【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第13回 犯人は女性、法医学者2人が鑑定検証結果をISFだけに語る

梶山天

さて、話を対談直後に戻そう。急に本田元教授が思い出したかのように口を開いた。「梶山さんよーっ。私たちが以前危惧していた捜査機関のDNA鑑定独占がもろに今市事件で利用されたね。いずれこのような事件が生まれると思ったんだよ。

司法解剖の確認には来ないし、犯人としてのお目当ての人物のDNA型が出たら、してやったり。そうでなかったら、汚染でも何でも考えてドロー、どうにでもなる。DNA鑑定をし、チェックをする法医学者がいなくなったからやりたい放題だ」。

私も直ぐに反応した。「全くだ。足利事件後の2010年に警察庁が筑波大学ではDNA鑑定はやらせないようにしたとき(梶山天『孤高の法医学者が暴いた足利事件の真実』参照)、本田さんが法医学会に相談したとき学会幹部たちがちゃんと動いていれば、各大学の法医学者から警察庁が司法解剖時に行っていたDNA鑑定を通常の検査項目から外してそれを都道府県警が担うという、いわゆる警察機関の独占対策に先手を打てたと思うよ。

あっそうだ、本田さん。相談した幹部は、今市事件の一審法廷で検察側の証人として出廷して、被害者の解剖もしてないくせに、遺体が見つかった場所で殺害があったのは矛盾しないと証言したというのだろ。控訴審で予備的素因変更を検察が請求して認められたのだから、裁判に利用されて嘘を言ったも同然じゃないか。

検察は権威を傘にきた法医学者を多数出して権力を使って有罪を勝ち取ろうとしたんだ。とんでもない話だよ。警察、検察は証拠を追求するんじゃなくて、違法な手を使ってでも有罪を追求するだからたまらないね」。

私が朝日新聞記者時代の2018年3月に金曜日から出版した「孤高の法医学者が暴いた足利事件真実」には、DNA型鑑定独占がどのようにして始まったかを詳細に描いている。

 

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最後に鑑定結果を隠ぺいした人たちに聞いてもらいたい。

法医学者2人による布製粘着テープのDNA型鑑定結果の検証は1枚、1枚念入りになされ、真実が解明されました。裁判官は騙せてもその道のプロには通じない。全て見破りました。あなたたちは、何のために公務員になったのですか。無実の人と分かってて刑務所におくるなんて人間のすることではありません。

これは、犯罪です。あなたたちにも家族がいますよね。勝又服役囚の母親たち家族が「殺人犯の家族」と世間から冷たい目で見られ、生活の糧である仕事を失い、職を探しても断り続けられて名前まで変えて暮らしていたのをご存じでしょうか。

やっと今職に就いたばかりです。母親は重い病を抱えながらも月に3回は欠かさず、千葉刑務所に息子の無実を祈りながら面会にせっせと通っています。何も感じないのですか。誰が指図したか、いずれわかることでしょう。

写真の布製粘着テープがブルブル震えて「犯人はここにいるよ」と叫んでいるように見えます。「勝又さんは犯人じゃないよ」。何度も通った栃木県日光市の墓地に眠るまだ幼い吉田有希ちゃんの叫び声が聞こえませんか。

今あなたたちにできることは一つ。真実を自分たちで明らかにし、無実の人を救うことです。人として、父親として、良き夫として………。私はそう心から願っています。

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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