「対テロ戦争」からウクライナ戦争まで貫く米国の欺瞞性(下) ―イスラム過激派やネオナチと連携する「民主主義」の虚構―
国際冒頭写真:1983年に、ホワイトハウスにアフガニスタンのイスラム過激派を招待した大統領のレーガン。当時、旧ソ連軍と戦っていたアフガニスタンのイスラム過激派からタリバンやアル・カイダが誕生したが、米国は彼らを「自由戦士」と呼んで支援していた。
世界は21世紀に入った直後から、四半世紀に満たない間に「対テロ戦争」とウクライナ戦争を経験した。そこで改めて露呈したのは、これまで述べてきたように米国の飽くことのない支配欲と、それを実現するためには手段を選ばない二枚舌でエゴイスティックな作為の集合であった。
そして最近も、米国のそのような実態を見せつけられる事例があった。一部から「偽善の新たな高みに到達した」(注1)と酷評された、米国主導でオランダや韓国等の他の4カ国との共催による3月29日から30日にかけての「民主主義サミット」なるイベントに他ならない。
2021年12月に続き、今年で2回目となったオンラインの「サミット」には、約120カ国・地域の首脳らが参加。だが戦後、米国が世界各地で「民主的」に選出された政府を直接・間接に転覆し、代わって自国の意に沿った「非民主的」な独裁政権を樹立・支援してきた歴史を振り返るだけで、「民主主義」を口にすることのおぞましさは自明だ。
この「サミット」には米国が2022年の『国家安全保障戦略』で「権威主義」というレッテルを貼ったロシアや中国のみならず、米国の「非民主的」な経済制裁で痛めつけられているキューバやベネズエラ、ニカラグア、イラン、シリアといった諸国は招待されてはいない。当然ながら「ウクライナにおけるロシアへの米国とNATOの戦争、あるいは中国に対する米国の軍事増強を支持しているか否かに基づいて招待される国が決定した」(注2)とされる。
最初から一見高尚な理念とは無縁の米国が演出した政治工作でしかなく、論ずるに値しないと一笑に付すのも可能かもしれない。だが見逃せないのは、米大統領ジョー・バイデンの冒頭のスピーチで「ロシアのウクライナに対する残忍な侵略戦争を非難し、ウクライナの民主主義を守る勇敢な国民と連帯する、民主主義諸国による前例のない団結」(注3)を呼び掛けている点だ。無論、ウクライナは「ヒーロー」のような扱いで招待され、大統領のウォロディミル・ゼレンスキーがスピーチで「武器支援」を呼び掛ける機会も与えられた。
米国は冷戦期に「自由主義対共産主義」という二項対立の図式を振りまいたのに続き、「新冷戦」(冷戦2.0)と呼ばれる現在は、ウクライナ戦争を奇貨とし「民主主義対権威主義(独裁主義)」というそれを持ち出してイデオロギー的粉飾に一層力を入れている。
しかもウクライナ戦争をめぐっては、欧州におけるマルクス主義再構築の旗手の一人と見なされているあの哲学者スラヴォイ・ジジェクですら昨年7月、英『ガーディアン』紙に「平和主義はウクライナ戦争に対する誤った回答である」(注4)と題した論考を載せ、「左派」の立場から「世界の自由のために戦っている」とするウクライナとゼレンスキーの無条件支持は「最低限の義務」であると主張。しかも、NATOの強化すら訴えるまでの事態となっている。
「民主主義」とは程遠いウクライナの実態
ジジェクの言説には、2014年2月のキエフにおける米国が裏で支援し、ネオナチが主導したクーデターを始めとする歴史的考察がほぼ欠落しているのには驚くしかない。ところがそれは、欧州のみならずわが国も含めた西側諸国の大部分の社会民主主義政党や共産党に加え、「左派」や「リベラル」と目されてきた潮流の多数の主張と重なっている。そのため「最低限の義務」として課せられているのは、「民主主義」(あるいは「自由」)を米国の意に従わないロシアや中国の「権威主義」に対置し、自国主導の世界秩序形成を正当化する米国の試みへの批判だろう。
そもそもこの「サミット」がウクライナを前面に出したこと自体、本来なら甚だしい自己矛盾のはずだ。なぜなら米国務省自身が2021年にウクライナの人権状況に関し、冒頭で「重大な人権問題」として「違法または恣意的な政府またはその代理人による超法規的殺害を含む(反政府勢力への)殺害、拷問による被拘禁者に対する残虐な、非人道的な、または品位を傷つけるような扱いや処罰、過酷で生命を脅かすような刑務所環境、恣意的な苛酷で生命を脅かすような刑務所の状況、恣意的な逮捕や拘禁」を列挙しているからだ。(注5)
さらに「ロシア主導のドンバス紛争における、(親ロシア派住民への)身体的虐待を含む深刻な虐待。
表現の自由とメディアに対する深刻な制限。(国内の)ジャーナリストに対する暴力や脅迫、ジャーナリストの不当な逮捕や起訴、検閲など表現の自由やメディアに対する深刻な制限。インターネットの自由に対する深刻な制限。難民の生命や自由が脅かされる国への強制送還。政府の深刻な腐敗行為、ジェンダーに基づく暴力に対する調査や説明責任の欠如。反ユダヤ主義を動機とする犯罪、暴力、暴力の脅し。反ユダヤ主義を動機とする犯罪、暴力、暴力の脅し、障害者、民族的障害者、少数民族のメンバー、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、セクシュアルの人々を標的にした暴力や暴力の脅威を伴う犯罪、最悪の形態の児童労働の存在」等々と、ありとあらゆる悪行を取り上げて具体例を記述している。
しかも「政府は一般に、虐待を犯したほとんどの役人を訴追または処罰するための適切な措置を講じなかった」と警告されているが、米国自身が事実確認しているこうした国のどこが「民主主義」なのか。しかもゼレンスキーはすでに2021年の段階で、「反ウクライナ」「ロシア協力主義者」というレッテルを貼り最大野党の「野党・プラットフォーム 生活のために」を始めとした計11政党を活動禁止処分にした。のみならず主な3つのテレビ局を閉鎖に追い込んで1つの国営放送に統合したが、とうの昔に「民主主義」を自称する資格を喪失している。
米国が支援し、利用したイスラム過激派
加えてこうした目を覆うような人権侵害と権力の乱用は、とどまるところなく悪化の一途をたどっている。その新たな典型は、6月22日にゼレンスキーが署名した「ロシアとベラルーシの出版製品をウクライナに輸入・流通することを違法とする法律」だろう。さすがに同国の外務省が「意見の自由、少数民族の権利の保護、言語に基づく差別の禁止など、人権分野におけるEUの規範や基準を満たしていない」(注6)との理由から、署名の拒否を勧告していた。
だが同法は昨年6月にウクライナ最高議会で採択されており、それ以前にクーデター直後の2014年2月23日に、誕生したばかりの極右政権が、元大統領ヴィクトル・ヤヌコーヴィチが法制化したロシア語等の少数派言語を公用語とする2012年の「キヴァロフ・コレスニチェンコ法」を廃止している。こうした一連の措置は、2014年以降のウクライナ政府がレイシズム(人種主義)に立脚しているという事実を明白に示している。
このように米国は、プロパガンダの次元で「民主主義」を唱えながら、公認の「民主主義」や「自由」とはおよそ程遠いはずの暴力と憎悪、非寛容を特徴とする集団を工作員(asset)として自国の政治目的のために利用している事実を見逃すことはできない。
すでにこのシリーズの(上)で触れたように(注7)、米国が「テロリスト」と定義するアル・カイダやIS(「イスラム国」)といったスンニ派(特にワッハーブ派)のイスラム過激派との公然たる結託はその典型だ。
米国のCIAは1970年代後半から1990年代初期にかけてアフガニスタンに侵攻した旧ソ連軍と戦わせるため、ムジャヒディン(聖戦士)と呼ばれる同派に対し、戦後における「第三世界の反乱に対する最大の支援」とされた「サイクロン作戦」(Operation Cyclone)を展開。数十億ドルを投じて数千トンの武器・弾薬を供与して旧ソ連軍とアフガニスタンの社会主義政権を敗北させたが、周知のようにアル・カイダやISはこのムジャヒディンから派生した。最初から米国諜報機関とイスラム過激派は、現在のシリアでも再現されているように共存関係にあったといえる。
現に2017年1月23日には米下院議会で、議員のトゥルシー・ギャバードにより、「アル・カイダ、ジャバト・ファテ・アル・シャーム(注=シリアのアル・カイダ)、イラク・レバントのイスラム国(ISIL)、またはそれに関係する個人または団体。かかる団体と協力し、またはその支持者」に対する「政府機関の資金を使用することを禁止」する旨の「テロリスト武装禁止法(Stop Arming Terrorists Act)」案が提出された。
これはギャバードが断言しているように、米国政府が「シリア政府を打倒するために、テログループに直接的および間接的な支援を提供」し、さらに「テロ組織と直接協力している同盟国、パートナー、個人やグループに資金、武器、情報を提供することで密かに支援」(注8)という立法事実が明確に存在していたからだ。
法案自体は下院で共同提案者は14人に留まって未成立に終わったが、ここで特定されたイスラム過激派への米国の「直接的および間接的な支援」はシリアに限らない。米国は、こうしたイスラム過激派との戦いを名目に掲げて介入した中東を主戦場とする「対テロ戦争」を仕掛け、ウクライナ戦争でも同じような図式を再現している。
ネオナチもイスラム過激派も「コインの裏表」
米国が戦後、ナチスドイツ協力者としてユダヤ人やポーランド人の大量虐殺に手を染めたステファン・バンデラらを匿いながら対ソ連破壊工作で利用し、その後も2014年2月にバンデラの末裔たる極右・ネオナチ勢力と連携してクーデターを成功させた経過については、これまで幾つかの記事で触れてきた。(注9)そして現在、同じassetのウクライナのネオナチとイスラム過激派(特にISとアル・カイダ)の類似性が論議されるようになっている。例えば米国のジャーナリストで『シリアからの声』(Voices from Syria)等の著書があり、Global Researchを中心に執筆活動を続けているマーク・タリアーノは、「中東のIS/アル・カイダとウクライナの『ネオナチ』:帝国のコインの裏表」と題する以下のような論考を発表している。
「欧米が支援するIS/アル・カイダと、欧米が支援する(ウクライナの)ネオナチは、同じ帝国のコインの裏表である。いずれも西側のモラルの低下、国際法の蔑視、反生命の核心から生まれたものだ」
「(イスラム過激派の)テロリストは侵略のための偽の人道的口実として機能し、侵略や経済戦争が定着する前から、標的国を破壊するための代理人として機能する。……NATOとその同盟国は、2014年に西側諸国が正当なウクライナ政府に対して起こしたクーデターの腐った果実であるキエフのネオナチを、同じようなやり方で利用している」(注10)
タリアーノは「帝国」の最終目標が「世界征服」にあると見なすが、一極主義や覇権主義、あるいは帝国主義という語で表現される米国の軍事外交方針にとって不可欠なのは、「民主主義」や「自由」といった自国の粉飾と擬態目的のプロパガンダだけではない。こうした「公式理念」とは真逆に位置する宗教的あるいは政治的な狂信者も同じく必要とする。なぜなら「世界征服」などという目論見はドイツ第三帝国の「東方生存圏」とも共通した狂信の産物である以上、「国際法の蔑視」や「反生命」的な諸価値に基づく尋常ならざる手段によってしか達成できないことを熟知しているからだ。
実際に米国は、イスラム過激派を口実にすることによってのみ「対テロ戦争」を実現できた。その後もイスラム過激派を利用して世俗主義政権のリビアを破綻国家に転落させ、イラクに再軍事介入し、のみならずかつてのイラクと同じくアラブ民族主義と社会主義の結合を理念とするバース党支配のシリアを分割状態に追い込めた。
こうした中東での策動に連続して、米国はロシアを抑制されない憎悪とレイシズムの対象とするウクライナのネオナチを籠絡したからこそ、ロシアとの共存とNATO非加盟を方針とした元大統領ヴィクトル・ヤヌコーヴィチを暴力で打倒できた。さらにその後も、2015年2月に調印されたミンスク2によるドンバスの和平達成を妨害し、ロシアとの対立を煽れたことで、長年計画していたウクライナを正面に押し立てての戦争にロシアを巻き込むことができたのだ。
米国のassetと共通する自身の狂信性
こうした経過から、同じassetとしてイスラム過激派とネオナチに何らかの親和性、あるいは共通性があっても不自然ではない。例えば今年1月までゼレンスキーの側近中の側近としてウクライナ大統領府の顧問を務め、極右政治家としても知られるオレクシー・アレストビッチは昨年4月14日、ウクライナ国内のテレビ局の政治トークショーに出演した際に以下のように述べている。
「ISの指揮官は、現在存在する指揮官の中で最も賢明で成功した指揮官の一部であると考えられている。残虐性の程度に至るまで、すべてが詳細に考え抜かれている。見せかけの残虐さ、それは非人道的だが、非常に高いレベルである」
「彼らは非常に正しく行動している。私はISのビジネス運営の好例、統治方法を詳細に分析したノートさえ持っている。たとえそれがテロリズムや中世レベルの軍事行動を意味するとしても、それらの手法、世界はそれらを必要としている」(注11)
こうした放言の主が大統領の側近中の側近だとされる国の「民主主義」や「自由」の実態を想像するのは難くないが、バンデラのような人物が事実上「民族の英雄」として「名誉回復」されているウクライナならではのスキャンダルだろう。だがアレストビッチのみならず以前から極右やネオナチ、さらには白人至上主義者とISを始めとしたイスラム過激派との間の理念的接近、あるいは共振現象に関しては少なからぬ論文・記事が発表されている。そしてより重要なのは、繰り返すように米国が既存の秩序を破壊して自国の支配欲に沿った別の何らかの政治環境を構築しようとする場合、こうした狂信者を躊躇なく利用し、支援している実態にある。
視点を変えれば、米国がイスラム過激派やネオナチと有する関係は「コインの裏表」というよりも、むしろ同じ狂信者としての一体性という面がむしろ重視されるべきかもしれない。この三者に共通しているのは、自己の何らかの志向、欲望が、人権や平和、人道主義、法の支配といった普遍的諸価値によって拘束されることへの強烈な拒絶感だろう。その根底には、自己にだけ何者からも妨げられない特権的な使命がアプリオリに付与されているという独善意識がある。米国の「例外主義」は、その典型だ。
米国が目指す「世界征服」(あるいは「全領域支配)が、ISの「イスラムのカリフ制樹立」、ウクライナのネオナチの「東欧における白人至上主義の独裁樹立」(注12)と同様に、競合者の存在やそれとの共存を拒否する非寛容という点で見事に一致するのは奇遇ではない。かつてポール・ウォルフォウィッツを始めとするネオコンの狂信者が「潜在的な競合他者がより大きな地域的または世界的な役割を志向することを阻止する」と公言した『1992 年防衛計画ガイダンス草案』(注13)はブッシュ(父)政権で公式文書にはならなかったが、世界の多極化を決して許容しない今日の米国の「一極主義」はいささかの揺らぎも見せてはいない。
米国が他の二者と異なるのは、建前上あからさまに近代的諸価値を否定できないがゆえの、「民主主義サミット」に象徴される粉飾と擬態目的によるプロパガンダ工作の懸命さだけだ。米国がassetを使うことに何の躊躇もないのも、本質的に狂信性で共通しているからだろう。無論、同じ狂信性でも米国のそれが、世界にもたらす破局的な破壊力で他の二者と比較を絶しているのは言うまでもない。
(注1)March 29, 2023「Washington’s Summit for Democracy reaches new heights of hypocrisy」
(注2)(注1)と同。
(注5)「UKRAINE 2021 HUMAN RIGHTS REPORT」
(注6)June 22, 2023「Zelensky bans Russian books」
(注7)成澤「『対テロ戦争』からウクライナ戦争まで貫く米国の欺瞞性(上)―事実が示している『テロリスト』の庇護者、『仲間』としての米軍―」
(注8)December 10, 2016「Rep. Tulsi Gabbard Introduces Bill To Halt U.S. Arms Supplies To Syrian Allies」
(注9)米国とウクライナのネオナチの関係については、主要には成澤の以下の記事を参照。
「改めて検証するウクライナ問題の本質:XIII NATOの秘密作戦Stay-behind の影(その1)」
「改めて検証するウクライナ問題の本質:XIV NATOの秘密作戦Stay-behindの影(その2)」
「改めて検証するウクライナ問題の本質:XV NATOの秘密作戦Stay-behind の影(その3)」
「改めて検証するウクライナ問題の本質:XVI NATOの秘密作戦Stay-behind の影(その4)」
「改めて検証するウクライナ問題の本質:XVII NATOの秘密作戦Stay-behindの影(その5)」
(注11)April 14,2022「Zelensky’s top aide shows admiration for ISIS」
(注12)ウクライナのネオナチと米・イスラエル両国との関係について詳しい米国の気鋭のジャーナリストであるマックス・ブルメンソールは、ネオナチが「第二次世界大戦中にウクライナを統治していたナチスドイツの独裁政権をモデルにしている」と指摘している。January18, 2018
「THE US IS ARMING AND ASSISTING NEO-NAZIS IN UKRAINE, WHILE CONGRESS DEBATES PROHIBITION」
(注13)原文は(URLhttps://www.archives.gov/files/declassification/iscap/pdf/2008-003-docs1-12.pdf)を参照。
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1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。