【連載】ヒューマン・ライツ紀行(前田朗)

第1回 差別犯罪としてのウトロ放火事件――ヘイト・クライムを許さないために

前田朗

ところが同年12月6日、京都府警は、奈良県桜井市の22歳の男性Aを、建造物放火の疑いで逮捕した。Aは、同年7月に愛知県で発生した民団本部と関連施設の放火事件で逮捕され、取り調べを受けていたが、その中でウトロにも放火したと自供した。余罪があるため捜査が長期化し、刑事裁判はまだ始まっていない。

ウトロ事件現場②

 

・ウトロの成り立ちと闘い

ウトロ地区は、1940年代、逓信省と国策会社が計画・準備した軍事飛行場建設が進められ、労働者として集められたのが朝鮮から渡日した人々であり、労働者と家族が飯場に暮らした。飛行場が完成する前に敗戦となり、土地は「日産車体」が所有したが、朝鮮人はそのままウトロに住み着いた。

1910年の韓国併合で日本国籍を持たされた朝鮮人は、日本の敗戦、ポツダム宣言受諾からサンフランシスコ講和条約に至る過程で日本国籍を失うことになった。朝鮮半島の分断に伴い、国籍は韓国籍や朝鮮籍となった者も多い。所有権のない土地に居住していたこともあり、行政サービスから除外され、差別と貧困にあえぎながら在日朝鮮人として懸命に生きてきた。

ところが87年、日産車体が土地を売却し、土地が転売された結果、新しい所有権者が住民相手に立ち退き訴訟を起こした。40年、平穏に住み着いて、ようやく暮らしの基盤を固めたウトロの人々の声は聞き届けられることなく、2000年11月、最高裁判所において住民側は敗訴となり、立ち退きを迫られた。

しかし、住民の闘いは支援の輪を広げ、ついには韓国政府も動いた。05年には国連人権委員会の人種差別問題特別報告者も訪日調査の折にウトロ地区を訪れ、その報告書には住民の権利と利益を保護するようにとの勧告が記載された。

長期に及ぶ交渉の結果、住民側が買い取った土地に行政が公営住宅を建設し、住民はそこで暮らすことが認められた。17年末に第1棟が完成し、40世帯が移り住んだ。23年には第2棟が完成予定となった。

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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