【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

第3回 無為無策の岸田内閣支えるキシャクラブメディアの犯罪

浅野健一

・日米共同会見実施で質問に答えない外務省報道課

官庁に支配されたキシャクラブ制度によって、民主主義国ではあり得ない閉ざされた記者会見が続いていることについて、私は6月7日、外務省報道課にファクスとHP「問い合わせ」サイトで質問書を出した。官邸報道室は私の質問書を無視しているので今回は取材をしなかった。外務省への質問事項は次の6項目だった。

①バイデン氏が横田基地を到着・出発に使ったが、どういう手続きで「日本に出入国」したのか。
②同行の米プレスの入国手続き(検疫・税関などを含む)をどこで行ったのか。
③共同記者会見は外務省の所管か。
④会見の日本側メディアの参加者はどのように選んだのか、記者会以外のフリーは参加したか。
⑤会見では、日米それぞれ2人の記者が質問したが、内閣広報官が指名した2人は記者会の幹事社(テレビ朝日と朝日新聞)か。
⑥佐藤千矢子氏が5月24日放送のTBS「ひるおび」で、「昨日(5月23日)の記者会見では、米国記者は大統領に自由に更問い(追加質問)していたのに対し、日本の記者は再質問をしない。これでは、質問内容を事前に官邸に出していると思われてしまう」とコメントしたが、日本側の質問内容は官邸側に伝わっていたのか。

何度か催促したが外務省からは6月18日までに回答がなかった。外務省の報道官は菅政権で内閣広報官を務めた小野日子氏だ。外務省はかつて私の取材に答えていたが、最近は回答を拒んでいる。

・「外務省、官邸に聞いて」としか答えない内閣記者会

内閣記者会(官邸クラブ)にも会見の仕切りなどについて6月11日に質問書を出した。記者会幹事社の朝日新聞(記者名なし)が同月14日回答した。以下は私の質問と回答だ。

―バイデン氏は 5 月 22 日、韓国ソウル近郊の烏山空軍基地から専用機「エアフォース・ワン」で米軍横田基地に到着し、林外相らが出迎えました。米軍基地に到着後、どのように日本国への「入国」手続きがなされたか、不明ですが、横田での取材について、政府から記者会にどのような案内、連絡があったのか。
「外務省報道課にご確認ください」。

―5月23日の日米共同記者会見の司会は四方広報官が務めていた。2020年10月の菅前首相のインドネシア訪問など、首相の海外での記者会見は外務省が所管すると聞いている。5月23日午後、赤坂の迎賓館で開催された日米共同記者会見は外務省が所管したのか。記者会は関与しているか。
「外務省報道課にご確認ください。記者会は所管していません」。

―共同記者会見の日本側メディアの参加者はどのように選ばれたのか。記者会以外のフリーなどは参加したか。
「外務省報道課か官邸広報室にご確認ください」。

―共同記者会見では、日本側と米国側のそれぞれ 2 人が質問した。四方氏が指名した日本側の 2 人は記者会の幹事社(テレビ朝日と朝日新聞)か。
「指名されたのは朝日新聞とテレビ朝日の記者です」。

―佐藤千矢子氏は 5月24日放送の TBS「ひるおび」で、「米国の記者は大統領に自由に更問いし、台湾有事などについて大統領に聞いたのに対し、日本の記者は再質問をしない。これでは、質問内容を事前に官邸に出していると思われてしまう」とコメントした。これを受けて大谷昭宏氏が「安倍政権から更問いが禁止された」と発言した。日本側の質問記者 2 人の質問内容は事前に首相(官邸報道室)側に伝わっていたのか。「更問い禁止」という規則はあるのか。
「取材に関わることについて回答は差し控えます。『更問い禁止』という規則は承知していない」。

―京都新聞日比野敏陽氏による革新懇での発言は事実に反していないか。特に<昨年、地方紙約 20 社で「制限をやめてくれ」と官邸に申し入れたいと全国紙グループに伝えましたが「官邸の記者クラブで一致できない」と言われました>という認識は、事実と違うのではないか。
「ご本人の発言を確認していませんので、回答できません」。

―記者会として、首相会見の参加制限の撤回など、官邸側に要求していることがあれば、そのやりとりを教えてほしい。
「新型コロナの感染で制限された件については、過去に累次にわたり要請しています」。

首相会見での質問の事前提出や更問いについては、「取材に関わることについて回答は差し控えます。『更問い禁止』という規則は承知していません」と回答した。しかし、6月15日の会見でも、10人の記者が質問したが、更問いはゼロだった。官邸側から禁止もされていないのに、追加を質問しない社員記者はジャーナリストと言えるのか。

日本の歴史を大きく変える日米首脳会談で、米国大統領がどういう手続きで「入国」したのかも分からない。日米首脳の記者会見がどういう形式で実施されたかも不明。首相の記者会見は官邸とキシャクラブが認めた29人しか参加できない。日本が「自由で開かれた民主主義の国」ではない。

 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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