【連載】安倍晋三の射殺と三代の腐れ縁(藤原肇)

第3回 安倍晋三の射殺と三代の腐れ縁②

藤原肇

20世紀の最後の時に、密室の五人組が日本で清和会のクーデタを挙行し、ロシアではエリツェンからプーチンに権力の移管が行われて、独裁政治への転換が進み、歴史に強い衝撃を与えた。そこで、ロシア政治が専門である、木村汎元北大スラブ研究所長と「プーチン・ロシアの新世界戦略と題し、2004年に試みた対談の一部を『ニューリーダー』誌から引用する。

 

木村:これまではエリツィン系と「シロビキ」の2本の足の上に立ち、両勢力の均衡を取って無難にやってきたが、これからは一見すると独裁的にやれそうでも、1本足ではバランスの均衡が不安定だから、ちょっとしたことで失敗する危険も大きい。

藤原:文明の利器はすべてがバランスの上に機能している。船は推進機とともに左右を決める舵があるので直進できるし、自動車は舵に相当するハンドルの他にアクセルとブレーキがあり、そのコントロールで安全運転が成り立つ。今までのプーチン政権にはブレーキとアクセルがあったのに、選挙の大勝でブレーキがなくなってアクセルだけになった。アクセルを踏み込めば加速はよく馬力も出るが、カーブやデコボコ道という状況で注意しないと命取りになる。

木村:その比喩はわかりやすいし説得力を持っている。というのは、「シロビキ」は強いロシアを求める国家主義的な考え方が支配的だし、プーチン自身も「強いロシアの再建」を目指しており、チェチェン征伐を断行した政治家だからです。

藤原:対立するものが均衡による調整を通じて共存し、乾坤一擲の知恵がスムーズに働く。その意味では、反対勢力が健在であることは破局の予防になる。民主主義を多数決や参政権に短絡するのではなく、与党の政策案と野党の対案がぶつかることで、よりよい政策を作り上げるのが民主主義だから、自由な発想と実際的な課題の実現を目指して話し合うことです。だが、このプロセスをまどろっこしいと考える権力者は、どうしても反対勢力を一掃しようとするし、結果的に独裁化して破滅したのが歴史の教えです。

木村:なるほどね。それに似た考え方に基づくと思いますが、今がプーチンにとって最も大きな力を誇るピーク時です。これから増長して独裁者の道を突き進めば、数年以内にロシアは再び混乱するという人もいる。ただ、問題はプーチンらが属している「シロビキ」をどう制御するかです。

ここにきて政治エリートの中に勢力を拡大しており、行政管区の全権代表の7割、安全保障会議のメンバーの6割近くが「シロビキ」の出身で、各省庁の次官の3分の1が「シロビキ」系です。しかも、ほとんどが強いロシアを目指す民族主義者として、ソ連邦の解体が間違った決定で遺憾だと思っている。領土の保全はもちろん旧領土の再統合を打ち出し、そのために国権の強化による大国上義路線を主張しています。

ここで改めて注記を書けば、オルガルヒはエリツィン系列で、ユダヤ系の人脈に属しており、木村先生が言う「シロビキ」は、かってのKGB仲間に属して官僚系のロシア人が多いが、ユダヤ人も混じっている。また、オルガルヒはユダヤ系に属すが、イスラエルの国籍を持ち、インテリが圧倒的に多い上に国際舞台で活躍しており、英米やウクライナに住んで、国際金融組織網に密着するし行動範囲も世界的である。

更にロシアの石油資源を始め、「シロビキ」問題に関して次のような議論を行っているのだが、これだけの分析は当時は皆無だったから、記録のために収録してみる。なぜならば、20年後になって起きた、ウクライナ戦争の前段階で、ロシアの石油や天然ガスが果たした役割に関して、今でも当然知らなければならないのに、論じる人が誰も日本にはいないからだ。

藤原:タリバンを口実にアフガニスタンを攻撃したのは、トルクメニスタンの天然ガスをパキスタンまでパイプラインで運ぶ、UNOCAL(カリフォルニア・ユニオン石油)を中心にした、セント・ガス計画を実現するためでした。米軍はタリバン政権を粉砕してアフガンを占領し、傀儡政権がアフガニスタンを支配する形になったが、現実には、首都の周辺を支配しているだけに過ぎないので、パイプラインはできないとプーチンは読んでいる。だから、トルクメニスタンの天然ガスを「ガスプロム」に扱わせ、欧州各地にガスパイプライン輸送網で、販売させようと考えており、宿敵の「ユコス」に徹底的な弾圧を加えている。

木村:話の筋道としてはその通りですが、その背景にはプーチンと結ぶ「シロビキ」に対して、国有企業を民営化の混乱に乗じて手に入れた、ユダヤ系新興財閥の「オリガルヒ」の拮抗がある。だから、プーチンは大統領に就任した時に、「オリガルヒの一掃」を宣言した。英米資本と結ぶ「オリガルヒ」とクレムリンの対立は、ここにきてプーチンの攻勢による、ユコス事件を生んでいる。石油王でロシア最大の富豪のボドルコフスキーが、横領と脱税で捕まったのもそのためで、経済分野の支配権を巡る混沌が続いている。

藤原:ガスプロムは世界最大の天然ガス会社として、ヨーロッパ向けのパイプライン網を独占している。世界の天然ガスの埋蔵量の三割近くを握っているし、ロシア国内のガス生産のほとんどを支配している。このガスプロムをプーチンが抑えているが、その他の石油会社は民営化で「オリガルヒ」の支配下にあり、株主や経営者のほとんどがユダヤ系なんですね。レーニンの革命の中核がユダヤ人だったように、ソ連解体後のロシア経済の支配者がユダヤ系だというのは、実に意味深長だと言えそうだ。

木村:ユダヤ系は幅広い人脈と国際感覚が豊かだし、プロフェッショナルやビジネスの分野に多くの人材を確保しており、とくに金融は得意にする分野の代表だ。だから、経済が混乱している時に上手に立ち回り、民営化した企業の上層部やメディアを支配しているのです。

藤原:科学や技術分野の権威も多いから、ロシアの石油会社のトップは圧倒的にユダヤ系が占めている。ユコスの社長のホドルコフスキーやチュメニ石油のフリードマンを始め、シベリアのシブネフチ石油のアブラモビッチとか、シブネフチ石油のベンソフスキーなど軒並みユダヤ系です。

カザール王国は今のウクライナで、昔のキエフ・ルーシからロシアが生まれており、アシュケナジ系においてユダヤ系の歴史で見れば、ウクライナとロシアは兄弟だし、コインの裏表の関係である。それはArthur Koestlerが書いた『The Thirteenth Tribe』が秘密を暴露しており、アシュケナジの起源は改宗したトルコ人の系譜で、イスラエルのユダヤ人とは違い闇のユダヤ人に区分される。

しかも、イスラエルで自由を信奉するユダヤ左派が、米国のネオコンと結んだのに対し、ロシアのプーチンに近い統制と秩序を指向する者は、ユダヤ右派に接近している。だが、イスラエルの奥の院である最高裁判権を持っている、サンヘドリンの段階では、右派も左派も同じようにカバラの思想で統一されて、カバールの影が見え隠れする。

この構造による戦略によりバルカン半島の内戦が起き、地中海から黒海にかけて世界の政治が動いたことで、旧ソ連諸国のカラー革命やジャスミン革命を炎上させ、21世紀を騒乱で包んで行く。そして、行きつく先が黒海であり、その後のウクライナ戦争に続いて行くのであるが、プーチンとブッシュの背後にはハバット・マフィアがいて、歴史を操る形の陰謀論にしか登場しない。

テレビに出るコメンテータは、ほとんどが知名度で売る、タレントや学者か官僚OBだし、U-Tubeの常連も半素人で、切り貼り知識の受け売りで稼ぎ、問題の本質を見抜く力がない。日本には本物を見抜く人が、ディレクターや編集者に不在で、総合的な判断力を持つ人が誰かの情報力がないので、二流のタレントのお花畑になり、まともな番組が存在しない不幸がある。

21世紀が始まりブッシュ一家が世襲して大統領が私物化されたが、どさくさ紛れに9.11事件が起きたので、ネオコンが我が物顔でホワイトハウスに君臨し、米国を侵略戦争に駆り立てた。NYでの同時多発テロはアルカイダの仕業とされ、ブッシュ新内閣は勇み立ち報復を口実に使い、アフガン攻撃を開始したが、これはネオコンにとって待望の軍事行動だった。

新世紀と共に誕生したブッシュ(子)政権はネオコンの巣窟であり、副大統領のチェニーを始めラムズフェルド国防長官もワーモンガー(戦争屋)で、彼らの部下にネオコンの猛者がいた。それは『ニューズウィーク』に次の記事があって、概要について理解できるが、強硬派の大将格はウォルフォウィッツであり、シカゴ・ボーイズで知られたシカゴ大学のOBである。

「・・・ブッシュ政権が主知派でないのは、周知の通りであるが、ウォルフォウィッツ国防副長官、フェイス政策担当国防次官補、リビー副大統領首席補佐官のように、ホワイトハウスや国防総省で、ネオコンが重要なポストにある。・・・」

ネオコンという政治集団は、第二次世界大戦前トロッキーの思想に基づき、世界的な規模での実現を狙う共産革命の一環として、連続革命を旗印に使った市民運動を起源に持つ。この革進運動の砦はNYの市立カレッジで、ユダヤ人が中心で民主党を動かしていたが、1980年代になると共和党の中に浸透して、レーガン政権に影響を与えた。

ブッシュ(子)政権はNYでの9.11事件を契機に、チェイニー副大統領が大量破壊兵器を口実に使い、イラクを犯罪国家と決めつけ、フセイン大統領を処刑したが、これはネオコンによるデッチ上げだった。アフガンやイラクで戦争が続いて、ネオコンの侵略路線が拡大し、破壊と殺戮が続く中で株式市場が乱降下したが、米国の国力は着実に衰退し、その隙に中国が躍進していた。

ネオコンが狙ったのは紛争拡大で、兵器の売り上げで軍産複合体が稼ぎ、商売をすることと同時に石油や鉱物資源を確保して、破壊した国の復興事業を通じビジネスするのが目的だった。だから、副大統領になる前にCEOだった、チェイニーのハリバートン社を始め子会社であるKER社は、国防総省から随意契約により莫大な業務を請け負い、巨大な利益を上げていた。

戦争は破壊と殺戮によって、支配権を拡大する行為でその被害は絶大だが、よりソフトで小規模な形で展開するシカゴ学派の「ショック・ドクトリン」は、南米各地で理論づけと実験が行われた。しかも、戦争が非対象型になって、中東での紛争は侵略者は戦争をしたが、非力な原住民はテロを武器に戦う方式が一般化しており、それが戦禍を複雑なものにしている。

イラクやアフガニスタンで展開した戦闘は、非対象型の戦争であり、戦禍はバルカン半島を経由して北アフリカでの革命を生み、ネオコンによる世界制覇は悪足掻きそのものだった。だから、戦争か紛争か分からない中途半端な事変が続き、大衆はそれをテレビで眺め他人事と見ていたが、突然ウクライナで始まった本格的な戦争を目撃し仰天した。

新世紀の最初の20年間は世紀末の延長であり、爛熟した資本主義は腐敗して規範やモラルを失い、ひたすらカネ儲けのために妄動する時代性が、まやかしと詐欺を蔓延させた。しかも、急激な形で情報革命が指数関数的に進展み、新時代の技術への対応で情報格差が生まれ、旧式の枠組みや価値体系が崩れて、急速なパラダイムシフトが進行した。

しかも、この時期はネオコンが全盛を満喫した時代で、したい放題がやれた上から、グローバリズムを謳い上げたGAFAが、世界の市場を制覇し続けて、巨大な簿価資産に胸を張っていた。だが、簿価資産の評価は株価で計る数字に過ぎず、生産能力や実力には無関係な虚構の数字だし、そんなものに頼っている限りは、バブルに陶酔するのと同じである。

戦争で兵器が売れ軍需産業は活況を呈し、特需景気に浮かれ出すが、戦時景気が生む富に較べ戦争の凄まじい破壊力は、戦禍による損失と債務の形で、その数百倍の大きさで惨状を拡大する。目先の利益に目が眩み米国を動かすネオコンは、世界各地で紛争を拡大し続けることで、一時的な好況と引き換えに国力を衰退させて、自らを破局の淵に追い込むのである。

 

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藤原肇 藤原肇

フリーランス・ジャーナリスト。『皇室の秘密を食い荒らしたゾンビ政体』『日本に巣食う疫病神たちの正体』など著書多数。海外を舞台に活躍する。

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