東アジア情勢と日本の対応(後)

末浪靖司

Ⅴ 日本は東アジアにどう向き合うか

〇ASEANとは逆の方向に

このように大きく変容する東アジア情勢の中で、日本はいかなる道を進むのかが問われている。

日本は、軍事同盟と決別し国際紛争を平和的に解決する道を選択したASEAN諸国とは逆の方向、すなわち米国の世界戦略に追随し、その中で自らの軍事大国化をめざしているからである。

日本がASEAN諸国と同じアジアの国でありながら、自ら軍事外交政策を選択できない最大の理由は、日米安保条約とこれに付随する数々の条約・協定に縛られているからである。

日米安保条約の下で、米国は第6条の「極東」条項を、拡大解釈して地球的規模にひろげ、米軍は中東イラクやインド洋にも出撃してきた。

そして今は「台湾有事」の大合唱である。台湾有事では、米国は台湾を支援して米軍が中国軍と戦い、米国と同盟関係にある日本も米軍を支援して自衛隊を派遣する、その場合は台湾の近くまで伸びる与那国島など南西諸島も戦場になるかもしれないというのである。

日本では、米中が台湾問題で今にも戦争が起こるように書いているメディアもあるが、緊張関係にありながら、これまで見てきたように、首脳、外交、軍事の各レベルで対話が進んでいる。

さらに、日米安保条約は第5条で、日米が「共通の危険に対処する」として日米共同作戦を定めている。条文は「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」だが、これも拡大解釈されて、日本政府は米軍の必要に合わせて、米国のイラク侵略戦争に陸上自衛隊を派遣し、自衛隊を海外の紛争地域に派遣してきた。

日本は2014年に日米の外務・防衛閣僚(2プラス2)による安全保障協議委員会がとりきめた日米防衛協力の指針(日米ガイドライン)で、米軍への支援を約束しているからである。これを実行するために安倍政権が15年に強行したのが安全保障法制である。

アフガニスタン戦争では、自衛隊艦船がアフガンを爆撃する米軍航空機にインド洋上で燃料を補給するなど、日本の領域から遠く離れた地点で米軍を支援してきた。今や地球上のどこでも自衛隊が米軍と共同作戦するための訓練がくりかえされている。
自衛隊は台湾海峡で中国軍と戦うか

日米政府は22年1月7日に行われた日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、日米両国が共同行動をとることを約束しあった。中国が東シナ海、南シナ海とともに台湾海峡で「挑発的な行動によって緊張を高めている」「地域における安定を損なう行動を抑止し、必要があれば対処するために協力する」というのである。

そして今や、佐藤正久自民党外交部会長ら自民党幹部や防衛省出身者が、台湾海峡紛争への自衛隊派兵を公然と主張するまでになっている。彼らによれば、自衛隊が台湾海峡に派遣されれば、自衛隊は米軍の指揮下で中国軍と戦うことになる。

米中はかつて1950年6月に始まった朝鮮戦争で戦い、双方に多くの犠牲者をだした。しかし、その後は戦ったことがない。もし戦えば、想像を絶する多大の犠牲や損害が出ることを、双方がよく知っている。

そこから、両国とも相手の出方を探りながら、そして互いに最新兵器の開発・保有を含む軍事力の強化に努めながらも、ことを構えることには慎重にならざるを得ない。

しかし、日本では、政府・防衛省やマスコミ、論壇では、米中関係が緊迫しており、米国と同盟関係にある日本としても防衛力を強化し、米軍と共同作戦する態勢強化を急ぐ必要があるという議論が盛んである。

防衛省発行『防衛白書』2022年版は、南シナ海、台湾、香港、ウイグル・チベットをめぐる人権問題などで米中両国の戦略的競争がいっそう顕在化し、互いに妥協しないと主張している。

日本列島の全域と周辺で繰り返される米軍と自衛隊による共同訓練は、必ずといってよいほど、「中国を念頭に」と書かれている。中国との紛争を理由に軍事力増強・戦争態勢強化をはかるのは、戦前いらいである。

Japan Maritime Self-Defence Force submarines shares the dock with a US Navy Destroyer in the harbor at Yokosuka, Japan.

 

米中両国は互いに覇権主義を競いながら、世界の安全保障や経済に強力な支配力をもち、互いにその有利さと利益を放棄しようと考えていない。グローバルに投資や企業活動を行う大国として、資本の自由な活動とそれを支える世界の安定と秩序を維持することが両国の利益になる。この点では米中は相互に依存しあい利害を共有している。

〇憲法9条を守って東アジアの各国と連帯

日本は、かつて朝鮮半島、中国大陸、さらに東南アジア諸国に軍隊を送って侵略戦争を進め、現地の人々に耐えがたい苦痛を強いた。これらの国々は、学校教育でその歴史を子どもたちに教え、あるいは記念館をつくって展示している。

東アジアの諸国民と将来にわたって平和と友好の関係を維持するためには、侵略戦争を進めた日本がその事実を忘れないで、世代間で継承することが必要である。筆者(末浪)は中国、シンガポールなどこれらの国々を訪れて、現地の人々と交流して、そのことを痛感した。

アジアの人々、とくに知識人は、アジアと日本のそうした歴史を知っている。

Asian business person laying hands on the table

 

日本国憲法、なかでも第9条を厳守することは、日本とアジア諸国が将来にわたって有効的な関係を維持し発展させるために欠かせない。

米国の有力新聞「ニューヨーク・タイムズ」4月12日付は「日本、平和憲法改廃に動く」という見出しの大型記事を載せ、9条の積極的意味を明らかにするとともに、岸田政権がその改廃に動いている事実を指摘して、日本国民が各地で憲法9条を守る運動を進めていることを紹介した。9条を守る日本の運動は海外でも注目されているのである。

日本は、かつてアジアを侵略して世界を相手にして戦争したことに対する反省にたち、憲法9条を守り、日米軍事同盟から決別しなければならない。そうしてはじめて、アジアの人々は日本を信用して、東アジアで平和の共同体をつくろうということになるだろう。

 

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末浪靖司 末浪靖司

1939年 京都市生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。著書:「対米従属の正体」「機密解禁文書にみる日米同盟」(以上、高文研)、「日米指揮権密約の研究」(創元社)など。共著:「検証・法治国家崩壊」(創元社)。米国立公文書館、ルーズベルト図書館、国家安全保障公文書館で日米関係を研究。現在、日本平和学会会員、日本平和委員会常任理事、非核の政府を求める会専門委員。日本中国友好協会参与。

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