【連載】ヒューマン・ライツ紀行(前田朗)

第6回 熊本地震とネット上の朝鮮人差別書き込み(その2)―行橋市議ヘイト・スピーチ事件裁判控訴審判決―

前田朗

・対抗言論を実践するために

小坪市議は公人であるにもかかわらず、インターネット上にヘイト・スピーチを書き込み、ヘイト・スピーチを擁護する発言を続けた。

国際社会では悪質なヘイト・スピーチは犯罪とされている。国によって刑罰規定が異なるので一概には言えないが、小坪ヘイト・コラムは「ジェノサイドの煽動」に類する悪質な内容を含んでいる。

News headline labeled “Human Rights”

 

日本ではヘイト・スピーチが犯罪とされていない。それどころか多くの憲法学者が声高に「表現の自由だ」と唱えてヘイト・スピーチを擁護してきた。

人種差別撤廃条約に基づいて設置された人種差別撤廃員会は、2018年8月、日本政府に対して「高い地位にある公人、影響力のある政治家がヘイト・スピーチを非難する発言をしているか」と質問したが、日本政府は答えることができなかった。

2016年のヘイト・スピーチ解消法は「ヘイト・スピーチは許されない」としながら、刑事規制していないため、実際にはヘイト・スピーチを許している。

「ヘイト・スピーチは許されない」というのであれば、首相はもとより、高い地位にある公人がヘイト・スピーチを非難する発言をするべきである。

現にオバマやバイデンなどアメリカ大統領はヘイト事件が発生すると、これを非難する発言をしてきた。2020年~21年、新型コロナ禍でアジア系住民に対するヘイト事件が起きた時、バイデン大統領は現地に駆け付けて、ヘイト事件を非難した。

同様に、記憶に新しいところではドイツのメルケル前首相もフランスのマクロン大統領も、ヘイト事件を非難してきた。

人種差別撤廃委員会は各国政府に対して、公人がヘイト事件を非難する対抗言論を駆使するように求めてきた。

行橋市議会と徳永市議はまさに反差別・反ヘイトの対抗言論を実践した。それにもかかわらず小坪市議から名誉毀損だと訴えられた。この時、行橋市長や福岡県知事は何をしていたのだろうか。

川崎市(神奈川県)における在日朝鮮人集住地区に対するヘイト・デモに関して、川崎市長はこれを非難する発言をした。

宇治市(京都府)におけるウトロ放火事件に関して、宇治市長はこれを非難する発言をした(本連載・第1回「差別犯罪としてのウトロ放火事件――ヘイト・クライムを許さないために」参照)。

自治体首長を先頭に、ヘイト事件を許さない世論を作っていくことが重要である。

この点ではメディアの責任も注目される。

神奈川新聞は川崎市におけるヘイト・デモを取り上げて、ヘイト・スピーカーを批判する記事を書いてきた。このためヘイト・スピーカーから名誉毀損で裁判を起こされた。神奈川新聞記者が徳永市議と同じ立場に立たされ、公益性と公共性を唱えて裁判を闘っている。市民による神奈川新聞への支援が重要である。

 

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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