シリーズ日本の冤罪㉒ 大崎事件:再審開始に向けて積み上がる「無罪」の証拠

青柳雄介

・「供述弱者」

確定後のアヤ子さんは、麓刑務所(佐賀県鳥栖市)に服役。模範囚だったので、刑務所側からは「仮出獄を認める」と言われていた。ただし、それには条件があり、罪を認めて反省文を書くことが求められた。

アヤ子さんはきっぱりと言った。

「やっていないものは反省できません」

Man in prison

 

刑務官から都合3回勧められた仮出獄を断って、10年間の満期を務めた。自白を断固拒絶したこととともに、このことはアヤ子さんの意思の強さを物語っている。

ここで、「自白の信用性」について触れておこう。つまり、共犯者とされた3人の自白に基づく犯行態様、たとえばタオルで首を絞めて殺したということと、解剖により判明した客観的状況との間に矛盾はないのか。

これについて、大﨑事件弁護団事務局長の鴨志田裕美弁護士はこう解説する。

「実は、共犯者は3人とも知的障害や、精神的な障害を抱えていました。こういう人たちは、今では『供述弱者』と呼ばれており、自分を守る力のない人たちとされています。そして、そうした人たちから供述を取る際には、今では検察でさえ録音・録画をしなければいけないと内部通達されている。しかし、当時はそういう感覚がまったくなかった。供述弱者の特徴として挙げられるのは、責め立てられたら絶対に違うと言えないことです。『お前、やっただろう』と言われると『いいえ』とは言えない。一方、『はい』と言えば、『そうだろう』と急に取調官は優しくなる。大崎事件ではそのようにして自白を取られたことが、手に取るようにわかります。供述弱者から供述を搾り取って、一度も自白していないアヤ子さんが有罪になる。これは絶対に許せないことです。そのことが、私が大崎弁護団に入った理由でもあります」

鴨志田弁護士が大崎事件の記録を読んだのは、彼女が司法修習生のときだったという。

「たまたま研修先の弁護士事務所が、この事件の第一次再審請求の時の弁護団長の先生のところでした。そこでの出会いが、私にとっての大崎事件の出発点でした」

 

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青柳雄介 青柳雄介

雑誌記者を経てフリーのジャーナリスト。事件を中心に社会・福祉・司法ほか、さまざまな分野を取材。袴田巖氏の密着取材も続けている。

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