東アジア情勢と日本の対応(後)

末浪靖司

Ⅲ 北朝鮮の核開発と朝鮮半島情勢

〇いま北朝鮮は軍事同盟を結んでいない

米中のせめぎあいの中で緊張が高まる朝鮮半島の問題についても、最小限ふれておこう。

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、かつてのスターリン体制に加え、権力が世襲で継承されるという前近代的体制の中で、核兵器と弾道ミサイルの開発をはじめ軍事力増強を最優先の課題にしており、東アジアの平和を脅かしていることは間違いない。同時に、この国は今では中国をはじめどことも軍事同盟を結んでいない。

Ballistic missiles or rockets at North Korea flag background. Weapons of mass destruction and threat of nuclear war concept

 

一方、韓国は、日本と同じく、米国との軍事同盟を長期にわたり続けている。軍事同盟は、国連憲章が第2次世界大戦後の平和維持の仕組みとして定める集団的安全保障と対立するものである。

米国が第二次世界大戦後に作ったSEATO(東南アジア条約機構)、METO(中東条約機構)など多くの軍事同盟はすでに解体した。それなのに、NATO(北大西洋条約機構)とともに、米国が東アジアで軍事同盟による戦争態勢を強化するのはどういうことか。

北朝鮮、中国の核戦力開発など軍事力強化はきびしく批判されなければならないが、はたして朝鮮半島の情勢が日米共同作戦態勢を強化する理由になるのか。米軍と自衛隊の矛先(ほこさき)はこれまでも中東やインド洋に向けられていたが、いまや強調されているのは「インド太平洋戦略」である。

Map of Asia Pacific

 

〇韓国に保守政権が生まれ緊張が激化

韓国で2022年5月に発足した尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、4年ぶりに大規模の米韓軍事演習を計画するなど、北朝鮮に対する挑発的態度に出ている。「ワシントン・ポスト」5月20日付は「米中の緊張が強まり、韓国に保守政府が生まれたことが、北朝鮮と中国にさらに強硬な態度をとらせている」と指摘する。

Flags of the USA and South Korea against the background of the blue sky

 

朝鮮半島の緊張は、1950年の米韓相互防衛援助協定を引き継いで、53年10月に結ばれた米韓相互防衛条約が約70年後の今も存続し、米軍が韓国に駐留して、北朝鮮との緊張を激化させていることに根本原因がある。

Ⅳ 軍事同盟と決別したASEAN

〇反共軍事同盟の舞台だったが

バイデン政権は、東南アジアを重視し、とりわけ中国の動向を警戒する。

この地域への中国の働きかけは激しく、中国の影響を軽視しては、「インド太平洋戦略」としてうちだした東アジアに対する米国の戦略は成りたたない。

折しもインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2022年7月26日、北京、ソウル、東京を歴訪し、中国では習近平主席との首脳会談で、11月にバリ島で開催するG20への支持を取りつけた。バリ島はインドネシアの首都ジャカルタのあるジャワ島の東隣にある保養地である。

Jakarta, Indonesia – November 23, 2014: President of Indonesia Joko Widodo shaking hands with the children in the area of the National Monument, Jakarta, Indonesia.

 

東南アジアは、かつて英仏など列強の植民地となり、第二次世界大戦では日本軍に占領されるなど苦難の道を歩んできた。

しかし、今やそうした国々が1967年に、ASEAN(東南アジア諸国連合Association of South-East Asian Nations)を創設し、各国が軍事同盟に入らず、紛争を平和的に解決しようと、これまでの世界史になかった新しい道に踏み出している。

National flags of countries who are member of AEC (ASEAN economic community) on blue sky background

 

ASEANは、民主主義と人権の尊重を、ASEANに参加する各国が共通の基盤にすることで合意しており、各国の関係を協力と結束の基盤にしようという考え方である。

ASEANは当初、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国で発足したが、その後、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアが順次加盟し、現在は10ヵ国で構成されている。

フィリピンやタイがASEAN創設に動いたのは、SEATO(東南アジア条約機構)の加盟国として、米国に要求されてベトナム戦争に軍隊を送ったことへの反省があった。SEATOは、冷戦時代の55年に反共軍事同盟として米国主導で発足し、77年6月に解散した。

ASEANによる活発な外交活動とその国際的地位の高まりは、軍事同盟のない世界への展望を示している。

 

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末浪靖司 末浪靖司

1939年 京都市生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。著書:「対米従属の正体」「機密解禁文書にみる日米同盟」(以上、高文研)、「日米指揮権密約の研究」(創元社)など。共著:「検証・法治国家崩壊」(創元社)。米国立公文書館、ルーズベルト図書館、国家安全保障公文書館で日米関係を研究。現在、日本平和学会会員、日本平和委員会常任理事、非核の政府を求める会専門委員。日本中国友好協会参与。

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