【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

【対談】辻恵(弁護士・れいわ新選組)×安田好弘(弁護士):戦争意識が高揚するなかで参院選を戦うことの意味

紙の爆弾編集部

・国家権力に狙われて

辻:安田さん、お久しぶりです。私は今日(4月7日)、衆議院第二議員会館で、7月の参院選の全国比例区のれいわ新選組公認候補の第1号として記者会見をしてきました。安田さんの法律事務所(港合同法律事務所)をお訪ねするのは10年ぶりです。

安田:そうですね。前回は辻さんが民主党の衆議院議員だった時で、小沢一郎元代表潰しのでっち上げ裁判に対して弁護団の編成を含めて中心になって対決していた辻さんが、東京地検特捜部から狙われたんでしたね。

辻:私が弁護士時代に関わった5年近く前の民事事件を取り上げて、違法行為を犯したと刑事事件にして立件しようという動きがあり、産経新聞などの御用マスコミが騒ぎ出したので、2011年12月27日、安田さんの事務所をお借りして記者会見をしました。10台近いテレビカメラと六十人近いマスコミが集まり、大変お世話になりました。

安田:辻さんが、断固とした闘う姿勢を示したので、東京地検特捜部も立件を諦めました。大変なプレッシャーがあったと思います。

辻:いや、私も国家権力の攻撃の対象にされましたが、私以上に安田さんに対する攻撃の方がひどいものでした。死刑廃止運動を中心的に担い、オウム裁判の主任弁護人だということで国家権力から狙い撃ちされましたね。過去の民事事件で違法行為をしたとして1998年に逮捕され、約10カ月間勾留されました。私も含めて全国の何千人という弁護士が安田弁護団に参加して、一審で無罪を勝ち取りました。

私たちには国家権力から狙われたという共通項がありますが、駆け出し弁護士の時に同じ法律事務所にいた時から共通の感覚がありましたね。

辻:私は安田さんと同じ年に司法試験に合格したのですが、司法研修所への入所を1年遅らせたので、安田さんは弁護士の1年先輩にあたります。安田さんがいらした東京国際合同法律事務所に合流して5年半くらいご一緒させていただき、泊まりこみで刑事事件に打ち込む安田さんの姿勢に啓発され、いろいろ学ばせてもらいました。

安田:私たちの事務所には、多田謡子さんという女性弁護士が入ってきて、多田さんも辻さんも私も、事務所の同じフロアで机を並べ、三里塚や国鉄民営化反対をめぐる刑事事件など一緒にやりましたが、彼女は若くして亡くなりました。

辻:86年12月、29歳と若すぎる死でした。彼女の死亡保険金を原資にして「多田謡子反権力人権基金」を創って、草の根の団体や個人を顕彰して毎年賞金を贈っており、昨年12月が第33回目で、布川事件の桜井昌司さんが受賞されました。

私は運営委員長をしていますが、安田さんには死刑廃止運動への支援ということで、第11回目の受賞者になっていただきましたが、賞金は受け取らずカンパをしてくださいました。

安田:毎年3つの団体・個人を顕彰しているわけですから、これまでに99の団体・個人を顕彰したことになりますね。反権力で草の根の運動をしている人たちの間に定着してきているといえるのではないでしょうか。

辻:東京国際合同法律事務所には、弘中淳一郎弁護士も先輩でいらっしゃって、その縁があって、私は小沢裁判の主任弁護人になってほしいと頼みに行って就任していただき、見事に無罪を勝ち取ってくださいました。

安田:国家権力に対してあくまでも国民の立場に立って人権を守るのが弁護士の役割です。東京国際合同法律事務所の私たちは皆、このことを共有して活動していたので、当時は救援連絡センターの最も頼りになる法律事務所と言われていました。

・政治家になった理由

安田:ところで、辻さんに一度聞きたいと思っていたのだけど、なぜ政治家になろうと考えたのかしら。

辻:理由はいくつかありますが、一番は日本の政治の現状に対する、これでいいのかという危機感です。学生運動をやっていたのに、政治からいったん離れて弁護士になったことについては、挫折感も含めて様々な思いがありました。99年に自自公連立政権となったとき、当時の自民党幹事長の野中広務さんが「大政翼賛体制になった」と言いました。反対意見が吐けないような政治状況は極めてまずいと思って、03年の衆議院選挙に立候補し、幸いにも当選できました。

安田:団塊の世代で、学生運動に参加した体験がある政治家はほとんどいないという事実がありますね。

辻:学生運動はいわゆる議会主義を批判していたため、そこには議会政治に関わることを潔しとしないメンタリティがあり、私も、自分が政治家として議会に参加することに対して転向したとみられるのでないかという思いや気恥ずかしさがありました。しかし、当時野党内でマスコミがもてはやしていた松下政経塾出身者は、皆おしなべて新自由主義者であり、少数者の立場に立った意見がほとんど存在しなくなる政治状況を見て、そんなことにこだわっている場合じゃないと考えました。

安田:小沢事件で世論が寄ってたかって小沢潰しにかかっている時に、辻さんはその抵抗の渦中にいたのだから、もっと顔を出すべきじゃないかと思っていました。

辻:今考えると、開き直った覚悟が足りなかったと反省しています。

安田:団塊の世代は結構シャイなところがあり、恥も外聞も捨てて突っ走るというところが弱いのでは。

辻:そうですね。私は小沢問題に関して、「朝まで生テレビ」(テレビ朝日系)に2回出たことがありますが、論理や理屈で話が進むのでなく、とにかく目立とうというパフォーマンスが場を支配するという体験をしました。

安田:真面目な集会や堅い議論だけでは、世の中にインパクトを与えて変えることは難しいと思います。予定調和に収まらない面白さと迫力というか、自信と開き直りのないまぜというか、辻さんも是非知性や理性を棚上げにして、一皮脱いで肌感覚で登場してほしいですね。

辻:昔、鈴木宗男さんが「朝ナマ」に出ているのを見て、支離滅裂なことを言ってひどいなと思ったことがありましたが、自分が議員になってから一時期近しく付き合うことがあり、なかなかバランスのある意見を持っている人だと見直しました。彼からは、国会議員として25年在職して永年在職表彰を受けるというのは、いっぱしの議員になるバロメーターだという趣旨のことを聞き、確かになるほどと思いました。25年間当選するということは、その間出馬し続けるということで、面の皮が厚くなければできないのだし、その間にいろいろ揉まれて自分なりのポジションを見つけ出すんだなということですね。

安田:政治家は稚拙さの中で鍛えられていくものでしょうが、辻さんは、脂ののったいい齢になっている、つまり何を言っても違和感なく理解されるでしょうから、そこからもっと腹を括って、どんどん表に出ていってほしい。

辻さんが現職の時に、野沢太三法務大臣とわれわれ死刑廃止運動のメンバーとの会談を設定してもらったことがありましたが、辻さんだと、わざわざお願いするというのでなくて、同じ感覚で相談できるので運動がやりやすくなる。そういう人が政治の場面にいるというのは、本当にありがたいことです。その意味でも是非頑張ってほしい。

・れいわ新選組に期待すること

安田:実は、れいわ新選組代表の山本太郎さんとは縁があって。私に関する「死刑弁護人」(12年)という映画のナレーターを彼がやってくれていたことがきっかけになって、事務所の忘年会に参加してもらったりして、近い関係にあるんですよ。彼が今やっていることは大変すばらしいことなので、辻さんと力を合わせて、もっともっと大きくなれるように頑張ってほしいです。

辻:彼は私より随分年下ですが、この国を変えるために全精力を費やすという覚悟は間違いなく本物です。私は今のリーダー候補といわれる政治家全員について、私なりの感触と判断を持っていますが、日本を担う政治的リーダーは彼をおいてほかにはいないと考えています。だから、私がこれまで培ってきたものをすべて投入して彼をアシストして、日本の政治を変えるつもりでやっています。

安田:野党が崩壊しつつある中で、れいわはいずれ、日本の政治の重要な極を担う政党になるのでしょうが、その時が早く来るように、山本さんと辻さんにどんどん動いてほしいですね。もちろん、新鮮さを失わないでいてほしいですし。

辻:09年の民主党政権樹立時に政権交代を支持して投票した3900万人のうち、ザクっと言って2000万人が投票を棄権していて、500万人が維新等に流れているという状況があります。そうした有権者の心に届くメッセージをれいわが発信できないと、日本の政党政治は本当にダメになると考えています。さまざまな面において脱皮していくことをお約束します。

・ウクライナ戦争で問われていること

辻:ロシアのウクライナへの侵略を口実に、ロシア非難の同調圧力が広がり、核シェアリングなど日本の核装備が公然と語られ、ロシア非難の国会決議に共産党も賛成するという状況です。マスコミによる洗脳も相俟って、翼賛体制は相当煮詰まっています。このようななかで、国家に与しない立場で戦争反対の声を挙げることは、どんなに困難でも必要な行動だと思いますね。

安田:れいわが全会一致の国会決議に反対したことは、納得できる選択だったと思います。国家のために戦えというのでなく、国家とは関係なく市民の立場で反戦を唱えることが大切なんでしょうね。ウクライナのゼレンスキー大統領は60歳以下の男性の国外脱出を認めないという措置をとっていますが、逃げ出すことも、負けることも認めないわけですから、ちょっとまずいですね。

辻:ロシア革命がそうであったように、国家権力によるあらゆる戦争に反対し、自国政府に対してそのことを要求することが求められる時に、国のために戦わないのは非国民だと国家権力は断罪してきます。この攻撃は日本だけの話でなく欧米各国においても同様で、NATO(北大西洋条約機構)拡大を是とする欧米日の対露強硬連携は、戦争を厭わず世界秩序を再編しようというものです。戦後77年間不戦国家として推移してきた日本こそが、反戦を掲げた即時停止のイニシアティブを執るべきなのに、それができない今の日本政治の劣化が残念でなりません。

安田:原発へのミサイル砲撃を含めてロシアの無差別殺人が許されないのは当然のことですが、過去の歴史を含めて見直すべきで、東京大空襲も広島・長崎への原爆投下も、市民への無差別殺戮です。もちろん、沖縄やアジアでやったことも含めてですが、市民にとって戦争は害悪以外の何物でもない。

私は、国家を低くし、誰もが自由に出入りできるようにする、国家そのものを脆弱にして、戦争そのものを実体的になくしていく、国家を離脱した平和主義こそ今打ち出すべきだと考えます。戦争反対と死刑廃止はつながっていると思うんですけどね。

辻:そうですね。今こそ戦争に対する態度が問われており、共産党は国家を前提に自衛隊を使って対処すると言い出していて、大政翼賛体制に組み込まれていくことは明らかです。7月の参院選は、「国を守ろう」という流れが大勢になるなかで、れいわは絶対に国家権力に与しないという姿勢を貫いていきます。

 

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株式会社鹿砦社が発行する月刊誌で2005年4月創刊。「死滅したジャーナリズムを越えて、の旗を掲げ愚直に巨悪とタブーに挑む」を標榜する。

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