設中の原発を攻撃したし、1991年1月の湾岸戦争の際には、米軍が「イラクの原子炉に決定的損傷を与えた」と発表している。

2007年9月になると、シリア政府が東部のデルソールに建設中であった「施設」をイスラエル空軍機が爆撃・破壊する事件がおこった。翌年の08年4月に米国政府は、この施設は、シリアが北朝鮮の支援のもとで建設していた原子炉であり、核兵器開発が目的だったと述べ、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長も、11年5月24日に「この施設は原子炉だった可能性が濃厚」と指摘している6)。

2010年9月6日にはイスラエル空軍機が、再びシリアの首都ダマスカスの北東郊外に建設中の原子炉を核兵器材料(プルトニウム)の生産炉だとみなして、爆撃し破壊したし、最近では、核兵器の製造の最終段階に来たとされるイランの核施設を破壊するために、イスラエル軍が電撃攻撃を仕掛けるという情報がたびたび流れている。

これらの事例をみると、高性能爆弾(あるいはこれを搭載したミサイル)を使えば、原子炉本体を破壊できることは明らかだ。

・なぜイスラエルやヨルダンでは原発の建設に積極的ではないのか

中東諸国のなかでイスラエルとヨルダンには油田が乏しいために、両国ともエネルギーの確保に苦労してきた。とくにイスラエルは、百発以上の核兵器、地上発射の核ミサイル、核ミサイル搭載の潜水艦と爆撃機という3本柱の核運搬手段をもつ「核大国」であり、高度な核能力をもちながら、発電用原子炉を1基も建設・稼働させずにきた。それはなぜか。

地上に原子炉を建設すれば、軍事攻撃の絶好のターゲットとなることをイスラエル支配層が自覚していること、地下深くに原発を作ったとしても、軍事攻撃される悪夢を払えないし、コストアップとなると考えているからであろう。

これに対して中東の親米国のヨルダンのばあい、首都アンマン近郊に原発を建設するとし、2014年初めに加圧水型原子炉の建設契約を結び、2020年に稼働開始という計画であった。原子炉の受注をめぐっては三菱重工とフランスのアレバ社の合弁企業と、ロシアの企業が競っていた。

しかし2011年の「アラブの春」運動が軍事的騒乱に発展するにいたると、2012年5月13日にヨルダンの原子力委員長が「原発発注を3-4年延期することもありうる」と言明した。隣国シリアの内戦が激化すると、爆弾テロが波及し、原発が標的となることを懸念したからだと解説されている7)。

 

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藤岡惇 藤岡惇

立命館大学経済学部教授。以下、立命館大学ウェブサイトの藤岡氏のプロフィールページ「研究者からのメッセージ」より。 若いころは、コミュニティの自尊と自治の能力を育むような「開発」のありかたを求めて、「米国内の第3世界」と呼ばれていた南部地域の経済開発と公民権運動の調査研究にとりくんできた。住民参画型の調査を志したので、米国の草の根NGOに随分お世話になった。その成果は、2つの著作ーー『アメリカ南部の変貌』と『サンベルト米国南部―分極化の構図』(いずれも青木書店)にまとめられている。その後、冷戦期の核戦略を主軸にした軍拡が、どのように米ソの経済を荒廃に追い込み、「冷戦の勝者はじつは日本」といった評価を生み出したかの研究に転じた。ソ連解体後に、米国がいかに「日本の経済力の封じ込め」戦略に転じ、軍事技術の「含み資産」を商業世界に開放し、経済覇権の回復に役立ててきたかを、米国の宇宙空間とサイバー空間の支配戦略を軸にして研究している。社会派エコロジストとしての視点から、人間ー自己中心主義の極ともいうべき「宇宙軍事化」の動きをどのように自然と人間を中心にした持続可能な平和経済づくりの方向に転換したらよいかについても、世界のNGOの人たちとともに研究している。毎夏日米の学生たちが、広島・長崎の地で、核の時代の意味と平和な世界づくりの道を探究しあっているが、この国際交流プログラムの世話もしてきた。1970年京都大学経済学部を卒業、経済学博士(京大)。'79年本学へ。山歩きとジョギングが趣味で、好んで比良山系を歩く。

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