【特集】砂川闘争の過去と現在

砂川最高裁判決の黒い霧に挑む国賠訴訟(下)

吉田敏浩

・米軍優位の安保体制と軍事同盟強化への異議申し立て

2014年に当時の安倍政権が、集団的自衛権の行使は違憲という従来の政府見解を180度変えた際、その正当化に砂川最高裁判決を持ち出した。同判決は個別的、集団的を区別しないで、日本国に固有の自衛権があると認めていると主張したのである。そして翌年、集団的自衛権の行使を解禁する安保法制(戦争法制)を成立させるのに利用した。

Interior of an empty courtroom with gavel and sounding block on the desk.

 

しかし、同判決の主旨は「憲法9条は自衛権までは否定しておらず、自衛の措置として他国と安保条約を結ぶことも許される。日本の指揮管理権の及ばない米軍は、9条が禁じた戦力ではない。高度の政治性を有する日米安保条約は、一見極めて明白に違憲と認められない限りは裁判所の司法審査権の範囲外」という点にある。集団的自衛権の行使を認めたわけではなく、そもそも争点になってもいない。多くの憲法学者が指摘するように、安倍政権の主張は曲解である。

前述のように、「同判決が違憲の判決で正当性はないと、司法の場で明らかになれば、そのような違憲の判決に依拠して集団的自衛権の行使容認を正当化した、安倍政権の主張も根本から崩れ去る。砂川最高裁判決の日米安保体制と軍事同盟強化へのお墨付きも失われる。不公平な違憲の最高裁判決が失効し、正当性を失うということは、米軍の駐留は違憲とした『伊達判決』が再浮上することを意味します」。

前出の吉永弁護士がそう指摘するように、それは、基地を自由に運営し、イラク戦争のような日本国外での武力行使にも出動する駐留米軍のあり方を問い直し、日米安保・軍事同盟について再考を迫ることにもつながる。各地でおこなわれている安保法制違憲訴訟にも影響を及ぼすだろう。

田中最高裁長官による裁判情報の漏洩は、アメリカ政府解禁秘密文書の記述から明らかである。それは、今後、国賠訴訟でどのような判決が出るにせよ、動かせない事実だ。

その事実にもとづき、米軍優位の「安保法体系」による不平等な日米安保体制の構造と、集団的自衛権の行使容認など日米軍事同盟強化への根本的な異議申し立てを射程に入れ、三権分立と人権の砦としての司法の覚醒をうながす砂川国賠訴訟の問題提起には、大きな意味がある。

なお、詳細については、拙著『日米安保と砂川判決の黒い霧』(彩流社)をご覧いただきたい。

(完)

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吉田敏浩 吉田敏浩

1957年生まれ。ジャーナリスト。著書に『「日米合同委員会」の研究』『追跡!謎の日米合同委員会』『横田空域』『密約・日米地位協定と米兵犯罪』『日米戦争同盟』『日米安保と砂川判決の黒い霧』など。

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